お年寄りの自動車運転には、しばしば不安がともなう。

 警察庁が75歳以上の運転能力を調べる検査を増やし、認知症での運転を防ぐよう努める方針を明らかにした。

 命にかかわり、加害・被害双方の家族にも不幸が及ぶ問題だ。認知症の人に運転をやめてもらうのはやむを得まい。

 ただ免許の制度を変えるだけで問題は解決しない。お年寄りが運転しなくても暮らせる地域づくりなど、視野を広げた対策を進める必要がある。

 交通事故死が昨年まで14年連続で減る中、主な原因が75歳以上の運転にあった死亡事故の割合は年々高まり、13年は全体の12%、458件にのぼった。

 うち約3割では記憶力や判断力といった運転に欠かせない認知機能の低下がみられ、免許保有者当たりの死亡事故率は75歳未満の2・5倍に達している。交差点での一時不停止や高速道路の逆走、信号の見落としが多いなど特有の問題がある。

 このため警察庁は道路交通法を改正し、75歳以上は従来の3年ごとの免許更新時に加え、逆走や信号無視などの違反をした時も認知機能を調べる方針だ。機能低下が大きい場合は医師の診断を義務づけ、認知症と確定すると免許を取り消す。

 認知症が疑われる状態であっても、免許を手放したくないという人は多い。だが、家族らの心配も深刻だ。医学的な結果が出れば、運転をあきらめてもらうことは仕方あるまい。

 ただし、とりわけ地方では、お年寄りもマイカーの運転が生活に欠かせない現実があることが多い。鉄道やバスなど公共交通機関が限られるからだ。

 小型バスや割引タクシー、無償・有償のボランティアによる送迎など、代替となる生活の足を確保できるようにするのは、待ったなしの課題だ。

 中期的には、病院や商店、役所などを公共交通の拠点を中心にまとめるまちづくりも議論したい。

 自動車を運転しなくても快適に暮らせる社会インフラの改良もさることながら、忘れてならないのは免許を手放す高齢者本人へのフォローである。

 自覚なしに認知症と宣告されると、衝撃は大きいだろう。本人や家族の不安に応え、病気の発見が適切な医療や介護を提供するきっかけになるように、医療や行政も連携してほしい。

 免許を自主返納すれば、代わりの運転経歴証明書が身分証明書になる。各種割引など証明書の特典をさらに充実させ、免許返納の「お得感」も高めたい。