挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第76話 結婚式の一日

 控え室に入ってすぐに、俺とシャノンは床に倒れ込んだ。
 服を通して、石造りの床の冷たさが火照った身体に気持ちいい。
 俺たちは結婚式という苦難を無事に乗り越えて、こうして自由の身になることが出来た。

 式では王様のあり得ないほど長い祝辞から始まって、いろんな会の代表だとかの挨拶と続き、最後にはお披露目という名の市中引き回しを経て、この控え室に解放された。
 汗と油とホコリが顔の表面で皮膜を作っているような感じがする。
 いつ終わるともわからない緊張の連続は本当に辛かった。

 シャノンは目の下に大きなクマを作って、朝よりも幾分やつれて見えた。
 俺は動いただけで痛みが走る身体を起こして、シャノンの方に体を向けた。

「これで終わりなんだよな。俺はもうこんな目に会うなら縛り首の方が楽でいいやと思えたぞ。これで終わりじゃなかったら逃げ出すからな」

「たぶん終わりよ。あんたはゆったりとした服でいいけど、私なんか服が締め付けてもっときつかったのよ。あんたがドラゴンなんか倒さなかったら、こんなことにはならずに、独り身を謳歌出来てたのに、こっちこそとんだ迷惑だわ」

「だけど俺がいなかったら、この国の住民はさぞかし悪政に苦しめられただろうな。それだけはホントに良かったよ」

「はあ? 私に向かってお前とか言っていいと思ってるわけ。私は小さい頃から色々と教え込まれて、この歳でお父様よりも政治に向いてると言われてるのよ。みんな私のやり方を褒めてくれるわ」

「そりゃ次期権力者なんだからおべっか使うに決まってるだろ。典型的な世間知らずのお姫様にしかみえないぞ」

「あったまきた。もうしばらくあんたとは口もききたくないわ」

 そんなことを話していたらメイドたちが部屋の中に入ってきた。
 それで、こちらへどうぞと風呂場まで案内される。
 よくわからない花が浮かんだ風呂に入れられて、身体にオイルを塗りたくられた。

 ちょっと恥ずかしいのでモジモジしながら、なされるがままでいたら最後にバスローブのようなものを羽織らされる。
 そしてマッサージを受けていると、風呂場の方からシャノンの声が聞こえてきた。
 そして俺は自分の部屋とは違う寝室へと連れて行かれて、メイドはどこかへと行ってしまった。

 やたらと広い明らかに新品のベッドの上で一日の疲れもあってうとうとしていたら、メイドに連れられてシャノンが部屋に入ってきた。

「も、もうここまででいいわ。あとはもう寝るだけだから、貴方たちは戻りなさい」

「そうはいきません。代々の決まりで、初夜には付添人がつくことになっています。エゴン老師が付き添え人に選ばれ、私たちも付き添うように言われているのです」

「ちょっ、ちょっと待って、エゴンって、あんなのがこの部屋に来るの!? ぜ、絶対に嫌よ」

「部屋に来るだけではありません。ちゃんと初夜が滞りなく行われたか確かめるそうです。王様からの言いつけで、シャノン様がちゃんと夜を迎えるか確認せよとのことです。もしエゴン老師がお嫌でしたら、私たちメイドだけでも良いそうです」

「それじゃ、メイドだけにして。他の人は一切、部屋に入れないでよ」

「承知いたしました」

 シャノンがこちらにやってくる。
 そしてメイドに聞かれないように、俺の耳もとにささやいた。

「お父様が形だけの結婚じゃないかと疑ってるわ。いいこと、一応、形だけは一緒の布団で寝ますけど、絶対に変なことしないでよね」

「エゴン老師って、あの狭い部屋で法螺吹いてるエロ爺さんのことか?」

「そうよ。あんなのに見られるなんて冗談じゃないわ」

 2人居たメイドのうち一人が部屋から出て行くと、残ったメイドがベッドの脇にやってくる。
 シャノンはまだそれに気がついていない。

「それでは、私たちだけと言うことですので、いつ始めてくださってもけっこうです」

「わっ! は、始めるって、な、なんのことかしら?」

「詳しいことがお知りになりたいのでしたら、今からでもエゴン老師をお呼びいたしましょうか?」

「い、いらないわよ。夜の事よね。で、では、今から始めます」

 可哀想にシャノンはパニックになっている。
 形だけの結婚のつもりで、初夜を確認されるなんて思ってなかっただろう。
 俺はその慌てる姿が面白くて、ニヤニヤしながら眺めていた。

 そしたら、シャノンが俺の布団の中に入ってきて言った。

「いい、絶対に触ったりするんじゃないわよ。うまく誤魔化しなさい」

 俺ははいはいと答えて、メイドに電気を消してくれるように頼んだ。
 しかし、確認のためですと小さい豆電球くらいの光は残ったままだ。
 シャノンはまだ、俺に絶対に何も触るなと念を押すのに忙しい。

