企業の取材を続けていると、いじめやパワハラの存在を感じさせる会社や職場は少なくない。それを観察していると、いくつかの共通項があることに気づく。共通項といっても、少なくとも10はある。今回は、そのうちの5つを紹介したい。転職などで会社を選ぶ時などの参考にしてもらえれば幸いだ。現在、勤務している会社で、いじめやパワハラなどが頻発するようなら、以下に挙げる5つのうち、どれかが該当している可能性が高いだろう。

1.社員数50人以下の会社

 会社の規模が小さいと、社内の体制が未成熟である場合が多い。特に、50人以下の会社は、就業規則などのルールが社員に十分、浸透していない傾向がある。さらには、賃金が慢性的に伸び悩んだり、退職金の規定がない会社も少なくない。知名度が低く、ブランド力もないため、採用力が弱いという弱点を持つ。こういう状況では、会社を辞めていく人が後を絶たず、社員の定着率は低くなり、管理職の負担も大きくなる。もちろん、管理職の定着率も低い。しかも、こういう会社に限ってワンマン社長が多く、厳しい姿勢で管理職を叱り、今度は、管理職が部下に対し、感情的に叱るケースが増える。悪循環が起こりやすい環境なのだ。

2.売上高10億円未満の会社

「10億円の壁」といわれるものがある。会社を創業して、年間7〜8億円くらい売り上げるようになるためには、経営者、役員、一部の管理職たちが猛烈に仕事をし続ければ、何とか達成できるかもしれない。だが、このあたりから10億円まで伸ばすには、大きな壁が現われるとよくいわれる。この壁を乗り越えるためには、経営者や役員、一部の管理職たちだけでなく、全社員が一丸となって仕事をすることが大前提となる。言い換えると、10億円の壁の前でゆきづまる会社は、社員たちの経験や力量などに差があるまま、それをうまく集約させることができず、組織としてうまく機能していないことを意味する。そうなると、社員間の意思疎通も難しく、孤立する人も現われやすい。いじめのターゲットになりやすい人が出てくるというわけだ。

3.上層部が精神主義的である会社

 これは、中小企業だけでなく、中堅企業や大企業にもいえることだが、社長をはじめとした上層部が、部下たちに相当、厳しく発破をかけるような職場は、いじめやパワハラが起きやすい。それによって、管理職たちは、自分たちの背後に「強力な支援者」がいると思い込んでしまう。つまり、バックがついているから、怖いものがなくなり、部下に対して乱暴な物言いをしたり、厳しく叱ることが増えていく。社長や役員などの上層部が、乱暴な精神主義を嫌い、現実的な視点に立って会社を動かすタイプが多くなると、それに近い考えを持つ管理職が増えてくる。そうすると、いじめやパワハラも減っていくはずだ。

いじめやパワハラが頻発する職場の特徴

4.個人で仕事をする機会が多い職場

 業種や職種にもよるが、チームで仕事をする場合もあれば、1人でコツコツと取り組む仕事もある。上司や先輩からのいじめやパワハラが目立つのは、後者が多い職場だ。会社の中で、仕事の隅々まで1人で担当するケースは少ないが、相当な部分を1人でカバーするケースはある。このような時、周囲の社員からしてみると、何をしているのか見えにくい。互いのことがあまりわからないようになる。いじめをする側の人たちは、自分たちの行ないが「いじめ」であることは当然、心得ている。しかも、常識から逸脱した行為であることもわかっている。だからこそ、周囲に見えないところで、いじめをしようとする。1人で黙々と仕事をしている人は、得てして攻撃を受けやすいのだ。

5.社内が流動化していない会社

 人事という観点からみて、社内が「適度に動く」会社や職場は、いじめやパワハラは少ない傾向がある。例えば、40〜50代の社員が適度に出向したり、転籍をしたり、あるいは20〜30代が海外や地方に転勤を繰り返すといったような会社がそうだ。さらには、適度にリストラがあったり、一定のペースで依願退職をする人が現われる職場も「動きがある」といえる。辞めていく人が多いのは問題だが、退職者が多少は出るほうが組織としては健全だ。このような意味での動きがあると、上司や先輩は、2〜3年以内に異動などで変わる。いじめやパワハラが長引いたり、定着したりする可能性が低くなる。

 1〜5までのすべての条件に当てはまる会社や職場に、行くことは避けたほうがいいと思う。もちろん、入る前からすべてを把握するのは不可能に近いかもしれないが、面接で質問をしたり、関係者から情報を入手したりすることはできるだろう。転職や異動の時など、多少なりとも参考にしてもらえればと思う。なお、いじめやパワハラはいかなる理由があろうとも、許されるものではないということを記しておきたい。

文/吉田典史

ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。著書に「封印された震災死」(世界文化社)、「震災死」「あの日、負け組社員になった…」(ダイヤモンド社)、「非正社員から正社員になる!」(光文社)、「悶える職場 あなたの職場に潜む「狂気」を抉る」(光文社)など、多数。