第82話 双子と夕食とルーファウス
部屋で休んでいると、夕食に呼ばれた。
みんなで下の階に降りて食堂に行くと、オズワルド伯の他に女の子が2人席に着いている。
2人の女の子は、双子のようにそっくりな見た目をしていた。
鮮やかなか赤毛を肩の上で短く切りそろえている。
その2人を見た途端、ルーファウスの動きが固まった。
「僕の運命の人だ」
「かもな」
「はあ?」
変なことしないでよと、アニーが牽制の視線をルーファウスに向ける。
俺は始めて見たが、これがホビット族という奴ではないだろうか。
普通の人間よりも二回りくらい小さく見える。
「この2人はセシリアとキャロルだ。この地で生まれた双子で、並々ならぬ魔法の素質を持っている。その力のせいで村を追いだされてな。私が引き取って育てたのだ」
俺たちに2人をオズワルドが紹介してくれた。
オズワルドが引き取ったと言うからには、戦いに向いた能力を持っているのだろう。
しかし、目の前の2人からは戦っている姿がまったく想像出来ない。
「魔法の素質というのは?」
「キャロルの方は、この世に存在する全ての妖精と契約が済んでいる状態で生れてきた。すべての精霊魔法が生まれつき使えるのだ。セシリアの方は魔法の精度と威力が桁違いに優れている。魔力の消費も生まれつき少ない。しかしキャロルには魔力が普通の人の半分もないし、セシリアは精霊魔法の契約も出来ない。それでセシリアは初級魔法を習っている最中だ」
「まるで妖精か精霊の力が、2つに別れて宿っているかのようだのう」
「そうなのだ。2人がそろえば、すべての精霊魔法を強力に使いこなすことが出来る。だが一人では人並みに魔法を使うことすらおぼつかない。実に不思議な双子なのだ」
「すべての精霊魔法というと、悪魔と契約するような魔法も?」
俺がそれを口にすると、ルーファウスの表情が険しくなった。
悪魔と契約する魔法は、そのほとんどが禁呪だからだ。
「悪魔と契約するような魔法は使うことが出来ないらしい。私には違いがよくわからないが、キャロルに言わせれば祝福の力と破壊の力は別なのだそうだ。だから禁呪が使えたりはしないから、そこは安心して貰いたい」
「あり得ないような力だの。おおよそ人間として生まれた者が持つような力ではない」
2人に一番の興味を示したのはクロエだった。
自分に近いものでも感じたのだろうか。
「とは言え、ここではそうそうないほど有益な力だ。だから私は2人に戦闘訓練まで施している。君に与えられた任務も、そういった有益なものを害する恐れがあるから、慎重にやってもらえるとありがたい」
オズワルドが俺の方に話の矛先を向けた。
俺はもとから捕まえたり戦ったりというつもりはない。
俺がそう答える前に、ルーズベルトが我々にお任せあれとかなんとか言い出したので、俺は口を閉じた。
その後は普通に食事を取って、任務から帰ってきたという隊長の一人に挨拶をした。
データスというむさいおっさんで、馬鹿でかい槍を担いでいた。
肩が俺の太ももくらいあって、筋肉に埋もれて首がない。
そのおっさんと挨拶しただけで、ルーファウスは顔に疲れの色をみせる。
「なんだよ。知り合いじゃないのか? もしかして苦手な奴か」
「僕はああいうたぐいが苦手なんだ。実家にあるオリハルコン鉱山で働いてた連中にそっくりなんだよ」
「それでどうして苦手なんだ」
「なんで苦手かって? ああいうのが得意な人間なんていやしないさ」
なんだか妙に元気がなくなって、その様子が好ましく思えた俺は根掘り葉掘り聞いてみたくなる。
なんだか興味をそそられる話の予感がした。
「詳しく話してみろよ」
「オリハルコンの鉱山というのは、並の人間では振り下ろせないようなツルハシを使うんだ。鍛え抜かれた人間でも、30分働いて2時間休むというような働き方しか出来ないようなものをね。重しの入ったとてつもなくでかい奴さ」
まるで筋トレみたいだ。
さぞかしむさいおっさんの集まる職場だろう。
「脳みそまで筋肉で出来たような筋肉だるまの巣窟だよ。そいつらに子供の頃から玩具にされてきたのさ。女の子みたいでかわいいかわいいって散々からかわれたよ。キスされたり体を触られたりもしたね。雇い主の子供だからそれ以上の事はされなかったけど、僕の心には深い傷が残った。そんな話だよ」
「ゲイの巣窟で育ったから、小さな女の子を好きになったのか」
俺の言葉に、ルーファウスは髪の毛をかきあげながら答えた。
「いや、それは美的センスの問題だから深い因果関係はないさ」
本人はそう言ってるが、あきらかにそれが原因の様に思える。
雇っていると言うからには、家に住み込みで働いていたに違いない。
24時間、そんなのが家の中にいるというのは辛いんじゃないだろうか。
「そいつらに囲まれているのが嫌で、僕は家を飛び出したのさ。そしたら、あいつらは僕の捜索を親に申し出てさ、国中を追い回されたよ。最後は迷宮の中で捕まって、帰るように説得されたんだ。彼らの泣き落としによって僕は家に帰ることになったのさ。だからああいうのが昔から苦手なんだよ。だけどそれだけじゃなくてさ、さっきのデータスとは能力的にも僕とは相性が悪いからね」
「どんな能力だ」
「魔力を食べるどでかいミミズを召喚して戦うのさ。実体のない巨大なミミズだよ。いきなり地面から飛び出してきて体に食いついてくるんだ。それで魔力を根こそぎ奪われるんだよ。実体はなくとも、その牙にか噛まれれば怪我もするから、1回攻撃を受けてしまえば魔力を失って怪我もするってわけ。それで逃げることも距離を取ることもできなくなる。だから、あいつの能力は魔法使い殺しと呼ばれてるんだ」
