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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第83話 少年エドと召喚の魔法

 木製のいい加減なボートを漕ぎながら、もうちょっとましなもんはないのかと言いたい気分になった。
 きっと、こんな海に出る物好きはいないから、こんなものしかなかったのだろう。
 照り返しがあるなかで船を漕ぐというのは思った以上にしんどい。

 何もしていなくても汗が噴き出してくるくらいに船の上は蒸し暑いのだ。
 最初は日除けもない船の上だからかと思っていたが、あきらかに亜熱帯の気候になったように感じる。
 そんな中で3時間くらいひたすら漕いでると、島の輪郭がはっきりと見えてきた。

 なぜか砂浜には椰子の木のようなものが生えている。
 島が近くなってくるに従って、島の周りで釣をしたり、網を投げたりしている人が見えてくる。
 危険な魔法の調査に来たというのが馬鹿らしくなるくらいのどかな景色だった。

 俺は女性陣の要望で船の周りを冷気魔法で冷やしながら、ひたすらオールを漕ぎ続けた。
 しばらくして、俺たちはなんとか砂浜に上陸することができた。
 森と砂浜しかないような島に着いて、近くに生えていた木を見上げる。

 遠くから椰子の木に見えていたものは、近くで見ても椰子の木にしか見えなかった。
 南国特有の葉の大きな木々の間に家の屋根が見えるので、俺たちはそっちに向かって歩き出した。
 砂浜から道なりに進んでいると、すぐに風通しの良さそうな家が並んでいる場所に出る。

「ちょっと私が行って話を聞いてくるわ」

 アニーが一番手前にある家を指してそんなことを言う。
 そんな適当なことで大丈夫かと思うが、アニーがそう言うのならそういうものなのだろう。
 しかしアニーの安全だけは任されているので俺もついていくことにする。

 あんたなんかが着いてきても意味がないわだとか、邪魔なだけよだとか言われるが、気にしないで一緒に歩き出した。
 一つ目の家を訪ねると、中では老婆が破れた網を縫っているところだった。
 なぜかアニーが高圧的な態度で、魔法を作り出した魔術師の居場所を吐きなさいなどと言い出すので、それをたしなめる。

 聞き込みはこうやるのよとかなんとか揉めていると老婆が口を開いた。

「ああ、サスケさんところの倅に会いに来たんかね。それなら今頃はまだ家に居るだろうね。玄関脇に赤い花の咲いた家だよ。訪ねてごらん」

 俺はお礼を言ってその場を後にした。
 まだ何か言い出しそうな様子のアニーを、腕を掴んで外に連れ出した。

「そんな攻撃的な言い方をしたら、怪しまれるに決まってるじゃないか。それで目的の奴に逃げられでもしたらどうするんだよ」

「そんなの探せばいいじゃない。こんな狭い島ならわけないわよ」

「そんな簡単にいくかよ。地元の人しか知らない洞窟でもあったらどうするんだ」

「うるさいわね。副大隊長のやり方に文句付ける気なの?」

 こんな調子で内輪揉めしながら、俺たちはアメリアたちのもとへと戻った。
 そしてみんなを連れて、さっき聞いた赤い花のある家の前にやってくる。
 家の中におっさんと少年の気配を感じるなと確かめていると、いきなりアニーが中へと入っていった。

 俺が止める頃には、例の黒蛇で2人を締め上げた後だ。

「ひええ、お助けを。これは一体何の真似ですかい」

「この島を世界一安全な島だと言いふらしてるのはあんたね。それに怪しげな魔法まで作り出したそうじゃない。知っていることを全て話しなさい」

「へ、へえ。うちの息子がですね、えらい召喚魔法を作り出したんですよ。だけど、決して怪しい魔法じゃなくてね。その魔法があれば、もう魔物に襲われる心配もしなくて済むんでさ。最初は疑ったんですけどね。数ヶ月前に海から現れた魔物を、こいつ一人で本当に倒してしまってね。話を聞く限り、最強の助っ人を呼び出す魔法に間違いないようなんで、村長に相談をしたら、宣伝してこの島にもっと人を集めようってことになりまして」

「最強の助っ人ねえ。確かに禁呪の様な雰囲気の話ね」

 アニーが禁呪と口にすると、少年の方の顔色が変わった。
 演技をするような歳にもなってないから、心当たりがあるに違いない。

「そんな恐ろしげなもんじゃありませんや。ただちょっと気のいい変な奴を呼び出すだけです。どうかご勘弁を……」

「ですって、どうしようかしらね」

「穏便に済ますんだから、そんな高圧的な態度に出るなよ。取りあえずは、その魔法を見せて貰うって事でどうだ」

「その魔法は見せられるの?」

「ええ、ちょっとここではあれですが、今呼び出させますか?」

「場所を変えましょう」

 俺たちは村の近くにある砂浜に出た。
 途中で会う人にもサスケというおっさんは挨拶されて、そこそこ人望もあるようだった。
 そういえばこの村には武装した人が少ないなと言うことに気がついた。

「そうなんです。うちのせがれがいれば大丈夫だろうって、村の中では武器なんか持たなくなりやした。しかし最近は魔物が少ないもんでね。ここ数ヶ月は影も形も見当たりません。陸の方には大量に出ているらしいんですがね、どういうわけか島には出なくなってきたんですよ。魔物の方にも、この俺の宣伝が効いてるんじゃねえかって話ですよ」

