社説:テロ対策 「喉元過ぎれば」でなく

毎日新聞 2015年02月04日 02時35分

 脅しに対して過剰反応は禁物だが、用心はしなければならない。政府は3日、「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」(本部長・菅義偉官房長官)の会合を首相官邸で開き、海外在留日本人の安全確保やテロリストの入国を阻止するための水際対策の徹底などを確認した。

 当然の対応だろう。今回の日本人人質事件でイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)は今後も日本人を殺すと述べ、日本の悪夢の始まりを宣言した。会合で菅官房長官が説いた「我が国を巡るテロの脅威が現実のものになるとの認識」を、多くの国民は共有しているはずだ。

 会合では、入国審査の厳格化に加え、空港・公共交通機関や原子力発電所など重要施設の警戒警備の強化が提示された。外務省はISが活動するシリア全土とイラクの大半から日本人の退避を勧告しているが、勧告に強制性はないため、それ以外の方法を検討することにした。

 他方、安倍晋三首相は同日の参院予算委員会で、在外公館の機能強化や情報収集能力の向上、危険情報の迅速な提供、日本人学校の警備強化などを挙げた。防衛省は防衛駐在官をヨルダンに置き、財務省は金融機関と協力してテロ資金の流入などに目を光らせる方針だ。

 外国はどうか。IS関連のテロ対策として英国は、不審者のパスポートを国境で没収する権限を警察に与え、特定路線の搭乗者リスト提出を航空会社に義務付けることなどを検討中だ。また、フランスは2001年の米同時多発テロ後、緊急時は令状なしで住居などを捜索できるテロ対策法を作り、オーストラリアは03年、具体的な容疑がなくてもテロ関連情報を持つと思えば身柄拘束できる厳しい法を成立させた。

 こうした措置の難点は、捜査当局の権限強化によって市民の権利が損なわれ、社会の息苦しさや不安を増幅しかねないことだ。例えば外務省の退避勧告に強制性を持たせることは、憲法が定める「居住、移転の自由」に抵触する恐れがある。脅威の正体を見定め、国民の権利を尊重しながら対策を考えるべきだ。

 13年にアルジェリアで起きた人質事件で、菅氏を委員長とする検証委員会は、日本人保護対策の強化や緊急時の政府対応のマニュアル整備などを盛り込んだ報告書をまとめた。有識者懇談会も政府に提言を行った。

 2年前の対策が今回の事件対応に生きたか検証する必要もあろう。状況が違うとはいえ、従来の対策を改善しながら新たな対策を講じる姿勢を持ちたい。来年は日本で主要国首脳会議(サミット)があり、20年には東京オリンピックも開かれる。

 「喉元過ぎれば」では困る。

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