「あの、服を着たままされるのですか? それとも私どもがお脱がせした方がよろしいですか?」

「い、今脱ぐわ……」

 そう言って、シャノンが布団の中でもぞもぞと動き、羽織っていた夜着を脱いだ。
 あんたも脱ぎなさいよと言われて、俺も同じように脱いだ服をベッドの外に放り出す。
 当然ながら、こんな狭い中に裸でいたら自然と肌が触れてしまう。

 柔らかくてすべすべだなと思っていたら、シャノンに耳を引っ張られる。

「早くそれっぽい動きをしなさいよ。ちゃんと誤魔化さないとまずいわ」

 俺はへいへいと呟いて、シャノンの上に身体を重ねる。
 そしたらシャノンのでっかい胸が腕に当たって、その感触に驚いた。
 凄い、の一言である。

 それで俺が、それっぽい動きをしていたら、職務に忠実なメイドが口を開いた。

「あの~、ちゃんと入っておいでなんでしょうか。ちょっとシャノン様の声が聞こえないのですが」

「おい、怪しまれてるぞ」

「う、うるさいわね。どうしたら良いのかわからないのよ」

 それでシャノンは何故か喘ぎ声のようなもの出し始める。
 その喘ぎ方はアメリアにそっくりで、こいつ夜中に盗み聞きしてたなと俺は呆れた。
 確かに隣の部屋なんだから、盗み聞きくらいいくらでも出来ただろう。

 それにしても、声が出てないというのは痛がったりしないのかという事なのに、何をいきなり喘ぎ始めたりするのだ。
 そんなことしたら、余計に怪しまれるでないか。
 俺が呆れて身体の動きを止めたら、今度は髪の毛を引っ張られた。

「な、何かおかしかった!?」

「おかしいことだらけだし、滅茶苦茶だ。俺が誤魔化すから、もう黙っててくれよ」

 俺は頭までかぶっていた布団をはいで、メイドを手招きしようとした。
 そしたら、布団をはいだせいでシャノンの身体の輪郭が見えてしまう。
 見とれていたら、シャノンに脇腹を思いっきりつねられた。

 その時に一瞬だけ腕で隠されていたシャノンの身体が色々見えてしまう。
 俺は視線を外して、メイドに手招きした。

「実はさ、婚約決まったときから、我慢出来ずに1回だけ済ませちゃってるんだよね。このことは周りには言わないでおいてもらえるかな」

「そ、そうでございますか。わかりました。それでは続きの方をお続けくさい。あの、参謀長様はあまり、その、入れる前の準備をしないのでしょうか。エゴン老師がおっしゃってましたけど、焦ると上手くいかないそうです。じっくり、胸とか触った方が良いと思います」

「そ、そうだよね」

 それで布団をかぶったら、シャノンが俺の耳を引っ張って怒った。

「ちょっと、人を勝手にスキモノみたいな設定にしないでっ!」

「そんなことより、早く終わらそうぜ」

 それで俺たちは必死にキスするふりをしたり、胸を触るふりをしたり、あえいだりしてメイドが満足するまで演技を続けた。
 本当に胸を触ったら、シャノンはボディーブローを放ってきた。
 それにしても、ふつうにやるより妙に興奮する。

 途中でメイドは何度か部屋を出て行き、エゴンから伝言を預かってくる。
 その度に、かなり本格的に忠告が入る。
 そして最後にフィニッシュまで演技をしてから、俺はベッドの上に横になった。

 やっと寝られると思っていたら、最後の伝言がやってくる。

「最後はちゃんと抱きしめてやりながら寝るように、だそうです」

「わかったよ。これで終わりで良いんだよね」

「はい、それではお休みなさいませ」

 俺がシャノンの肩に手を回すと、メイドは満足して部屋から出て行った。
 シャノンは疲れてぐったりしている。
 俺も疲れて、もう口をきく体力さえ残っていなかった。

 こうして俺たちは結婚式イベントを、すべて無事に終わらせたのだ。
 疲れすぎていた俺は、シャノンの肩に腕を回したまま寝てしまった。
 そして次の日に、廊下ですれ違ったエゴン老師に言われたのだ。

「30点である! メイドの話を聞く限り、今のままでは、お世継ぎが生まれる前に姫様に愛想尽かされる可能性がありますぞ」

 大した慧眼だと思いながら、俺はエゴンの言葉を聞き流した。
 どうも、こっちにいると疲れるようなことばかりで嫌になる。
 俺はもうウルサルに帰りたくて仕方がなくなっていた。

 それで自分の部屋に帰ったら、アメリアとクロエに思い切り無視されてしまった。
 どうしてこう面倒くさいことばかり起こるのだろうか。
 これは取り繕うのに夜までかかるなと思いながら、俺は大きなため息をついた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