2015年1月16日、講談社現代新書より、日本の裁判のリアルな実態を描いた『ニッポンの裁判』が刊行された。冤罪連発の刑事訴訟、人権無視の国策捜査、政治家や権力におもねる名誉毀損訴訟、すべては予定調和の原発訴訟、住民や国民の権利など一顧だにしない住民訴訟・・・・・・、裁判の「表裏」を知り抜いた元エリート裁判官の瀬木比呂志氏(明治大学法科大学院専任教授)をも驚愕させたトンデモ判決のオンパレードは、司法に淡い期待を抱く読者を打ちのめした。その衝撃的な内容はネットでも話題になり、発売直後に早々に重版が決定している。
本書は「元裁判官による裁判批判の書」であると同時に、裁判官の意思決定のメカニズムについても踏み込んだ解説をしている。一般には、裁判官は、提出された証拠の事実認定を行い、それを法律に当てはめることで、オートマチックに判決を下しているようなイメージが流布している。しかし、瀬木氏は「それは幻想に過ぎない」と断ずる。実際の司法判断はもっと生臭く、裁判官の人間性によって、判決の内容もいかようにも変わるというのだ。だとすると、著しく劣化した裁判官は、著しく劣化した判決を連発することになる・・・・・・。知られざる「判決決定のからくり」について瀬木氏に聞いた。
Q.『ニッポンの裁判』は、横断的な判例分析・解説・批判という性格をもっていますが、それに先立ち、第1・2章で、裁判官がいかに判決を下すのか、その判断構造の実際、判断決定の心理メカニズムを克明に描いている点がすばらしいと思いました。事実関係さえ同じであれば、どんな裁判官でもおおむね似たような判決が出るものと思っていましたが、判決というのは、実は、きわめて個性的、属人的なものだったんですね。
瀬木:裁判官の判断は、A 実際に判決に記されているように、個々の証拠を検討して、あるいはいくつかの証拠を総合評価して断片的な事実を固めた上で、それらの事実を総合し再構成して、事実認定を行い、それを法律に当てはめて結論を出しているのだろうか、それとも、B そのような積み上げ方式によってではなく、ある種の総合的直感に基づいて結論を出しているのだろうか。こういう問題ですね。
考え方は分かれますが、僕はBだと思います。裁判官、元裁判官にもこの考え方は多いですし、学者では、『日本人の法意識』(岩波新書)等で一般にも知られる川島武宜(たけよし)教授(東京大学)が、はっきりとこちらの考え方をとっています。
つまり、裁判官は、主張と証拠を総合して得た直感によって結論を決めているのであり、判決に表現されている前記のような思考経過は、後付けの検証、説明にすぎないということです。
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