[PR]

 過激派組織「イスラム国」が、昨年12月に拘束したヨルダン軍パイロット、ムアーズ・カサースベ中尉(26)を殺害したとする映像が3日夜(日本時間4日未明)、インターネット上で公開された。ヨルダン政府は映像は本物とみている。モマニ・メディア担当相は同日、国営テレビで「中尉は1月3日に殺害された」と述べたが、その根拠は示さなかった。

 一方、ヨルダン国営テレビは4日未明、2005年にアンマンで起きたテロ事件の実行犯として死刑判決を受けたサジダ・リシャウィ死刑囚の死刑を執行すると報じた。中尉殺害への報復とみられる。

 訪米中のアブドラ国王はビデオ声明を出し「これはイスラムとは何の関係もない犯罪だ。勇敢なパイロットは祖国のために殉じた」と述べ、国民に団結を呼びかけた。ヨルダン軍は「イスラム国」に対し「懲罰を与え報復する」との声明を出した。

 映像では、オレンジ色の服を着た中尉とみられる男性が「パイロットの家族は息子がイスラムを標的に出撃するのを止めるべきだ。そうすれば、私や私の家族のような目にあわずにすむ」と述べた。男性はその後、覆面をして銃を持った男たちに囲まれ、空爆で破壊されたとみられる建物のがれきが散乱する場所を歩かされたうえ、屋外のおりの中で体に火を付けられた。

 中尉は米軍主導の対「イスラム国」軍事行動に参加して昨年12月24日、ヨルダン軍のF16戦闘機でシリア上空を飛行中に墜落し、拘束された。

 「イスラム国」は1月20日、フリージャーナリスト後藤健二さん(47)と企業経営者湯川遥菜(はるな)さん(42)の拘束を公表。のちにリシャウィ死刑囚と後藤さんの交換を求め、できない場合は中尉を殺害するとした。

 モマニ・メディア担当相は28日、中尉が解放されれば、リシャウィ死刑囚を釈放する考えを示した。その後、ヨルダン政府は中尉の安否を知らせるよう「イスラム国」側に繰り返し求めたが、反応はないままだった。

 「中尉が1月3日に殺害された」とするモマニ氏の発言が事実であれば、「イスラム国」が日本人2人の拘束を公表し、日本政府とヨルダン政府が解放を求めて対応を進めていた時には、中尉はすでに死亡していたことになる。

 中東の衛星テレビ局アルアラビアなどが匿名のヨルダン当局筋の話として伝えたところによると、当局は4日にもリシャウィ死刑囚の死刑を執行するとしていた。(アンマン=貫洞欣寛)