挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第87話 帰り道

 オズワルド伯の屋敷を出てから10日が過ぎた。
 道中、ルーファウスは双子の話ばかりしている。
 黒いローブしか着ないアニーと、ワンピースしか着ないクロエは服の話で夢中だ。

 アメリアはぐったりして元気のないリリーを看病していた。
 俺はルーファウスの話を聞き流しながら、なんと報告するべきか考えていた。
 国としては、もうちょっとカースイユ地区に戦力を裂くべきだろう。

 しかし、バリーだけでは対処しきれないくらいには内陸の方でも人手が必要なのは知っている。
 俺がカースイユに行けば話が早いが、ウルサルの事も放っておくわけにはいかない。
 だけど、もう一度あのゲートが開くと対処できる奴がオズワルド伯のもとには居ない。

 そうなると、やはり必要なときにエドに呼びだしてもらうしかないということになる。
 さっきまではエドの力を使って元の世界に帰れないだろうかなどと考えていたはずなのに、いつの間にかこっちの世界の事ばかり心配していた。
 俺もよくよくこっちの世界になじんできたらしい。

 それにしても、この国は意外と窮地に立たされているように思える。
 魔物の対応にほとんどの兵力を向けて、やっと対処できているような状況だ。
 それでもオズワルド伯のところには、もうちょっと隊長クラスの兵士が揃わないと不安が残る。

 そんな中で、文官たちは戦争をしたがっているというのが凄い。
 こんな状態で戦争を始めるなんて、国を潰す最も確実な方法だろう。

「そういえば、カースイユ地区に接している隣の国は戦争中だよな。そっちの国にも魔物は出るんだろ。対処はどうしてるのかな」

「セスルームニルのことかい? 戦争っていっても、どちらも疲弊しすぎて最近は膠着状態が続いてるよ。だけど国内の問題に対処できるような余裕はないだろうね。牽制のために兵士をたくさん登用して、国境の都市でにらみ合いを続けてるよ。働き手が少なくなって物資が不足してるから、うちにとってはいい商売相手なんだ。まあ、そのおかげで文官同士の縄張り争いが絶えないんだけどね」

「お前の実家もさぞ儲かってるんだろうな。オリハルコンの鉱山があるんだろ。戦争需要でうはうはなんじゃないのか」

「まさか。戦争なんかに、そんな高価な武器は使われないよ。オリハルコンってのは、そんな簡単に掘り出せるものでも加工できるものでもないんだ。性能は高いけど、装飾品のような使われ方の方が多いかな。だから僕の実家で掘ってるオリハルコンなんて、国内で使われるのがほとんどださ」

「そんな程度でも儲かるのか」

「まあね。それに僕の実家は手広くやってるから、今はガルプ農園の方がお金になるんじゃないのかな。戦争中は鉱物資源よりも食べ物の方が不足するから、作った分だけ売れていくよ」

「あんたも領地で金儲けがしたいなら、魚の干物でも作って輸出するのが一番手っ取り早いわよ」

 それまでクロエと服の話をしていたアニーが、俺たちの話に入ってくる。
 それにしても、こっちの領主は土地を治めるという意識が皆無で、皆んな小銭稼ぎに精を出している。

「ちまちま魚なんか売ってられるかよ。俺はもうちょっと高度な産業を発展させて、生活の水準ごとあげようと思ってるんだ」

「魚が気に入らないなら、森を切り開いて畑でも作って芋を育てるのはどうなの。あの辺りは土地が弱いから、芋だって育つかどうか怪しいもんだけどね」

 土地なんか弱かろうがなんだろうが、そんなことは肥料でなんとでもなる。
 洞窟に住む海鳥たちが出した糞の化石を見つけたので、それが肥料に使えるとわかっている。
 あとはそれを流通させればいいだけなのだ。

「なによ。その馬鹿を哀れむような目つきは」

「俺はちゃんと考えてるんだよ。素人のアドバイスなんて必要ないんだ。お前は城に帰って毎日のおやつの心配でもしてろよ。俺はね、そこら辺のことは色々と習ってきたんだよ」

「はあ? 隣の国の名前も知らないくせに、よくそんなことが言えるわね」

「いやいや。こう見えて、こやつは意外と考えておる。迷宮も見つけ出して、そこで魔物退治をしてくれる者の募集も始めたのだぞ」

 クロエは俺の手腕をなかなかのものだと評してみせた。

「それは手始めで、もっと色々本格的にやるんだからな」

「あんまり色々手を出さないで、もっと堅実にやった方がいいんじゃないかしら。カエデだって、まだ手探りでやっているんでしょう」

「まったく、アメリアもクロエもわかってないね。俺には発展の道筋が全部見えてるんだよ。何をすればいいかもね。俺はウルサルを、この国で最大の都市にするつもりで発展させるから」

 俺の言葉に女3人が声を上げて笑い出した。
 その様子に俺は憤慨する。

「あのなあ! 俺の持ってる知識が……」


 俺は膝を叩きながら力説しようとした言葉を残してその場から消えた、と思う。
 気がついたら俺は、知らない街角の路地裏にいた。

「さあ、最強の助っ人を呼びましたよ。謝るなら今のうちですからね」

「きっ、きったねーぞ。大人なんか呼びやがって!」

「ただの大人ではありませんよ。この人は……いだっ!」

 俺は無言でエドの頭にげんこつを落とした。

「まさか、子供のケンカに俺を呼び出したんじゃないだろうな」

「喧嘩なんかじゃありません! これはれっきとした戦いなんです。聞いてください! 僕がこの階段に座っていたら、俺たちの縄張りだと、訳のわからない主張で言いがかりをつけられたんです」

