思いつきのメモ帳

2015-02-04

[][]1936年に起こった身売りの事例

「当時は貧しかったから身売りは仕方がなかった」には納得できない。に関連して、当時の新聞記事を紹介。※読売新聞データベース「ヨミダス歴史館」で検索したもの。

読売新聞 1936年10月24日 夕刊 二面
貧しき東北から 身売り小隊入京 哀れ少年少女十一人 上野署で発見 直ちに保護

東北にはもう初雪が降った。陰惨な冬がこれから始まる。雪の下にひしがれた東北の乏しい生活、その生活苦の深いためいきが、初雪の便りにのって帝都へ運ばれてきた。十一人の少年少女が売られて来たのである。この季節のかなしい暗い尖兵、快晴の秋空の下に心躍らす都会人よ。東北のこの深いため息が聴こえないか。寒々とした東北の姿が見えないか。

今年は豊年だという北の国からああ今年も冬の足音をのせて“東北凶作一番列車”上野駅にすべり込んできた。二十三日朝七時青森から着いた列車に修学旅行にしては様子の可怪しい十一名の少年少女の一団がいた。乗客や東北線各駅張り込みの警察署員の知らせで上野署保安課の白石、石津両刑が先生(?)格の中年男を調べると、少年六名、少女五名の印鑑証明、契約承諾書、白紙委任状をもっているので直ちに上野署に連行して取り調べた。この一団を引率してきた男は(……)営利職業紹介業松原秋三(四十)で、紹介営業法違反、児童虐待防止法違反および誘拐の嫌疑で厳重に取り調べている。

(……)

何れも山形県尾花澤町の貧農の子弟子女である。松原がこの村を訪れたのは去月二十三日、小作米に追われて豊穣の秋というのにもう家には飯米もなく何れも日給五、六十銭で日雇人夫に出ているというのがこの少年少女の親達の生活である。恐ろしい冬を迎えまだ一人前の仕事も出来ぬこの子供達を抱えた彼らの窮状。そこへつけこんで松原が渡りに船と現れた。
何れも百円から百五十円で東京で小僧、女中、娼妓等に売られる契約を結び五円から十円の支度金を貰い二十二日夜六時山形県尾花澤駅を出発したもので(……)


なお、略した箇所に記述されていた被害者11名の年齢性別の内訳は次の通り。9歳男子1名、12歳女子1名、12歳男子2名、13歳女子1名、13歳男子1名、14歳女子1名、15歳女子1名、18歳男子2名、18歳女子1名。警察官が東北線各駅で張り込んでいたことで発覚、事件化している。事件の背景には都会による農村の搾取、地主による小作農の搾取の構造がうかがえ、冒頭の文章は都会人に警鐘を鳴らすものになっている。

この事件について、丸岡秀子氏の「身売りは宿命か」と題したコラムが読売新聞1936年10月27日朝刊九面(婦人欄)で掲載されている。そのコラムは次の通り。

 小さな荷物を前にして十一人の少年、少女が保護されている。写真の見出しは「身売り小隊入京」とある。人買いに率いられたこの一団は、何れも貧しい東北からわづかの支度金を支給されて、身を売り出てきた貧農の子弟、子女である。偶然表面に浮かんできて世の目に曝された子供たちが、それぞれの方法で善処されるらしい事にホッとしたが、併しこの子供たちの背後にどっさりとうづくまっている目に見えぬ暗いかたまりを、私達消し去ることができようか。これらはこの子供達と同じく売られる以外に残されたどんな方法もない者である。

□―□

 僅か五十銭玉一つを握らされて、どこへ何をしに連れられて行かれるのかもろくろく知らぬ子供達。うまい口に乗せられざるを得ない貧しさの中にいて子供の将来を思いやる余裕もなく自分達の貧しさを何処に何と訴えたらよいかも知らぬ多くの親達。共に貧しさに押しつぶされた姿である。

□―□

 身売りの問題は今更の事ではなくここ数年来各方面から強調され、重大視されて来た。作家は特別に身売話をテーマに描いたし、救世軍や婦人団体の幹部はこれが防止に懸命になり、町には学生がメガホンで訴える時期もあった。世論の昂まりと共に政府も之を捨て置けずと、おそまきながらお定まりの調査からまづ始めた。即ち内務省社会局から昭和十年二月一日現在の「芸娼妓、酌婦、女給の本籍地並に稼業別人員調」というのが発表されたが、これなどはその一つの現れであろう。

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 これによって見ると、全員のこれ等総数は三十三万一千七百二人であるが、この娼妓に東北の娘が一番多く、一万六百十一人で全体の21パーセントを占めている。然もこの娼妓東京が一番多く、九千二百五十人いるが、その中で山形県の者が三千百人という多数に上っているのを見る。
 だが、之までの為政者をはじめとする世論の多くは、この原因を一様に陰鬱な気候や、凶作、水害等自然現象に責任を帰し、結局は宿命論が抑えとなっている。「いくら働いても小作米を納めてしまえば食べる米がない。米がほしい。田がほしい」と素朴な小作人のおかみさんが訴えているが、そこから本当の輿論が昂まって来なければならない時であろう。

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