【アンマン=吉村英輝】イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」が、後藤健二さん(47)との身柄交換を要求したサジダ・リシャウィ死刑囚=ヨルダンで収監中=の扱いに注目が集まっている。

 ヨルダン政府はイスラム国に拘束されている自国軍パイロット、モアズ・カサスベ中尉(26)の奪還に向け、死刑囚の身柄を効果的に利用することも視野に入れているもようだ。

 ヨルダン下院のバッサム・マナシール外交委員長は、40代半ばのリシャウィ死刑囚は、イスラム国にとって「どうでもいい存在で、本気で取り戻すつもりもない」とみる。

 ロイター通信は、親族による面会要求もない女死刑囚が「ジハーディスト(聖戦主義者)の象徴」として一躍、注目を浴びた理由の一因は、その経歴にあると指摘する。

 リシャウィ死刑囚はイラク西部のスンニ派有力部族の出身で、2003年からのイラク戦争でテロ闘争を展開したザルカウィ容疑者(06年に死亡)の側近だった兄弟に加え、夫も米軍の攻撃で失い、テロに参加した。05年にヨルダンの首都アンマンで連続自爆テロに関与したが、生き残った。

 イスラム国指導者のアブバクル・バグダーディ容疑者は、権力基盤の強化のため、イラクのスンニ派部族と旧ザルカウィ派からの支持取り付けが課題となっているとされる。死刑囚釈放は、双方を接近させうる「政治案件」(ロイター)となったとの見方だ。

 ヨルダン政府は、中尉の解放を死刑囚釈放の条件としており、中尉の殺害が確認されれば死刑囚を即時処刑する構え。ヨルダン国内では、イスラム国側の“次の一手”にも警戒が高まっている。