Updated: Tokyo  2015/02/04 12:14  |  New York  2015/02/03 22:14  |  London  2015/02/04 03:14
 

債券市場の救世主か破壊者か-80歳「天才」金融イノベーター

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  (ブルームバーグ):エンジニアのジョン・マックオウン氏は、米サンフランシスコの北の山あいに持つ6.5ヘクタールの農場、ストーン・エッジ・ファームでいろんな物を作るのが好きだ。農場に据え付けてある天然ガスで動くマイクロタービンの部品も作業場で作った。でも本当に作るのが好きなのは、目にも見えず耳にも聞こえず味もしない物だ。同氏は資本市場の「ゆがみ」から利益を得ることを可能にする方法や商品を作る金融工学エンジニア。ブルームバーグ・マーケッツ誌3月号が報じている。

最新の作品は、社債にクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を埋め込んだハイブリッド証券だ。CDSは2008年に世界の金融システムを崩壊させかけた元凶の一つ。同氏はCDSと社債を組み合わせて「エクスチェンジャブル(交換可能)債」というものを作った。短い呼び名はeボンド。同氏によれば、企業はこれを使ってジャンク級(投機的格付け)の社債を最高格付けトリプルA級に生まれ変わらせることができる。クオンツ投資の黎明(れいめい)期にさかのぼる自身のキャリアの中で最大かもしれない現在の市場不均衡の機会を生かすのに、この商品が役立つと期待している。8兆ドル(約940兆円)規模の米社債市場の流動性逼迫に備えるのだ。

マックオウン氏(80)は、リスクが低くなるように社債を作り変えれば取引が容易になるはずだと言う。「市場は自らの囲いに体をぶつけている。このため、解決策が必要になった」と考える同氏は、この「合成」商品を、事実上のゼロ金利 時代が膨張させた市場に登場させようとしている。

2009年1月から今までに、企業は7兆2000億ドル相当の米ドル建て社債を発行した。その前の6年に比べ39%増だ。一方、米国と世界の新資本規制強化への対応で、JPモルガン ・チェースやバンク・オブ・アメリカ(BOA)など銀行は帳簿上に抱えるリスクを減らしている。

その結果、世界最大の社債 市場での発行残高と流動性にかつてないようなギャップが生じた。米証券取引委員会(SEC)のダニエル・ギャラガー委員は「これは危険だ」と指摘する。「債券市場では長く強気相場 が続いてきた。しかし金利が上昇し始め、買いよりも売りの圧力が強くなった時にどうなるのか。流動性が枯渇するかもしれない。そうなると、企業の起債は難しくなり調達コストも高まる。これは広範な経済に影響を与え得るだろう」と同委員は話した。

eボンドについては辛口の評もある。金融調査会社フィナディアムのマネジングプリンシパル、ジョシュ・ガルパー氏は「市場では今、いろいろな動きがありいろいろな実験が行われている。しかし、新しいアイデアがいつもリスクを減らすわけではない。リスクをあちこちへ動かすだけだ」と話す。

さらにeボンドは、市場を手なづけるはずだったのに逆に大惨事をもたらしたこれまでの数多くの発明を想起させる。住宅ローン担保証券を束ねてリスクを中和するはずだった商品が世界経済をほとんど崩壊させたのは2008年のことだ。指数連動投資信託のパイオニア、バンガード・グループの創業者ジョン・ボグル氏(85)はマックオウン氏について、「恐らく天才だろう。それに異論はない。しかし天才は複雑さを好む。金融分野でのイノベーションは失敗する公算が大きい。大半は売り手を金持ちにし買い手を貧乏にするように設計されている」と語った。

マックオウン氏に言わせれば、CDSは近い将来に08年当時のようなシステムを脅かす商品ではなくなる。当時CDSは規制と説明責任のないシステムの中で2当事者の間で取引されていた。19兆ドル規模のCDS市場をそうした薄暗い場所から引き出そうと、10年の金融規制改革法(ドッド・フランク法)はCDSの大半が取引所を通じて売買され決済所で処理されることを義務付けた。これにより決済が保証され、全ての取引が規制当局で閲覧できるデータベースに記録されることになる。SECは実践のための規則を策定しつつある。

これらの新たな安全措置はCDSについての懸念を和らげるかもしれない。世界最大のCDS決済所であるインターコンチネンタル・エクスチェンジ(ICE )がeボンドの基になるCDSの処理を手掛ける。ICEはCDSの売り手に、さまざまな証拠金口座を通じて契約履行を担保するよう求める。売り手が支払えない場合は、ICEが証拠金基金からの資金で投資家に全額を支払う。相場暴落の際にはICEが決済所会員であるシティグループやゴールドマン・サックス・グループなどに資金を出させ、CDSの契約を履行することが可能だ。

マックオウン氏にとって資本市場とは、常に変わり続け、調整と再設計が永久に必要な機械だ。指数連動ファンドとクレジット・デフォルト・アナリシスに関する同氏の画期的な仕事は投資家の利益になった。今問題なのは、債券市場が決定的な変化に向かおうとしている時に同氏の創意工夫が同様に役立つかだ。「大量の実験が行われ、解決策を見つけようとする人間には大きな力を与えられるだろう」とマックオウン氏は言う。「そうでなければ、金融が機能しない世界に行きつくことになる。そうならなければならない理由は何もない」と同氏は論じた。

原題:Whiz Kid, 80, Has Plan to Fix Bond Market. Does It Need Fixing?(抜粋)

記事に関する記者への問い合わせ先:ロンドン Edward Robinson edrobinson@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先: Stryker McGuire smcguire12@bloomberg.net Gail Roche

更新日時: 2015/02/04 07:00 JST

 
 
 
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