家庭、職場、そしてスターバックスの次を行く「第4の場所」
社会学者のレイ・オルデンバーグ氏は、ドイツのビアガーデン、イギリスのパブ、そしてアメリカのバーのように、家でも職場でもなく、ただ時間を過ごすことができるたまり場(第三の場所)が 、どんどん少なくなってきていることを指摘し、このような場所は地域を活性化させるために、無くてはならないものだと指摘しました。
スターバックスのCEO、ハワード・シュルツもスターバックスの経営を始めた頃、コーヒーを飲んですぐに帰るような店をイメージしていましたが、やがて考えを変え、誰でものんびりと時間を過ごせる「第三の場所」を意識した経営にシフトしていったと、「スターバックス成功物語」の中で述べています。
↑スターバックス「家庭でも職場でもない。第三の場所を作りたかった。」(Pic by Flickr)
しかし、時代の価値観が少しずつ変化し、サラリーマンよりもオフィスを持たない起業家やフリーランスが増えていくなかで、コーヒー1杯だけを注文し、朝から夜までスターバックスにいるのは、エチケットの面でもあまり好ましいことではありません。
あるスターバックスのストアマネージャーは次のように述べています。
「1杯で2〜3時間がちょうどいいと思います。4時間がひとつの区切りで、もしお店が混んでいて、何も他にオーダーされないようでしたら、席をお譲りいただきたいです。」
↑「第三の場所」は最大4時間まで。(Pic by Flickr)
このスターバックスなど「第三の場所」の次を行くものとして、カリフォルニア発のコーワキング・スペースがありますが、これらの場所は、クリエイティブな職業人が仕事から逃げるためではなく、コーヒーを飲みながらメール返信をしたり、ツイートを投稿したり、突発的な打ち合わせをしたりといった仕事をこなすために行く場所であり、社会学者のリチャード・フロリダ氏は「仕事とコミュニティが一体となった第四の場所」と定義しています。
↑第四の場所「仕事から逃げるためではなく、クリエイティブな仕事を一日中し続ける場所」(Pic by greekWired)
「第四の場所」は何もコーワキング・スペースに限らず、街の至るところに存在しています。
マルコム・グラッドウェルは第四の場所で200万部のベストセラー、「第1感:最初の2秒のなんとなくが正しい」を執筆し、ニューヨークのお気に入りのレストラン、Savoyのスタッフに謝辞を捧げているほどです。
「あそこで本のほとんどを書きあげたよ。巨大な窓があって開け放してあるから、人がすぐそばを通りすぎる。人が行き交うのを感じると、ものごとの中心にいるような気がして、逆にとても穏やかな気持ちになるんだ」
↑マルコム・グラッドウェル「自宅でもオフィスでも、スターバックスでもない、第4の場所が必要なんだ。」(Pic by forlagsblog)
レストラン閉店後は、ニューヨークのAce Hotelのラウンジなどで、MacBookにむかって仕事をしているようですが、隣に世界で一番人気のコラムニストが仕事をしていることも、「第4の場所」の醍醐味かもしれませんし、クリエイティビティが刺激され、チャンスがあれば未来の共同創業者に出会える可能性も十分にあります。
25-35歳が中心の会員が自転車で通うベルリンのコワーキングスペース、betahausの共同創業者、Tonia Welterさんは「コーワーキングスペースはfacebookが具現化したもので、リアルライフのSNSなんです。」と述べていますが、最近ではペット同伴が可能であったり、プログラミングやデザインが学べたりと、第4の場所がその地域のイノベーション・ハブになりつつあります。
↑ベストセラー作家、ペット、そして学校と様々なものが集まってイノベーションが起こる。(Pic by Flickr)
コーワーキングスペース界のAirbnbを目指すというSpareChairは、自宅をコーワーキングスペースとして提供したいホストと、利用したいゲストのマッチングサイトを運営しており、創業者のSharona Couttsさんは、ジャーナリスト時代に孤独な在宅ワークを経験したことから起業のヒントを得たと述べています。
「自宅で仕事をするのは楽しかったけれど、重大な欠点があることに気が付きました。ひとつは長時間働いていると本当に寂しいということ、誰かとランチに行く暇もありません。もうひとつは職業的に孤立してしまうことです。」
↑フリーランスが増えれば増えるほど、「第四の場所」の需要は増えていく。(Pic by Flickr)
コーヒーショップで仕事をしたり、ミーティングをすること自体は特に新しいことではなく、17世紀から18世紀のヨーロッパでは、作家や画家、音楽家、科学者、そして政治家などがコーヒーショップで最新の情報や政治的意見を交換し、どこのカフェに行くかでその人の政治的傾向が分かると言われたほどでした。
カフェ文化が隆盛を極めたパリの老舗プロコープには、ナポレオンや哲学者のルソーも通い、ピカソやヘミングウェイもドゥ・マゴの常連でしたが、資本主義の代表である「会社」という文化が少しずつ変化し始め、200年から300年前のような個人同士の意見交換が、活発な時代が再度やってくるかもしれません。
インターネット上で起きたことは数年の時差を経て、現実世界でも起こると言われますが、いくらSNSが発達しても人間の物理的距離はまだまだ縮りそうもありません。