時をかける女子高生の、ほろ苦い青春の輝き――EP1から早くも傑作の雰囲気が漂う『Life is Strange』レビュー

スクウェア・エニックスが海外で発売している3Dアドベンチャーゲーム『Life is Strange』を紹介する。

●シーズンまるごと日本語版発売希望!

 スクウェア・エニックスが海外で発売している3Dアドベンチャー『Life is Strange』を紹介する。本作はPS4/Xbox One/PS3/Xbox 360/PCで配信中。日本語は非対応。参考までにSteamでの価格は、現在配信されているエピソード1が498円、エピソード5までのシーズンパスが1980円。エピソード1を買って気に入った場合にエピソード2以降を追加でまとめて買う場合は1680円となっている。


●揺らぐ自分への自信、少し変わってしまった幼なじみ……。

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▲再会したマックス(左)とクロエ(右)。お互いのトラブルを救った後、クロエの家に向かうことに。

 本作の主人公は、海辺の町アルカディアベイで写真科に通う女子高生マックス。突然時間を巻き戻すタイムリープ能力を身につけてしまった彼女と、久しぶりに再会した幼なじみクロエの冒険を描く。

 エピソード1“Chrysalis”(蛹)で中心となるのは、ふたりが通う高校でのこと。学園カーストや女王の取り巻き、提出してない課題、誰それがビッチだとかいう噂話、男の子に返さなきゃいけないUSBメモリー……。まだ学校が世界のほとんどを占める高校生活が、くだらないやり取りや痴話喧嘩すら時に眩しく見えるほど瑞々しく描かれる。


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▲アメリカン学園物の傑作としてはRockstar Gamesの『Bully』があるが、男子中学生ライフをあくまでパロディとして描いた同作に対し、『Life is Strange』では、ドラッグや銃アリ、中絶アリの現代の高校生ドラマを描こうと挑戦している。

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▲SNSにイジメ写真が載せられたり、SMSで他のキャラクターから連絡が来たりする今時の高校生活。

 しかし一方で青春時代は、ただ楽しかった子供時代とは違う、それぞれに悩みを抱えてもいる微妙な年齢でもある。マックスは先生にフォトグラファーとしての才能を見出されているが自信を持てず、コンペ用の作品をなかなか提出できない。一方で久しぶりに会ったクロエは髪を青に染め、タトゥーをビシッと入れたパンクな女の子になっていて、部屋ではドラッグを吸い、義父との関係にも問題を抱えている。


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▲マックスの部屋に貼ってある、クロエと昔撮ったズッ友(Best Friends Forever、略してBFF)写真。

▲現在のクロエ。義父の束縛を嫌い、卒業したら親元を離れようと考えている。

 大人になるに連れて、人にはプライベートな秘密が増えていく。そして後悔も。誤った選択、言うべきじゃなかった言葉、そして思いもよらぬ永遠の別れ。人生は一方通行で、後戻りはできない。時が戻りでもしない限りは。


●時を戻して現実を書き換えろ

 『Life is Strange』は、決められたエリアを歩きまわってアイテムを手に入れたり謎解きをして目標へと進んでいく古典的なアドベンチャーゲームに、タイムリープ能力を組み込んだ作品だ。
 タイムリープを使うと、マックスが得た知識やアイテムはそのままに、起こったことをなかったことにできる。これによって、事故が起こる前に先手を打って被害を食い止めたり、タイムリープ前に知った知識や記憶を元にベストな選択をしたり、逆にしくじった行動をキャンセルすることもできるのだ。ボタン一発でギュルギュルと時間を戻して、願った通りの結果を導き出すのは気持ちいい。


 単にアドベンチャーゲームとしての表向きの目標を達成するためだけでなく、物語としても捻りを与えていて、タイムリープを駆使することで、それぞれのキャラクターが抱えている秘密を暴き出したり、逆に悪印象を与えてしまった発言をなかったことにして、関係を回復させることもできる。
 選択が後のエピソードやエンディングに影響するだけでなく、本筋から離れたキャラクターの秘密がサイドエピソードとして仕込まれているので、さらに探索しがい、巻き戻しがいもある。


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▲プレイヤーが選んだ選択は記録され、後に影響したり、世界のプレイヤーと比較した集計がエピソード終了時に表示されたりする。

 では、やり直した「ベストな選択」は、長期的に見ても本当にベストな選択なのだろうか? そもそも、他人が一回きりの行動の責任を取っているのに、自分はやり直すのはフェアじゃないんじゃないだろうか? そんな不安と、自分だけが時間を遡れる一種の孤独感がつねに漂っているのも、本作の優れた点だ。
 本作を開発したフランスのDONTNOD Entertainmentは、前作にあたるアクションアドベンチャー『Remember Me』も、記憶を奪われた女性ハッカーが他人の記憶をハッキングによって改変していくことで窮地を切り抜け、真相に迫っていくという特殊能力もの。今作でもそのSF的センスをいかんなく発揮していると言えるだろう。


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▲『Remember Me』の記憶ハッキング。タイトルの評価は割れたものの、偽の記憶によって動かされる人々と、それを眺める自分もまた記憶がないという設定は、独特な切なさがあった。

●3月配信のエピソード2にも期待

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▲オープニングからマックスが幻視し続ける、町を飲み込む巨大な竜巻。これは悪い夢なのか、それとも未来の現実なのか?

 エピソード1のラストでマックスはクロエに能力のことを打ち明ける。そして秘密を共有した親友二人と、それぞれの問題を抱えて一日を終えようとしている町の人々に、等しく夕日が静かに降り注ぐ。だが嵐は静かに迫っている。物語はまだ動き出したばかりなのだ。

 今年のGDCアワードなどのノミネートには間に合わなかったが、恐らく2015年度末には多くの賞を受賞しているだろう、今後が楽しみな作品だ。エピソード2“Out of Time”の配信は3月を予定している。