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【社会】

「イスラム国」から逃れたイラク人医師 故郷奪われ おびえる日々

2015年2月4日 07時07分

過激派組織「イスラム国」の迫害から逃れるため、日本に避難しているイラク人女性小児科医=3日(浅井慶撮影)

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 「自分を助けてくれた、この平和な国の人も殺されてしまった」。イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」による迫害から日本に逃れ中部地方に住むイラク人女性小児科医(45)は、日本人人質事件に深い悲しみを感じている。来日後もメールによる脅迫がある中、三日、複雑な思いを本紙に明かした。(森若奈、小松田健一)

 この女性はイラク北部の中心都市・モスルに近いカラコシュで暮らしていた。キリスト教徒が多く住む街だった。昨年六月、「イスラム国」がモスルを制圧すると、カラコシュでも水や電気が止まり、間もなく「イスラム国」による迫撃砲の大規模攻撃が始まった。

 身を守るため、母親や弟家族と一緒に車で街を脱出し、東に七十キロ離れたクルド人自治区の都市・アルビルへ向かった。着の身着のままで「なぜ私たちがこんな目に、と考える時間もなかった」と振り返る。

 そして昨年七月、イラクへの医療支援を行っていた中部地方のNPOから支援を受け、母親とともに日本にたどり着いた。

 女性は二〇〇九年から四年間、信州大医学部(長野県松本市)に留学。母国では小児白血病の専門医として活躍し、支援してくれたNPOと交流があった。それが日本を選んだ理由だった。

 しかし、日本に来てからも、インターネットの交流サイトに、匿名で「おまえの体をばらばらにしてやる」と脅迫メッセージが来る。

 自分がイラクを離れたことを知って脅しているのか。理由が分からない分、恐怖が募る。当時の患者からは時折「助けてほしい」と悲痛な声が届く。

 ネットでうかがい知る故郷の姿に、「イラクはすでに崩壊国家で、イラク人であることを誇れない。故郷や将来の夢も失うことは、『ゆっくりとした死』のようなもの。人間としての尊厳の問題だ」と表情は沈む。

 今は就労ビザを取得し、支援してくれたNPOのスタッフとして働く。少しずつ生活の落ち着きを取り戻そうとしている時に、日本人が「イスラム国」に殺害されたというニュースに直面した。大きな衝撃だった。

 人質になり、殺害されたとされる湯川遥菜(はるな)さん(42)と、フリージャーナリストの後藤健二さん(47)のニュースを連日テレビなどで見守った。「なんでこんなことになってしまったのか」と悲しんだ。

 女性は「『イスラム国』は宗教的イデオロギーを利用し、罪のない人を殺している。昔のイラクは宗教の違いがあまり問題にならなかったが、今は違う。危険な地域になった」と肩を落とす。そして、やむ気配がない戦火に力なくつぶやいた。「もう故郷に戻れない」

(東京新聞)

 

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