ワイツゼッカーさん:元独大統領 日中関係説くその先に…
毎日新聞 2015年01月31日 21時51分(最終更新 02月01日 00時54分)
【ベルリン篠田航一】ドイツ元大統領のリヒャルト・フォン・ワイツゼッカー氏が1月31日、死去した。94歳だった。第二次世界大戦終結から40周年の1985年5月8日、連邦議会の演説で「過去に目を閉ざす者は、現在も見えなくなる」と、歴史を直視する重要性を説き、国内外に大きな反響を呼んだ。
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ワイツゼッカー元大統領を思い浮かべる時、格調高い演説で有名なイメージにしては、意外に甲高くてチャーミングだった笑い声がよみがえる。ベルリンの事務所でインタビューしたのは2011年12月。私が学生時代、ドイツ語の授業で元大統領の演説を読んだことを告げると「かわいそうに。さぞ退屈な授業だったでしょう」と大笑いし、落ちそうになったメガネを直した。
そんな雰囲気の中、こぶしを振り上げて熱弁したのは意外にも日中関係。「簡単な関係ではないのは知っている。だがもっと改善できるはずだ」と強調した。
1985年の演説で語った「過去に目を閉ざす者は、現在も見えなくなる」との言葉は、今なお歴史認識を巡り近隣国との摩擦が絶えない日本を語るときに使われることが多い。だが、これは単純なドイツの謝罪というわけではない。
「私たち全員が過去に対する責任を負わされている」と語る一方で「罪は集団的ではなく個人的なもの」と述べている。このため、ドイツが国として戦争を引き起こした責任については明言を避けたとの見方もあり、解釈は今なお議論の対象になっている。
だが演説が人々の胸を打ったのは、やはり過去を心に刻む大切さを説いた点だ。元大統領の父親は開戦時の外交官で、戦後は戦犯として有罪判決を受けた。元大統領自身も39年のポーランド侵攻に従軍した際、同じ連隊にいた兄を失っている。
自伝の中で「私はポーランド人と親密になることが自分の世代の責任と考えてきたが、個人的な経験から、こうした感情は困難だった」と告白しているように、自身も深い葛藤を抱える人物だった。そんな思いを抱きつつ、冷戦期に旧ソ連・東欧を何度も訪れ東西和解に尽力した姿に、人々は共感を寄せたのだ。