アニーの蛇にしてもアルダの電撃にしても、隊長くらいになるとなかなか面白い能力を持っている。
そういえばルーファウスの能力について、俺はなにも聞いたことがない。
キネスオーブやバンシーアークのような固有魔法でも持っているのだろうか。
俺は何気ない調子で聞いた。
「そういや、お前にはどんな能力があるんだ」
「リピートキャストとダブルキャストさ。同じ魔法なら何度でも連続して使えるし、上級魔法でも二つ同時に唱える事が出来るんだ。この世界に二つと無い、偉大な能力だよ」
「ふ~ん、イマイチだな」
「なっ、なにを馬鹿なことを! これの凄さがわからないなんてカエデはちょっと世間知らずだね。いいかい、上級魔法なんてのはね、あり得ない破壊力を持つけど、それ一つだけでは自分まで巻き込んでしまうほど危険なものなんだ。例えば、毒ガスとかね。風向きを間違えれば自分がイチコロさ。それから身を守るために浄化の魔法が使えなければ、おいそれと使うこともできないほど危険なものなんだ。それを同時に使えるのが僕の能力なんだよ。言っておくけど、カエデがドラゴンに食いちぎられたときも、僕じゃなかったら治癒と解呪の魔法を、二つ同時に使い続けるなんて離れ業は出来なかったんだよ。ドラゴンの牙には呪いがかかってるんだ。放っておいたら今頃はくさった死体になってただろうね」
バンシーアークと魔法の瞬間発動の前ではどちらも必要ない。
だけど俺はそれについて突っ込まなかった。
小さな女の子の魅力と、自分の能力については譲れないものがあるようだと知ったからだ。
耳元でこれほどまくし立てられてはうるさくてたまらない。
「それはわかったからさ、今度の運命の人にはアプローチをしくじるなよ」
それを口にしたら、ルーファウスは顔を赤らめて大人しくなった。
それにしても地面から実体のない召喚物を使って攻撃するというのは考えたことがなかった。
エリアセンスの完全な死角を突かれたような気分だ。
だけどまあ、魔法使い殺しと言うからにはオーラが使える俺なら避けられる程度のものなのだろう。
気に留めるほどでもないかと気楽に考える。
「そういや、そんなに魔法を使って、お前はマナが足りなくなったりしないのか?」
「この世には優れた装備が存在するからね。マナがなくなったら、そこら辺から魔力を集めればいいだけさ。使用する魔力を半分にしてくれる腕輪もあるし、魔物に与えたダメージをマナとして吸収してくれる指輪なんかもあるからね」
ああ、こいつは大金持ちのボンボンだったかと思い当たる。
それなら装備でなんとでもなるのだろう。
魔道仕向けの装備など高すぎて、アメリアには何一ついいものを買ってやれなかった。
きっとルーファウスの付けてる指輪一つで、バリーの大剣なんて目じゃないくらいの値段がするに違いない。
「それで、今回の運命の人はどっちなんだ」
「それはまだわからないよ」
「……両方、気に入ったのか。まあ似たようなもんだしな」
「その言い方は感心しないね」
俺がルーファウスと別れて部屋で休んでいたら、アニーがやって来た。
「オズワルド伯に船を貸してくれるように頼んできたわ。いつでも出発できるけど、兵士たちを向こうに連れて行くことはできないわね。時化が来るらしいから、明日は早めに出発した方がいいわ」
「気が利くな」
「感謝の言葉は?」
「優秀な部下を持って幸せだよ」
「部下!? 部下だと思ってたの!?」
「じゃあ優秀な同僚を持って幸せだよ。それよりも、その島はここから遠いのか」
「そんなに遠くないわ。ここからも、かすかに見えるくらいよ。まったく、あんたはぼんやりしていて使えないわね。そんなこと、この屋敷の人に聞けば簡単にわかることじゃない。あんたって一日中気絶してるのかと思うほど役に立たないわよね」
俺はアニーの言葉に深く傷ついたので、無言でドアを閉めて出発の準備を始めた。
海を渡るのだから、あんまり重装備で行きたくなかったので、鎧などはボールの中に仕舞ってしまった。
それが済んだら、俺はベッドに横になって眠りについた。
翌朝起き出して、着替えを済ませて外に出たら4人はすでに準備を終えて俺が出てくるのを待っていた。
「いつでも出発できるわよ」
そう言った、アニーの手際の良さに感心する。
それにしても見えてる島に行くのに、わざわざボートを用意する必要があるのだろうか。
「あのくらいの距離ならワープゲートでいけるんじゃないのか」
「あの島の周りは魔力の歪みが強すぎて、ワープゲートの魔法が使えないのよ。異空間を開くゲートも使えないから気を付けなさいよ。このあたりならぎりぎりゲートが開けるわ」
それを聞いて、俺はボールの中から刀だけ取りだして腰に差した。
いざというときに武器がないというのは困ったことになる。
そして俺たちは小さな手こぎボートの中に乗り込んだ。
オールは俺とルーファウスが担当することになる。
俺たちは赤く染まる海に向かって漕ぎ出した。
向かう先には、昨日俺が見つけた空の歪みが遠くに見える。
その下に見えるのが、この国で最も危険といわれている島だった。
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