第78話 西の海
謁見の間では貴族たちが集まって騒いでいる。
俺が個人的に呼び出されたのだから2人で会うだけでも問題ないはずなのに、どこまでも仕来たりにこだわり集められたのだろう。
貴族たちは、しきりに不吉だとか言って騒いでいた。
しかし俺がやって来て、王様が口を開くと騒ぐ者は居なくなる。
俺は良く躾けられてるなと感心した。
「そなたも聞き及んでおろう。西の海にある死海と、その一帯の海域が活性化しているとの報告があった。そして、その地にある島で、よからぬ噂が流れておる。それがどうも禁呪も関わるという話もあるので捨て置けぬ。特にこの国にとっては一大事だ。それを調べてきてもらいたい」
そんな話は今聞いたばかりだし、調べてきてもらいたいとか言ってるが、きっとこれは命令なのだろう。
早速いいように使われ始めてるなと感じながらも、俺は了解しましたと返事をした。
王様は近くに居た顧問官の爺さんと小声で話をしてから、こちらにまた向き直った。
「それでは、アルダが居ないとのことなので、そなたに隊を率いて行ってきてもらいたい。詳しいことは他の者から聞くがよい」
それでもう下がっても良いということらしかったので、俺は謁見の間を出た。
そこに、さっきの顧問官の爺さんがやって来て詳しい話を聞かせてくれる。
「死海というのはご存じですかな」
俺がさっぱりですと答えると、そううですかと言って説明してくれた。
「死海というのは、魔力が異常に集まって世の理のバランスが崩れてしまった海のことです。わかりやすく言えば、魔力により異常な状態になった海を指す言葉です。そこらの海よりも魚は捕れますし、魚の味も驚くほど美味だったりするのです。そのかわり異界とのゲートが開きやすく、魔物が現れたりする、大変に危険な海です。オズワルド辺境伯の治める領地内にあり、この国における魔物との最前線とも言えるでしょう」
辺境伯というのは、私設軍隊を持って最前線の地を治める地方長官のことだ。
下手をすれば国王よりも動かせる軍隊の数は多い。
他国と戦争していない国において、魔物との最前線を担当するカースイユ地区は最重要地域だそうである。
「死海域が活性化しているというのは由々しき事態です。さらにその海域に島があって、そこでおかしな噂が流れているのです。どうもその島が、世界一安全な島であると触れ回っているらしいのです。あの海域にあって、それはあり得ません。今回はその噂の根源を探ってもらいたいというわけです。最強の魔法を作り出したとの噂があり、なにやら禁呪などを使っているのかもしれません。そうなれば貴方くらいの力がないと危険でしょう。もしそのような魔法があったとしたら、魔法の使用者を抹殺してでも無力化していただきたい。もしその魔法に危険がないと判断出来たり、無力化出来るのならば、それでも構いません」
「活性化しているというのは、魔物の出現が多くなっていると言うことですよね。そっちの方は手伝わなくてもいいのですか」
「オズワルド伯から申請があれば受けていただいて結構です。しかし、国王より受けた任務が優先順位としては上となります。国を脅かすような力を持った者が現れぬとも限りません。もしそのようなことがあれば一大事です」
「だけど俺は軍隊なんて率いたことがありませんよ」
「では、他の隊長を連れて行ってはどうでしょうか。。バリーかルーファウスを連れて行ってもかまいません。ルーファウスも先日より戻ってきたようです」
「じゃあ、アニーとルーファウスを連れて行かせてください」
「そうですね。禁呪を使う者と相見えるとなれば、アニーの力は役に立ちましょう。しかし、彼女の能力が他国の者に漏れるようなことがあってはなりませんよ。失うわけにもいきません。貴方が守り切れるというなら、私から同行を許してくれるように言ってみましょう」
俺としては威張り散らして周りを従わせるのが得意そうだからアニーを選んだだけだ。
そしてルーファウスに至っては、暇つぶしの話し相手として選んだに過ぎない。
だけど俺の能力なら守り切れないということもないだろう。
俺は自信を持ってアニーの安全を請け負った。
「それでは1番隊は城に残していただいて、貴方には3番隊から8人ほど連れて行ってもらいましょう」
「そんなに兵士が必要ですかね」
「国王様が貴方を慮って兵士を預けると申しておるのです。断るのは角が立ちます。それに、あの辺りをあまり甘く見ない方がよろしい。異界とを繋ぐゲートから魔物が現れることもあります。特に海沿いは気を付けてください。海沿いで人があまり居ない地域には、迷宮の深部と同じくらいの危険があります」
「それじゃあ明日の朝には出発します。道のわかる者がいると助かるのですが」
「それなら大丈夫でしょう。8人は私の方から選んでおきます。カエデ殿も、そのような文官じみた格好では兵士の前で示しもつきますまい。王家の品々を御付けになるといい。私が選んで差し上げましょう」
どうぞこちらへと言われて、俺は老人に付いていった。
その先で、やたらとギラギラした鎧を着せられる。
剣もセットの装備だと言うので、明日から刀はボールの中に仕舞うことにする。
マントもセットでコーディネートしてもらい、それが終わるともとの服に戻る
それで俺は明日からのことを相談しようと、下に降りてルーファウスを探した。
