仁丹:京都名物、町名板が盗難被害続々 古物商転売か

毎日新聞 2015年02月04日 08時30分(最終更新 02月04日 08時58分)

仁丹町名表示板を探す京都仁丹樂會メンバー=京都市下京区で2012年8月、土本匡孝撮影
仁丹町名表示板を探す京都仁丹樂會メンバー=京都市下京区で2012年8月、土本匡孝撮影

 京都の街に掲げられている「仁丹」の商標入り町名表示板10枚が昨年末から、相次いで無くなった。盗まれたとみられる。森下仁丹(大阪市)が約100年前、広告を兼ねて全国の町に設置したが、700枚超ものまとまった数が残っているのは京都市内だけ。レトロな雰囲気と希少さから転売目的もあるとみられ、「表示板は京都の文化財」とPRしてきた愛好家グループは「全市民が被害者だ」と憤る。

 この表示板は、多くは縦90.5センチ、横14.5センチ。ほうろう製で、おなじみの「大礼服」マークが付いている。1910年ごろから大阪、東京、名古屋など大都市から始まって全国に設置されたという。大規模な空襲被害を免れた京都市では多くが残ったが、町家の改修などに伴い減少。愛好者グループ「京都仁丹樂會(がっかい)」(立花滋代表)によると、現存は約720枚という。

 以前から盗難が疑われる事案が散発的にあったが、昨年12月以降、計10枚が次々と無くなった。被害のほとんどは上京区だった。現在、盗品とみられる表示板が古物商で10万円台で売られていたり、過去にはインターネットのオークションで5万円から競りにかけられたりしたこともあった。樂會では、表示板がある自治会への防犯啓発も検討している。

 年末には花街・上七軒の小物店「まつひろ商店」の従業員が、1階壁にあった表示板が消えたのに気付いた。店は京都府警上京署に被害を届けた。松井達彦専務(43)は「そっとでいいから返してほしい」と訴える。

 実際、盗難を「自首」してきた例も。「学生時代に持ち去り、34年ぶりにお返しします。申し訳ありません」。2012年7月、中京区の民家前に手紙を添えて置かれていた。70代の住人男性は「通行人の目にとまってこそ意味がある」と表示板をかけ直した。

 表示板の所有権を巡っては、森下仁丹側の資料が戦時中の空襲で焼失したため曖昧になっている。ただ、民法では会社側の所有権放棄が確認できれば、住民に権利が移ったとみなされる可能性が高い。それができなくても写真や証言で一定期間の存在を証明できれば占有権が生じ、オークションの出品者らに返還請求ができる。古物営業法では盗難1年以内なら、事情を知らない古物商にも無償で返還を求めることができるという。【土本匡孝】

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