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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第77話 帰ってきたルーファウス

「ねえ、カエデは私たちにどうして欲しいの?」

「そうねえ、強いて言えば、俺はクロエとアメリアのキスしてるところが見たいな」

「ば、馬鹿かだ」

「へ、変態だわ」

「ち、違うって、そんなんじゃないよ」

「いくらお主の頼みでも、そのようなこと気持ち悪くてできぬ」

「そうよ。どうしてそんなことさせたがるのよ」

 結婚式が終わってしまうと何もやることがなくなって、しかもメイドが何でもしてくれるので生活が快適になった。
 そのせいで俺は、自分の部屋に引きこもって3日ほど廃退的な生活を続けていた。
 こんなの良くないなあと思っていたら、アニーがルーファウスの帰還を知らせてくれた。

「やだ、服くらい着てきなさいよ。それよりもルーファウスが帰ってきたのよ。えらい変わりようでびっくりしたわ。あんたも来てみなさいよ」

 部屋の扉を叩く奴がいるなと思って扉を開けたら、アニーがそんなことを言っのだ。
 ちょっと興味をそそられたので、俺は服を着て窓から外に飛び降りた。
 すぐに俺は隊長室がある小屋の方へと向かった。

 小屋の中に入るとルーファウスとバリーがいる。
 なぜかルーファウスは肩の上に鳩のような鳥をのせていた。

「やあ、カエデ。久しぶりだね」

 そう言って、うさん臭いさわやかな笑顔を見せるルーファウスは特に変わったところがない。
 そんなことを考えていたらルーファウスの肩の上で、鳩のような鳥が喋った。

「我々の見違えるような変化に声もないようだね。それもそうだ。男子三日会わざれば刮目して見よ、という故事にもあるとおり、ひと月以上も留守にした我々の変化には目を見張るものがあるだろう。ひさしぶりに会って慎重になるのは、わからなくもない」

「あのー、この方はどちら様かな?」

「我が輩はルーズベルトである」

 あまり話したことはなかったが、ルーズベルトというのはルーファウスの精霊である。
 確か彼の姿は、鷲とか鷹を思わせる猛禽類のなりをしていたはずだ。
 それが何故かゆるキャラみたいな見た目の、くるっぽーとか言いそうな鳥になっている。

「……何があったんだ」

「ルーズベルトを僕の不注意で死なせてしまったのさ。それで仕方なく、そばに落ちていた鳥の死体に乗り移ってもらったんだ。それからの僕たちは、まるで真の力に目覚めたように調子が良くてね。そのおかげで無事に危機をくぐり抜けて、こうして戻ってきたわけさ」

「真の力というのは?」

「今までは精霊の力を借りるときは大変な苦労をしていたんだ。でも、ルーズベルトがこの姿になってからは、簡単に力を借りられるようになったのさ」

「小さい身体のほうが、精霊は力を発揮出来たりするのか? 俺はそんな話聞いたことないけど」

「というよりは、我が輩が昔の姿でルーファウスの肩にとまると、肩から血が噴き出して大変だったのだ。それでは我々の力が発揮されぬのも致し方ない。ところが、この身体になると、なんと一日中肩にとまっていても、ルーファウスは疲れぬのだ」

 ここにもまた馬鹿が居たかと呆れていたら、バリーが感心したようにうなずいる。

「なるほどなあ。俺もガスを背負って戦うのはハンデがあると、昔からアルダに言われてたんだ。一日中乗っけてても疲れないってのはいいかもな。だけどジャックみたいなネズミじゃ踏んづけちまいそうで怖いだろ」

 俺はもうそっちの話はどうでも良くなったので、本題を尋ねることにした。
 確かこいつには旅に出た目的があったはずだ。

「それで、理想のロリータは見つかったのか」

「いやね、考え直したんだよ。だって考えてもみなよ。今は良いけど、カエデがもしバリーくらいの歳になったらどうだい。エルフの血を引くアメリアも、精霊であるクロエも、見た目は今とほとんど変わらないじゃないか。それなのにカエデだけは年を取ってるんだよ。それはもう、ただの犯罪者じゃないか。僕たちの好みはそのくらい業が深いんだ」

「待ってくれよ。俺は別にそんな趣味じゃないって言ってるだろ。それとクロエは精霊のふりをした人間だから、本当は年を取るんだ。だから、お前が思ってるような理由で彼女たちを選んだわけじゃないぞ」

「へっ、信じられないね」

「おい、俺をおっさんみたいに言うなよな。俺はまだまだ若いんだ。どうして俺が若い子連れてたら犯罪者なんだよ」

 俺とバリーの苦情にもルーファウスは顔色一つ変えない。
 相変わらずマイペースな性格をしているようだ。

「それで旅はどうだったんだ」

「大変だったよ。漁船が遭難するところから始まって、知らない国の砂浜に打ち上げられて、言葉も通じない中で色々とあったのさ。漁師のおじさんがかなりタフな男で、二人で力を合わせることで帰って来られたんだよ」