 冗談で言ってるのだろうが、もっと悪いことが怒る前兆ではないかという気がする。
 俺がオズワルド伯の屋敷で見た空の歪みが、この島からだとかなり近くに見える。
 まるでリゾートのパンフレットにありそうな白い砂浜で、アニーは2人の拘束を解いた。

「ほら、エド。お前の魔法をこの人たちに見せてやってくれ」

「それは構わないけど、あんまり呼び出すなって怒られちゃったんだよ。あの、どうしても呼び出さなきゃ駄目ですか?」

 話の深刻さも、自分の立場もわかっていない、実に少年らしい言葉だった。
 子供の年齢はよくわからないが、小学校高学年くらいの年齢じゃないかと思う。
 利発そうな少年ではあるが、自分で魔法を作れるほどの魔術師には見えない。

「周りに危険がないか、国にとって脅威となる魔法ではないか、禁止された魔法ではないかを確認する必要があるのよ。今すぐ呼び出さないというのなら、お父さんと一緒に牢屋に入って貰うことになるわ」

「それなら呼び出します。ちょっと待っていてください」

「その前にどんな魔法なのかだけ教えてくれないか」

「はい、この世で一番強い存在を呼び出す魔法です。悪い魔物は呼び出さないように、正義の心を持った存在だけを呼び出します」

「世界中から探し出して呼び出すのか。そんな魔法が可能なのかな」

 俺がクロエの方に首を向けると、う~むと考え込んでから答えが返ってきた。

「可能かもしれぬが、相当な魔力を必要とするだろうの」

「もう呼び出してもいいですか」

 さすがにちょっと恐ろしいが、まあ見てみなければ判断できないだろうと思い、俺は少年にやってくれと頼んだ。
 少年は海に祈りを捧げるようにしゃがみ込んで手のひらを合わせる。
 その瞬間、背筋に冷たいものが走るほどの魔力の高まりを少年から感じた。

 迷宮の深層でも、これほどの魔力を持った敵は見たことがない。
 それを目の前の少年はこともなげにやってみせたのだ。
 でかい魔方陣が足下に現れて、辺り一帯を包み込んだ。

 その中心から光があふれ出し、いつか精霊を呼んだときのような状況になる。
 その光の中を、何が現れるのかと固唾をのんで見守っていると唐突に光が消えた。
 しかし、魔方陣の中央には何も変化がない。

 でかいものなのかと空を確認し、海を確認してみたが何もない。

「ど、どこに呼び出したのよ」

「あ、あれ、おかしいな。失敗ですかね」

「なるほど、凄い魔法だの。確かに、これならば強いものを呼び出せる。それに凄いマナの容量をもっておる。これほどの魔力が使えるなら、失敗を繰り返しながら魔法を作り出すこともできるやもしれぬ」

 しかし、その後もサスケに言われて何度か魔法を使っていたが一度も成功しなかった。
 次第にサスケの顔色が変わってくる。

「複雑な魔法だから、必ず成功するわけではないのかもしれぬ」

「なあ、こういう場合はどうしたらいいんだ?」

 俺の言葉にアニーは困ったような顔をしただけだ。
 どう見ても、目の前の2人が演技をしているようには見えない。
 魔法が使えなくなってしまったという事態に本気で焦っている。

「それならば、お主がこの魔法を習うという事ではどうかの。取りあえず成功してみなければ判断もつかぬだろう」

「俺が? だけど、危険を取り除くってのが仕事だからな。どっちかって言うと、ここに住んでる人が危険な雰囲気になってきたよ。アニーはどう思う」

「う~ん。まあ、あんたが魔法を教われるならそれでもいいんじゃないの。だけどあんたに、あんな凄い魔力を消費する魔法が覚えられるの?」

「一度くらいなら使えると思うけど、どうだろうな」

「僕はあまりこういう任務を任されたことはないんだけど、よく危険な兵器なんかを徴収して事を治めるなんて事もあるよ。少年に魔法が使えなくなったのなら、その魔法を徴収したってことにして治めてもいいんじゃないかな」

「そんなめちゃくちゃな話があるか? だけど魔法が再現できないんじゃ、確認のしようもないよな」

「じゃ、決まりね」

 アニーとルーファウスの意見で、俺は少年から魔法を教わることになった。
 それから俺は、浜辺でエドから魔法の仕組みを説明してもらう。
 魔法を教えることにエドは抵抗がないようだった。

 確かに、いくつもの魔法を複雑に組み合わせた高度な魔法だった。
 とてつもない才能の持ち主であることは間違いがない。

「どうして僕の魔法は成功しないのでしょうか。みんなに期待されているのに、いったい何が起きてるのでしょう。このままでは島の人が魔物に襲われるかもしれません」

「でも最近は魔物も少ないんだろ。そのうちに使えるようになればいいだけじゃないか。一度使えた魔法は忘れたってすぐに使えるようになるさ」

「そうでしょうか」

 落ち込んでいるエドを慰めながら俺は魔法を教わる。
 最後にクロエからもアドバイスを貰って、俺はエドの作り出した魔法を覚えた。
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