 そう言ってエドが指さした先には、いかにも悪ガキといった風情の子供が2人居た。
 大人が出てきたことに、既にびびりまくって何も言えなくなっている。
 だれがどう見ても子供同士のつまらない言い争いだ。

「お前な、俺は今、ルーシの気持が痛いほどよくわかったぞ。10日も馬車に揺られて、それが全部無駄になったよ! どうしてくれんだ!」

「そんなことよりも、今は目の前に居る悪に立ち向かうことだけ考えましょう。油断は禁物ですよ」

 俺はもう一度、エドの頭にげんこつを落とした。
 いくら凄い力を持っていても所詮は子供だ。
 それにしても、こんな子供相手にエドは何も出来ないのか。

 だけど、ここで悪ガキを叱ったところで、何も変わらないだろう。
 それでまた呼び出されるようなことになったら面倒きわまりない。
 エドに対抗できるような力をつけさせることも無理だ。

 そうなると、採れる方法は一つしかなかった。

「おい、お前らの仲間にエドも入れてやってくれないか」

「冗談じゃないですよ! どうして僕が悪党どもの仲間にならなきゃならないんですか!」

 憤慨するエドを無視して俺は悪ガキたちとの話を進める。
 こんな事に関わってる時間など本当はないのだ。

「こう見えて、エドはここの領主にも顔が利くんだ。仲間に入れといて損はないぜ」

 どうする? という顔で悪ガキ2人は顔を見合わせた。
 二言三言話したのち、ガキ大将らしき方が来いよと言ってエドにアゴをしゃくった。
 それでもエドは甘言には乗らないなどと言って息巻いている。

 しかし、その後にガキ大将の言った秘密基地があるんだの言葉にその態度が軟化する。
 そしてエドは悪ガキたちと一緒にどこかへ行ってしまった。
 残された俺は途方に暮れるしかない。

 しばらく考えてから、まだエドの魔力が使える事を確認して、俺は王都に向かってワープゲートを開いてみた。
 すると、その魔法はあっさりと成功してして、俺の前には懐かしの訓練場が現れる。
 しかしそれきり俺の魔力が回復しなくなったので、今頃エドは魔力を使い果たして動けなくなっていることだろう。

 こんな事なら最初からこうすればよかった。
 バリーは出払っているらしく、訓練場には誰の姿もなかった。
 俺はさっそく報告でもするかと城の中に入った。

 部屋で一人寂しく仕事をしていたシャノンに、王様に会うにはどうすればよいのか尋ねると、今は体調を悪くして伏せっているから自分に報告しろという。
 俺が言われた通りにカースイユで見てきたことをシャノンに報告すると、彼女は眉間にしわを寄せて黙り込んだ。

「あの様子じゃ、向こうも戦力が相当に足りてないぞ。それに、もうちょっと兵士の訓練に力を入れた方がいいんじゃないか。この国は必要な戦力が全く足りてないぜ。だからルーファウスあたりは向こうにやった方がいいんじゃないのか。本人もそれを望んでるようだし」

「そんな簡単には決められないわ。彼の家は、この国でも有数の資産家なのよ。もしもの事があったら大変だわ。カースイユは毎日戦闘が起こる最前線なのよ。その事についてはアルダあたりと話し合って決めるわ」

「そうか。俺は疲れたから風呂にでも入って寝るよ」

「それでアニーたちはどうしたのよ。一緒じゃないの」

 俺はあと2、3日したら帰ってくるとだけ言い残して風呂場に向かった。
 城内の風呂には常にお湯が張ってあって、行けば勝手に着替えなども出てくる。
 俺が疲れたなあと思いながら廊下を歩いていると、エゴンに捕まる。

 王様が死ぬ前に孫の顔が見たいと命令したそうで、たいそう焦っていた。
 あのインチキな性技の指導を受けろと、うるさく迫ってきた。
 このままでは死刑になると焦っているが、死ぬ前にシャノンが子供を産んだかどうかは王様が死んでみなけりゃ結果は出ない。

 俺は何を焦っているのやらと、エゴンを適当にやり過ごしてその場をあとにする。
 10日ぶりの風呂に浸かって疲れの出た体で廊下を歩いていると、見たことのない貴族が話しかけてきた。

「長官殿とお見受けしますが、間違いありませんかな」

 話を聞いてみると、ウルサルの隣を治めている貴族だった。
 現在、近くの領地では人がウルサルに出稼ぎに出てしまって困っているという話をされる。
 どうやら苦情を言いに来ているようだったが、俺は素知らぬ顔でそれは困りましたねえなどと言って一緒に考え込むふりをしてやり過ごした。

 それはそうだ。
 この国じゃ収穫高の5割6割の税金は当たり前なのだ。
 少しでも暮らしやすいところを探してないとやってられない。

 そのうち村ごと俺の領地に移動してきたらいいなと考えながら俺はその苦情話を聞いていた。
 そして部屋に帰り、もう一度シャノンからアニーたちはどうなったのかと詰問されてから俺は眠りについた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