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 悪夢のような日曜日が過ぎて、月曜朝の通勤電車に乗る。隣の座席は受験生か、懸命に参考書を読んでいる。むかいの座席ではスマホを触っている。「後藤さん殺害」映像、「イスラム国」が公開、という大見出しの新聞を読んでいるのはつり革にぶら下がっているおじさん一人である。にっぽんの日常の風景とおどろおどろしい新聞紙面がいかにもアンバランスである。

 どうしてこんなことになるのか、会社経営者湯川遥菜さんに続いて、フリージャーナリストの後藤健二さんが殺された。あれ、遺体は戻ってくるのかしら、と外務省幹部に聞いてみたけれど、とうてい想定外のことらしい。相手はテロリスト、むろん外務省は接触のパイプなどありませんよ、と説明されれば、なるほどと思うほかない。「健二は旅立ってしまいました」。後藤さんの母の、もう手の届かない息子への思いが胸に痛い。

 しかし、どうしてこんな結末になってしまったのか。安倍晋三首相が明かしたところによれば、以前から政府は2人が拘束されていることを知っていて、ひそかに対策室もつくっていたというのだから、もう少しやりようはなかったのか。安倍さんがテロに屈しないというのはそれでいいと思うけれど、いまひとつ釈然としない。