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 「新たな映像が公開されました」

 1日午前5時ごろ、政権幹部の携帯電話が一斉に鳴った。秘書官から携帯電話に連絡を受けた菅義偉官房長官は首相官邸に到着すると、玄関から走ってエレベーターに駆け込んだ。

 午前6時に緊急会見を開いた菅氏は「卑劣極まりないテロ行為が再び行われたことに、一層激しい憤りを禁じ得ない」と強い口調で語った。

 首相公邸で休んでいた安倍晋三首相は、午前6時16分に官邸に入った。26分後、再び記者団の前に姿を見せた首相は「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせる」と、これまでにない言葉で「イスラム国」を非難した。

 現地対策本部があるヨルダンの首都アンマンの日本大使館前にも、映像の公開直後から数百人の報道陣が詰めかけた。大使館関係者を乗せた車が慌ただしく出入りした。

 現地で指揮に当たる中山泰秀外務副大臣が姿を見せたのは、映像公開から10時間近く経ったころ。「ヨルダン政府に緊密な連携を惜しみなく取っていただいたことに、感謝とお礼を申し上げたい」と述べた。

 日本政府と「イスラム国」の交渉状況を聞かれると、「事態は推移しているので私からは発言を控えたい」と繰り返した。わずか2分半の会見。質問を遮るように、険しい表情で足早に走り去った。

 人質解放の条件を途中で変更し、新たな映像を次々に出して期限も徐々に狭めてきた「イスラム国」の揺さぶりに、日本政府は翻弄(ほんろう)され続けた。最後まで湯川さんと後藤さんを救出する糸口をつかめぬまま、一方的に2人を殺害したという映像を突きつけられた。

 政府高官は「何を考えているのか、本当に分からない相手だった。『イスラム国』との連絡手段もなく、日本が主導的にできることは最初から限られていた」と振り返る。

 2人の殺害予告映像から10日余りで、早期解放への願いは暗転した。安倍首相の中東歴訪中に発生した「イスラム国」人質事件の経過を追った。(久木良太、アンマン=三浦英之)