生活保護利用者に「お金を渡して使ってもらう」の重要な意味

みわよしこ | フリーランス・ライター

生活保護利用者が「私たちの税金」で消費を行うことを、悪であるかのように見る人は少なくありません。

しかし、生活保護利用者が自ら消費すること、そのために現金を渡すことには、重要な意味があります。

「安売り」の限界競争、みんなでガマン大会?

昨日、2015年2月3日、下記のニュースにオーサーコメントを書きました。

「260店舗閉店」100円ローソンが犯した出店戦略のミス 経営者online 2月3日(火)12時10分配信

内容の詳細はニュースのすぐ下のオーサーコメントを見ていただくとして、論点は

  • 低価格路線戦略ならば、何かのコストを下げるしかない
  • 立地条件の悪い地域を選んで店舗維持コストを下げたチェーンは、立地条件の悪さが敗因に
  • 好立地を選んで価格を抑えて成功しているチェーンもある。しかし低価格路線のために仕入れ値を抑えるしかなく、すると仕入れ業者・生産者が苦しむことに
  • この苦しい競争から全員が抜け出すための最も有効な方法は、低所得層の財布にお金を入れること

です。

厳しい競争のもとでは、もちろん、ブラック労働の問題も発生しているでしょう。

みんなでガマン競争しているような状況の「最低ライン」を作っているのは、何でしょうか?

労働を含めて、生の「最低ライン」は生活保護基準がつくる

労働者も高齢者も厳しい状況にあり、生活保護利用者だってラクはしていません。

ブラック労働を強いられる人々が苦しい状況にあるとき、経営者の多くもラクはしていません。

厳しい経営の中で「どこなら削れるか」を必死で考えていたりします。

この厳しさ・苦しさの底を作っているのは、最貧の人々の懐具合です。

日本で言えば、生活保護利用者の生活です。

なお、生活保護より厳しい生活を強いられている人々、低年金高齢者・ワーキングプアの方々が実際には多数存在しますが、本当に生活保護より厳しいのなら、生活保護の対象です。

生活保護以下の生活は、あってはならないのです。国が、責任をもってなくさなくてはなりません。それが憲法第25条です。

小売店の安売り競争・労働者のガマン比べは、破滅への道かもしれない

では、働いて納税している方々の労働状況や収入が少しでも改善されるために、どうすればよいでしょうか?

「少しでも安く」と考える低所得(生活保護利用者を含む)消費者の可処分所得を増やすことです。

低所得消費者の可処分所得を増やせば、ほとんどは貯蓄でなく消費に回ります。

そうすると、安売り競争は緩和されます。

生産者・流通業者に対する負担も軽減されます。

労働条件も収入も改善されます。

もしも、それが行われなければ、近未来に。生産・流通・販売・消費の共倒れもありえます。

食糧の生産者がいなくなったら、食べるものがなくなります。お金があっても買えないような状況もありうるかもしれません。

生活保護費を増額すれば、みんな幸せになれる

では、低所得消費者の可処分所得を手っ取り早く増やすには、どうすればいいんでしょうか?

給料は、急には増えません。

景気が良くなっても、勤務先が簡単に潤うとは限りません。

でも、生活保護費、特に生活費分の生活扶助費を増額すれば、「トリクルダウン」を待つよりもずっと確実に、速く、低所得消費者の可処分所得が増えます。

生活保護基準が高くなれば、最低賃金が上がります。最低賃金法に「働いても生活保護以下になってはならない」と定められているからです。「ワーキングプア」は幸せになれます。

生活保護基準が高くなれば、就学援助など低所得層向け経済支援の利用基準も緩和されます。これもまた、「ワーキングプア」を幸せにすることにつながります。

なお、低年金高齢者には、生活保護の利用資格があります。

「非消費者を消費者にする」という社会権保障の重要な意味

低年金高齢者が生活保護利用者になれば、可処分所得が増え、消費が増えます。

生活保護利用者の生活扶助費が増額されれば、同上。

「生活保護より厳しい」と思っているワーキングプアの給料が高くなれば、同上。

可処分所得が増え、消費が増えます。

生活保護制度は、「働けない」「働けるか働けないかが状況に依存しすぎる」「働く権利を行使する意欲を持てない」という、最も厳しい状況にある人々を、放置しておけば「このまま死ぬだけ」「ただ生きているだけ」「消費といえるような消費はできない」という状況から救い出します。生活扶助費という現金を渡すことによって。

他の条件が変わらなくても、その人々は、非消費者ではなく消費者になります。

「消費」という形だけでも社会参加ができるように、社会権が保障されるわけです。

土壌へ肥料を与えたときのように、その効果は社会の「肥やし」として社会を豊かにします。

「お金を渡す」のポジティブな側面に目を凝らそう

「お金を渡すだけ」の生活保護には、さまざまな問題が指摘されてきました。現在もさまざまな問題があります。

でも、「お金を渡すだけ」がどれほど大きくポジティブな意味を持っていたのか。

ネガティブな部分ばかり強調される状況が、日本では60年以上、ほとんど生活保護の歴史とともに続いてきました。

遅すぎるかもしれませんが、そろそろ、ポジティブな部分に目を向けてみるべきときだと思います。

みわよしこ

フリーランス・ライター

1963年福岡市生まれ。大学院修士課程修了後、企業内研究者を経て、2000年よりフリーランスに。当初は科学・技術を中心に活動。2005年に運動障害が発生したことから、社会保障に関心を向けはじめた(2007年に障害者手帳取得)。著書は書籍「生活保護リアル」(日本評論社、2013年)など。2014年4月より立命館大学先端総合学術研究科一貫制博士課程に編入し、生活保護制度の研究を行う。なお現在も、仕事の40%程度は科学・技術関連。

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