人文系学部の危機

私は大学院で哲学を専攻しています。近年文部科学省は人文系の学部を廃止する方向に動いており、このままでは大学は就職の役に立つことだけを教える専門学校のようになってしまいます。人文系の学部が危機に瀕しているこの状況に対して、小説家でありながら大学で教えた経験をもつ村上さんはどのような考えをお持ちでしょうか? ぜひお聞かせください。
(ケイ、男性、23歳、大学院生)

人文系ってあまり直接的な役に立たない学問だけど、直接的な役に立たない学問って、世の中にとってけっこう大事なんですよね。派手な結果は出さないけど、 じわじわと社会を下支えしてくれるから。小説も同じです。小説がなくたって、社会は直接的には困りません。でも小説というものがなくなると、社会はだんだん潤いのない歪んだものになっていきます(いくはずです)。でも人文系の学問に対する予算が削られていくというのは、世界中共通した現象であるようです。日本だけではありません。結果がすぐに目で見える、即効的な学問をみんなが求めている。だんだん世知辛い世界になっていくようです。

でもじっさいに大学に身を置いていると、「この人、こんなことを研究していて、ほんとに何かの役に立つのかいな?」と首をひねらされることが、人文系・科学系のいかんを問わず、ちょくちょくありますね。まあ学問というのは本来そういうものなのかもしれませんが。

村上春樹拝