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塞がれた「眺望」、大通り沿いの店舗物件

2015/2/4 6:30
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 裁判記録をとじた厚いファイルを開き、埋もれた事案に目を向けてみれば、当事者たちの人生や複雑な現代社会の断片が浮かび上がってくる。裁判担当記者の心のアンテナに触れた無名の物語を伝える。

 風光明媚(めいび)な街並み、日差しを受けて輝く海、鮮やかに色づいた並木道――。眺望や景観を享受する権利を主張して新たな建築の差し止めや損害賠償を求める訴訟が、時折話題になる。では、都心の幹線道路沿い、歩行者や車が行き交う眺めは、保護すべき利益として認められるだろうか。

 2010年9月、東京・赤坂見附の外堀通りに面した8階建てのビルの目の前に、東京メトロが歩道と地下の改札口を結ぶエレベーター施設を造った。

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 通りに面したビルの1階は、飲食店テナントを想定して全面ガラス張り。オーナーは店内からの眺めの良さを売り物にし、外の景色が良く見えるように、奥に進むと床が70センチ高くなる設計上の工夫も施していた。インド料理のレストランが30年ほど営業を続け、入り口に掲げられた赤い看板は通りの向かい側からもよく見えた。

■目の前に地下鉄エレベーター建設、テナント入らず

 ところが、高さ約4メートルの箱形のエレベーター施設が完成すると、店内からの視界はほとんど塞がれ、看板も隠されてしまった。計画中の段階でインド料理店が退去すると、都心駅前の一等地にもかかわらず空き店舗に。後継テナントとして話を進めていた大手カフェチェーンとの交渉は決裂した。エレベーター施設が目の前にあることや看板が見えにくくなったことが嫌われたという。

 納得のいかないオーナー側は「眺望も含む営業上の利益を侵害された」として、東京メトロに損害賠償やエレベーターの撤去を求めて提訴。「事前説明の際に電話ボックス程度の大きさにするよう要求し、東京メトロは受け入れた」とも主張した。

 東京メトロ側は裁判で「周辺は商業地で眺望に高い価値はない」と真っ向から反論。「広告」としての看板についても「見やすいかどうかは周囲の状況に大きく左右される」として、法で保護される権利ではないと主張した。オーナー側が訴えていた事前説明の合意についても「面会した事実はなく、あり得ない」と全面的に否定した。

 そもそも「眺望権」は法的に確立された権利ではなく、認められるためのハードルは高い。これまでの判例では「眺望の利益が法的な保護に値するものか」「その場合に被害が我慢の限度を超えているか」が判断のポイントとされている。眺望を売りにした観光旅館などで訴えが認められたことはあるが、「眺めの良さを気に入ってマンションを買ったのに後から目の前に高層マンションが建った」といったケースではなかなか認められないのが現実だ。

■「眺望権」、認定には「特別な価値」必要

 今回の訴訟で東京地裁の判決はまず、争点となった「営業上の眺望利益」と「広告表示に関する利益」について、いずれも「周辺状況の変化によって制約を受ける」と指摘。「眺望や広告に特別な価値がある場合のみ眺望権が認められる」との判断基準を示した。

 では、今回のビル1階からの眺望はどうだったのか。見えていたのは、7車線の幅広い外堀通りを走り抜ける車列や、赤坂見附駅前の歩道を行き交う人々の姿。その先には地上38階のプルデンシャルタワーなどのビルが並んでいる。

 地裁はこうした眺めを検討したうえで、「高い文化的価値や歴史的価値を有する事情はうかがわれない」と判断を下した。広告についても「商業地域の周辺状況が頻繁に変わることは当然想定できる」と指摘し、法的に保護すべき利益ではないと結論づけた。オーナー側が主張した「事前説明」の存在も認めなかった。

 全面的に敗訴したオーナー側は不服として控訴したものの、東京高裁でも判断は変わらなかった。

 高裁判決の前日、空き店舗になっていたビル1階には、約5年4カ月ぶりに灯がともった。テナントとして入ったのはスペイン風の小皿料理を出すバル。賃料を以前より2割近く下げ、ようやく契約がまとまったという。

(社会部 山田薫)

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