シリア:遺跡救って…紛争で破壊危機 日本避難の学者訴え

毎日新聞 2015年02月04日 08時00分(最終更新 02月04日 12時34分)

シリアの現状を話す元アレッポ国立博物館長のユーセフ・カンジョウさん=大阪府吹田市で、三浦博之撮影
シリアの現状を話す元アレッポ国立博物館長のユーセフ・カンジョウさん=大阪府吹田市で、三浦博之撮影

 シリアの主要都市、アレッポにある国立博物館長で、現在は国立民族学博物館(大阪府吹田市)の客員研究員を務めるユーセフ・カンジョウ博士(43)は内戦の続く祖国を心配している。イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)により「殺害」映像が投稿されたフリージャーナリスト、後藤健二さん(47)について「戦火に苦しむシリアの子どもたちのことを伝えていたと聞いた。シリア人にも悲しいことだ」と肩を落とす。一方で「内戦でシリアの世界遺産6カ所は全て破壊される危機にある。国際社会で紛争を止めてほしい」と訴えている。

 カンジョウ博士はアレッポ出身。シリア文化省を経て2010年、国立博物館長に就任した。12年、政権側と反体制派の内戦によって博物館周辺に戦火が迫った。毎日のように銃声が響き、博物館近くで自動車の自爆テロも起きた。迫撃砲の衝撃でガラスは割れ、壁も一部が崩れた。館員らと土のうを積んで収蔵品を守るなどの対応に追われた。身の危険を感じ、13年3月、東京大学の共同研究者のつてを頼って妻子とともに来日した。

 「アレッポにある世界遺産のモスクの塔も倒れた。文明が生まれた地域にある人類の遺産なのに大きな破壊が起きている」。カンジョウ博士は危機感を募らせる。ネアンデルタール人の研究などが専門の化石人類学者で、国を離れた今も館長の立場にあり、現地に残った館員とメールなどで連絡を取り合う。自らのフェイスブックや各地の講演で、シリアの世界遺産保護を呼びかけている。

 だが、内戦は収束せず、状況は悪化している。懸念を深めている時に日本人の人質事件が起きた。「ISが勢力を拡大させた背景の一つにシリア内戦がある。これを止めるため、国際社会が本気で政権側と反体制側に働きかけてほしい」。大阪府内のモスクに毎週通い、遠い祖国の平和を祈っている。【小山由宇】

 ◇日本の考古学界が協力

 シリアと日本の考古学界とのつながりは深い。奈良県立橿原考古学研究所の西藤清秀・技術アドバイザーらによると、内戦直前の2010年には、奈良隊のほか東京大、筑波大など日本の6隊がシリアで調査。01〜10年に日本が関わった西アジア14カ国の遺跡調査のうち25%がシリアだったという。

 シリアには、奈良県が調査したシルクロードの古代都市「パルミラ遺跡」や、「アレッポ」など6カ所の世界遺産があったが、いずれも13年6月に危機遺産に登録された。

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