【ワシントン=共同】138億年前に宇宙が誕生した直後の「重力波」の痕跡をとらえたとした米研究チームの昨年3月の発表は誤りだったと、欧州宇宙機関(ESA)などの国際研究チームが30日発表した。
発表後にデータの解釈に疑問が示され、専門家らが検証していた。重力波は、物理学者アインシュタインが存在を予言。宇宙が急激に膨張したとする「インフレーション理論」を裏付けるとして観測計画が進み、確認されればノーベル賞級ともいわれるが、今回はお預けになった形だ。
米チームは、南極にあるBICEP2望遠鏡がとらえた「宇宙背景放射」と呼ばれる電波を分析、特徴的なパターンを発見し、これが宇宙急膨張の際の重力波によって生じた名残だと昨年3月に発表した。
だがこのパターンが銀河のちりの影響である可能性が浮上。BICEP2のデータに加え、ESAのプランク宇宙望遠鏡が観測したより広範囲のデータを、米チームを含む国際チームが精密に分析し、ちりの影響に間違いないとの結論が出た。
ただ重力波やインフレーション理論そのものが否定されたわけではない。国際チームの研究者は「重力波の探索は今後も続く」としている。
インフレーション理論は1980年代初めに、佐藤勝彦自然科学研究機構長らが提唱した。
重力波 物が動くと重力の影響で時間と空間がゆがみ、それが波のように伝わる現象。重力波は極めて小さいため、高密度で大きな質量の物体が動かないと観測は難しい。アインシュタインが理論的に存在を予言したが検出されていない。宇宙は138億年前に誕生した直後、急激に膨張したというインフレーション理論が提唱されており、その際に出た重力波を観測できれば、理論の強い裏付けとなる。宇宙を飛び交う電波「宇宙背景放射」を調べ、重力波が及ぼした影響を検出することによって間接的に確認する試みが進んでいる。
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