5秒もあれば、相手が「真剣に考えているか/考えていないか」は見抜ける

横山信弘 | 経営コンサルタント

私は現場に入り、目標を絶対達成させるコンサルタントです。目標の「絶対達成」というわけですから、クライアント企業のスタッフたちには、相当な意識レベルで「考えて」もらわなければなりません。日々、創意工夫の連続が求められます。

したがって、そのような経験を毎日続けていれば、相手がいま「真剣に考えているか」どうかは見た目でわかるようになります。「考えているか?」「考えていないか?」は、頭がまわっているかどうか、脳のCPUが高速回転し、膨大な量のデータを処理しているかどうかで判別できます。

処理するためのデータは、3つの記憶装置の中にあると考えましょう。その記憶装置とは、「短期記憶」「長期記憶」「外部記憶」の3つです。「短期記憶」とは、いわゆる「ワーキングメモリ」のことです。情報を処理するために常に格納しておく作業記憶装置。「長期記憶」は、長い歳月をかけて蓄積してきた知識の図書館のようなもの。「外部記憶」とは、脳の外にある記憶装置です。

個人差はありますが、脳が処理するためのデータがどの記憶装置に入っているかで、反応スピードは変わってきます。

●「短期記憶」 → 処理スピードが速い

●「長期記憶」 → 処理スピードが遅い

●「外部記憶」 → その場で処理できない

処理するためのデータが「短期記憶(ワーキングメモリ)」にあれば、すぐに処理できます。

「ハサミって、どこにあるんだっけ?」

「ハサミ? ハサミなら台所の引き出しにあるわよ」

ハサミをしょっちゅう使う人は、ハサミのある場所を「ワーキングメモリ」の中に格納しています。いつも脳が処理するからです。ですから考えなくてもすぐに答えられます。しかし、ハサミをほとんど使わない人だと、すぐに答えが見つかりません。ですから、どこにあるのか「考える」ようになります。

「ハサミ? どこだっけ……。ええっと――」

「ワーキングメモリ」へアクセスしても、頻繁に使っていないため「ワーキングメモリ」にはハサミの場所を格納していません。ですから次に脳の「長期記憶」へアクセスしにいきます。

「――確か、この前、雑誌を切り抜くのに使ったんだよね。台所の引き出しにあるんじゃないかな」

その返答が正しいかどうかは別にして、このような受け答えをする人が「真剣に考えている」ことは間違いありません。「ワーキングメモリ」にはないデータを「長期記憶」にアクセスして探そうとしたプロセスは、見た目でわかるからです。しかし、「長期記憶」にもなければ「外部記憶」に頼るしかありません。

「……ちょっとわかんないな。どこにあるんだろう。おばあちゃんがよくハサミを使ってるから、おばあちゃんに聞いてくる」

このような返答になるでしょう。いずれにしても、「長期記憶」「外部記憶」へアクセスしようとしたプロセスが見られるなら、相手は「真剣に考えている」と判断してもよいでしょう。その態度ですぐにわかります。それでは、「真剣に考えていない」場合は、どうなるかを考えてみます。

「ハサミって、どこにあるんだっけ?」

「ハサミ? 知らないよ」

「どこを探してもないんだ。おい、もっと真剣に考えてくれよ」

「真剣に考えてるわよ。でも、知らないものは知らないじゃないの」

ビジネスの現場でも、このようなことはよくあります。

「2015年、今年の目標は昨年より10%アップの1億5000万円だ。頼むぞ」

「え! 1億5000万て……。そんなの無理でしょう」

「どうして無理だと言えるんだ。まだ2015年は始まったばかりじゃないか」

「去年の目標でさえクリアしていないのに、その目標の10%アップだなんて、めちゃくちゃですよ。どう考えても無理です」

「何が『どう考えても無理』なんだよ。君は考えて発言していないだろう」

「考えてますよ。考えたうえで発言してますって。無理なものは無理です。どう考えても無理です」

「おいおい」

単なる「条件反射」で発言する人は、当然のことながら深く考えていません。先入観や思い込みが激しく、体が反応するままに答えているからです。このように深く考えてもいない人の発言を真に受けて、

「そうか……。どう考えても無理か。だったらもう一度、社長と話し合って、目標の設定値を再考するよ」

などと応じてはいけません。ハサミの場所について考える程度ならともかく、ビジネスの現場においては、真剣に考えるプロセス、創意工夫を重ねる体験によって、人は成長していきます。組織は発展していくのです。深く考えず、反射的に発言するのではなく、

「昨年の10%アップの目標ですか……。そうですね……。私が取引しているお客様が45社あり、そのお客様の現状を考えると……」

――このように、少なからず脳の「長期記憶」にアクセスしてデータ処理を試みようとすべきです。さらに、

「管轄エリアの市場をリサーチしたデータがあります。そのデータを見ながら、考えさせてもらえませんか。もちろん目標は達成したいですが、市場の動きを見ないことには、私もどうすれば達成できるか見当もつかないので」

――このように、「外部記憶」にまで頼ろうとする姿勢があるなら、さらに真剣さが伝わります。自分の現状持っている知識や情報だけでは判断しかねる、と答えているからです。

真剣に考えている人ほど、誰かに相談しようとします。(もちろん、相談相手もまた真剣に考えてくれる人に限定することでしょう)つまり、相談が多い人は、やはり深く考え、創意工夫を繰り返している証拠なのです。

「自分なりに考えましたが、やはり無理だと思います」

などと発言する人は、深く考えていないことがバレバレです。「外部記憶」にアクセスしようとした経緯が見られないからです。部下もそうだし、上司もそうです。

「私の処遇について、もう少し考えていただけませんか」

「え? 君の処遇?」

「はい。以前も相談しましたよね」

「ああ……。君の処遇ね……。そうだなァ、君の処遇は今のままで十分だと思うよ」

「あの、部長……。パソコンで作業をしながら話をするのはやめてもらえませんか。私は真剣に考えてもらいたいのです」

「私だって真剣に考えているよ、君のことは。パソコンでメールを書きながらでも、それぐらいはできる」

「課長、本当に、真剣に考えてくださいって」

「考えてるって! どうしてそんなに私の言うことを信用できないのかね」

相談を持ちかけているのに、新聞を読みながらとか、テレビやスマホを観ながら答える人は、当然のことながら「真剣に考えている」とは言えません。他事をしながら脳の「長期記憶」へアクセスすることなど不可能だからです。

相手が「真剣に考えているか/考えていないか」どうかは、2~3秒で判別できます。最低でも「5秒」もあればは、見抜けるでしょう。誰かが真剣に相談をしにきたら、まずは他事をやめ、その人と向き合い、条件反射で返答しない姿勢をとることが重要ですね。

横山信弘

経営コンサルタント

現場に入り、目標を絶対達成させるコンサルタント。「絶対達成する部下の育て方」「絶対達成マインドのつくり方」「営業目標を絶対達成する」など、「絶対達成」シリーズの著者。年間100回以上の講演、セミナーをこなす。ロジカルな技術、メソッドを激しく情熱的に伝えるセミナーパフォーマンスが最大の売り。最新刊は「空気でお客様を動かす」。

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