「おまえの大冒険に漁師の人まで巻き込んだのか。それでドワーフには会えたんだよな」

「会えたけど、言葉は通じなかったよね。それに酷い扱いを受けて、炭鉱で強制労働させられたりもしたよ。水もろくに飲ませてもらえないあの生活は辛かったね。これも漁師のおじさんが魔法を使えなくする特殊な枷を外してくれたおかげで逃げ出せたのさ」

「それは犯罪者として捕まえられたんじゃないのか」

「ま、そういう見方も出来るだろうね。だけどあんな桃源郷に放り込まれて、僕が理性を保っていられるわけがないだろう?」

 なにが桃源郷だ。
 どうしてそんなことを得意気に話せるのか俺にはまったく理解出来ない。
 かなりの大冒険になったようだが、ばかばかしさの方が勝っている。

「それで捕まって、酷い目に遭って、もうロリはこりごりだって言ってるわけか。今、目の前にエルフが現れたらどうするんだ」

「ふっ、エルフにもドワーフにも未練はないよ。炭鉱で拷問され、薄れゆく意識の中で、なぜか僕の頭の中に浮かんできたのはアニーの顔だんだ。そのとき確信したね。僕には彼女しか居ないってさ。だから僕は、これからアニーに結婚してくれと言うつもりだよ」

「それは酷い目に遭わされて、アニーに拷問されたときの記憶が蘇っただけじゃないか。心細くなった時に、たまたま思い出したってだけだろ。お前はもうちょっと慎重に生きた方がいいんじゃないか。考えが足りてないから、そういう目に遭うんだよ」

「へっ、馬鹿なことを。大方、カエデはさ、例のハーレムにアニーも加えるつもりだったんじゃないのかい。それで焦って、そんなことを言うんだろ」

「そんなわけがないだろ」

「ふっ、どうだかね」

「それでお前は兵士に戻るのか?」

 バリーの質問にルーファウスは、そのつもりでいると答えた。
 それを聞いて、バリーの表情はいつになく明るくなった。
 最近は忙しくて本当に大変だったのだろう。

「そりゃ良かった。ちょうど次の仕事があるんだ。早速そっちに────」

「今の僕には、もっと大事な仕事があるから。そっちはバリーが片付けてくれ」

 しかし、バリーの気持など知らないルーファウスは相変わらずのマイペースだ。
 旅のせいで、ちょっとマイペースなのが悪化したんじゃないかという気もする。

「旅で成長した今の僕を止められる者はもういないよ。早速、アニーのところに会いに行こうかな」

 颯爽と隊長室から出て行こうとするルーファウスの肩で、ルーズベルトがふるっぽうと癖のある声で鳴いた。
 そのルーファウスの背中に向かって、バリーが思い出したように言った。

「だけどさあ、ルーファウスは家の事情でジズ鳥を精霊にしてたんじゃなかったか?」

「そうだよ。うちの家系を象徴する鳥だからね。だけど僕の代からは、この名前も知らない鳥が紋章に描かれることになるだろう。ちょっと親には言い出しにくいけど、まあ仕方ないよ」

 親はきっと激怒して反対するだろう。
 どうなるか面白そうなので、俺はそれ以上何も言わないことにした。
 それでルーファウスに付いていこうとしたら、運悪くガスに捕まってしまった。

「信じられるか。水がめいっぱいに入った瓶を、俺に向かって投げた奴が、この城内のどこかにいるんだぜ。おちおち昼寝もしてらんねえよ。どこの心ない奴が、この俺の命を狙うなんてことしやがるんだろうな。こうなったらこっちも遊びじゃねえよ。おめえに用心棒として雇われる気はねえか。謝礼ははずむぜ」

「……い、命なんか狙われてないから大丈夫だって。きっと誰かが間違って落としちゃったかなんかじゃないの。そんなこと気に病んでると体に毒だよ」

「いや、間違いなんかじゃねえ。明らかに殺意を感じたからな。ひでえ大怪我だったんだ。なにせバリーが俺だと気づかねえぐらいの大怪我だったからな」

「それはまた……ご愁傷様だね……」

「俺がこんな目に遭ってるのに誰も心配してくれねえのよ。まともに受け取ってくれたのは、お前が初めてだよ。それにしても命を狙われるってのは落ち着かねえな。お前の魔法を教えてくれねえか。俺には使いこなせないかね」

「俺が常に城内を見張っておくから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「そうもいかねえな。アルダあたりがそう言うなら信じようもあるが。おめえはどうもそういう面じゃねえ。とても命は預けられそうにねえよ」

 それはつまり、俺が間抜け面だと言いたいのだろうか。
 最初はちょっと気の毒になったが、そういった気持も冷めてしまった。
 俺がそろそろ部屋に戻るかと城の廊下を歩いていたら、やけに周りが慌ただしい。

 それも不穏な感じで慌ただしい。
 どうしたのだろうと思いながら部屋に帰ると、王様から俺への呼び出しがあったとクロエが教えてくれた。
 それで俺は王様のもとに行ってみようと部屋を出た。
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