そしたら山のような雑草を抱えて、うろうろしているルーファウスを見つける。
「なにしてんだ……」
「アニーにふさわしい花を探しに行ってきたのさ」
「ウサギじゃあるまいし、そんなに青々しいの喜ばないんじゃないか」
「ウサギがなんだか知らないけど、僕は忙しいんだ。何か用かな」
「王様から直々の命令があってさ、カースイユまで行って調査することになったんだ」
「へえ、それはちょっと面白そうだな。だけど随分と遠くまで行くことになったんだね」
「それでルーファウスにも付いてきてもらおうと思ってさ。その報告に来たんだよ。別に構わないだろ。アニーも来るから、いい暇つぶしになると思うぜ」
ルーファウスはわかったと言って、花束を地面に置いた。
その途端に、馬がわらわらと集まってきて花束を食べ始める。
ルーファウスは必死で追い払おうとしたが無駄な努力だった。
「どうせ、そんな雑草みたいな奴じゃ喜ばないって。花ならもうちょっと緑の少ない奴を選ばないとさ」
そうだろうかと言って怪訝な表情をするルーファウスに準備してくれるよう促してから、俺はアニーに仕事を手伝ってくれるよう頼みに行った。
アニーはシャノンの執務室でおやつの時間を迎えていた。
「じゃあ、私の護衛はどうなるのよ。今はアニーしか居ないのよ」
「じゃあ、アルダに来てもらうってのはどうだ。妊娠したって言ってもすぐ生まれるわけじゃないんだろ」
「妊娠すると魔法が使えなくなるから無理ね」
「護衛なんか居なくてもいいんじゃないのか。それが駄目なら、王様のところから近衛兵を借りて来てもいいだろうし」
「お父様にそんなことを話したら謀反を起こすんじゃないかと勘ぐられるわ。まだ何もない方がマシね」
「だけど王様の命令で決まっちまったんだよ。俺は兵士なんて率いたことがないから、アニーが居てくれると助かるんだよな」
「あら、自分の無能がよくわかってるじゃない。それなら私も手伝うのにやぶさかじゃないわ」
俺の言葉に、お菓子に夢中になっていたアニーが反応する。
この無駄に威張り散らすところを買って、俺はアニーを選んだのだ。
まさにうってつけの人材だなと、俺は自分の判断に満足した。
「ま、私は護衛なんてなくてもいいわ。どうせお城の中にいれば安全だもの。行ってきなさいよ」
「ははっ、まあアニーの護衛なんて最初っから役に立ってないしな」
シャノンはそうそうと、俺の意見に賛同した。
アニーはそれでシャノンに向かって怒り始める。
「それは私たちも行くことになるの?」
それまで黙ってお菓子を食べていたアメリアが顔を上げた。
俺はそのつもりだよと答える。
妻を仕事で連れ回すというのは、おかしな事があるだろうか。
「やはり、そうやって良いように使われることになったのだの。西の海が騒がしくなる頃だからのう。そのような話が来ると思っておった」
「西の海について何か知ってるのか?」
「あそこは昔より魔力の集まりやすい危険な土地だ。海の底に悪魔が眠っているという話がある。本当かどうかは妾にもわからぬが、危険な場所であることには変わりがない。何百年かの周期で活性化するのだが、この国なら知っておる者がいてもおかしくない。大方、それを見越して、お主を取り込んだのだろう」
「今回の話は、それとはちょっと違うみたいだけどな。でも、そっちの方には行くことになったんだ。ちょっとした調べ物だから、そんなに大変な事はないと思うけど」
「色々と忙しいわね」
そう言ってアメリアが笑った。
確かに、領地やら結婚式やら調査やらと最近は忙しい。
迷宮生活をしていた頃が懐かしくなってくる。
「それじゃ、3人とも明日までに準備を済ませておいてくれよな」
それで俺はやるべき事が済んだので、アニーにルーファウスが探していたと吹き込んで成り行きを眺めることにした。
アニーはゆっくりとおやつを食べてから、あっさりと護衛対象から離れて一階へと降りていく。
俺はその動きをエリアセンスで探りながらストーキングした。
しかしアニーはいっこうにルーファウスを見つけられないので、偶然を装って近づき、馬小屋の裏を指さしてやった。
それでやっとアニーは、馬糞を肥料にして育だつ雑草を漁っているルーファウスを見つける。
俺は馬小屋の中からその様子を窺った。
「用があるんでしょ。なんの用よ。決闘でも申し込むのかしら」
「ハイ、愛しのマイハニー。今日も野に咲く花のように美しいね。キミのお尻の間にボクの愛を届けたいよ」
顔だけはいいので、こんなふざけた態度でもそれなりに形にはなっている。
これがルーファウスの口説き方かと興味深く思いながら、俺は薄っぺらな笑顔に注目した。
ルーファウスの態度に、アニーは「はぁ?」みたいな感じで訝かしんでいる。
アニーが何を企んでるのよと言い出し、ルーファウスはこの愛を届けたいんだと言いながら自分の股間を指さす。
あれほど自信に満ちあふれていたのに、結局のところ旅では何も変わらなかったのだ。
むしろ思い込みとマイペースが悪化して、余計に悪いことになっている。
俺は今2人を会わせたのは失敗だったなと思いながら馬小屋を出た。
後ろからは甲高いビンタの音が聞こえてきた。
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