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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第75話 暇つぶし

「おめえよう。このひと月、俺がどんな気持でバリーに背負われながら暮らしてきたかわかるか。おれぁね、ねえよ。今までこれほどの扱いをされたこたぁ、一度もねえよ。アルダの事だっておめえが原因なんだぜ」

「そうかなあ。それは関係ないんじゃないの」

「馬鹿ぁ言ってんじゃねえ。あのネズミが証言したんだ。お前と訓練したあとはムラムラするって、アルダのやつが言ってたってな。それでおめえは、あのロリコンが旅に出るのにも賛成したって言うじゃねえか。そうなりゃ、もう遊びじゃねえ。バリーの背中でおめえのタマとる夢の一つも、見ねえ方がおかしいってもんじゃねえか」

 ガスの愚痴に、そうかなあと俺は適当な相づちを返した。
 あんまり親身になって話を聞くとエスカレートする可能性があるので、あくまでも聞き流すことを忘れない。

「それじゃ、ジャックも最近は休んでるのか」

「今じゃ休んでいるけどな、あれだって最初の頃はルーズベルトもリリーもいなくなって、我が物顔だったんだ。天下を取ったようなつもりでいやがって、みんな迷惑したもんだよ」

 ルーズベルトというのはルーファウスの精霊だ。
 鷹も猫もいなくなれば、ジャックもさぞかし安心しただろう。

「バリーも大変だったんだな」

「あいつなんかはいいさ。3歩もあるいたら何も覚えちゃいねえ。それよりも大変なのは俺だよ」

 暇だったから外に出てきた俺を捕まえて、ガスの愚痴はいつまでも終わらない。
 ちょっとした散歩のつもりだったのに、とんだ災難である。
 まだまだ終わりそうにないので、俺はその場を立った。

 ガスはまだ俺の背中に向かって愚痴を言っているが、もう二時間も聞いたのだから十分だろう。
 することもないので、俺はアメリアのもとに行くことにした。
 アメリアはリビングでアニーと盛り上がっていた。

「お前は相変わらす仕事さぼってるんだな。護衛なら目を離さない方がいいんじゃないのか」

「うるさいわね。隣の部屋にいるのに何の問題あるのよ。あっちの部屋にいると、私まで一緒に色々と考えなきゃならなくなるのよ。何かあったらシャノンも叫ぶかなんかするでしょ」

「カエデ、そんなことより話があるわ。昨日のことだけど、部屋に入った時シャノンのおっぱいを見てたでしょう。不潔だわ。どうして、あんな風にまじまじ見たりするのよ」

「そんなの、男なんだからしょうがないんだよ。俺のこと不潔、不潔って言うけどさ、昨日の夜のアメリアは不潔じゃないの。最初の頃は隣に座っただけでも震えてたのに、昨日は喘ぎ声なんか出しちゃってさ。あの汚れなき雪のように純真なアメリアはもう居ないんだと思ったら俺は寂しいよ」

「ぶつわよ」

「やめてください」

 アメリアは手のひらを構えて、俺を睨んでいる。
 怖いんだけど、かわいいままなのは何でだろうと思わせる不思議な顔だ。

「でも俺としては、もっと大胆になって欲しいね」

「無理よ」

 アメリアはそげない態度で俺のことを睨んでいる。
 そしたらアニーが俺たちの話に割り込んできた。

「あんたが下手なんじゃないの? それなら城内にはいい人がいるわよ」

「何を言い出すんだよ。今の話で、どうして俺が下手だってことになるんだ。それに、お前の提案だってだけで、ろくなもんじゃない予感がするぞ」

「昔から王様や貴族に、夜の技を伝授してきた凄い人がいるの。その人に教わってみたらいいんじゃない。その道のプロよ。今だって色んな人が教わりに行ってるそうよ。この階の渡り廊下を超えた、向こうの建物の一番奥にいるわ」

 アニーは俺が邪魔だから出て行かせたいのだろう。
 仕事中だというのに、おしゃべりの方に本気になっていて本当に酷い。
 俺はアニーに押し出されるようにして部屋からでた。

 他にすることもないので、俺は性技を伝授してくれるという老人のもとに行った。
 その老人は小さな部屋にあぐらをかいて座り込んだまま、やっときたか若婿よ、と厳かに言った。
 ただ者ではない雰囲気に、俺はよろしくお願いしますと言って頭を下げる。

「では、まず腰を曲げて、そこにある壺を上に乗せよ」

 俺はまだ決めかねていたのに、いきなり性技の伝授が始まってしまった。
 言われたとおり、俺はそこにあったちょっと大きめの壺を、腰を前に曲げてから上に乗せた。
 水が入っているのでかなり重たいし、不自然な体勢でかなり苦しい、それに何が始まるのかもわからなくてちょっと怖い。

「では固定する」

 そう言って、老人は俺の腰の上になにやら魔法を使った。
 固定すると言ったのだから、壺を腰にくっつける魔法でも使ったのだろう。

「一体これでどうするんですか。かなり苦しい体勢なんですが」

「こうして三日三晩過ごすのだ。昔は皆でやったものよ。若婿殿には時間がないから、結婚式までこの格好で過ごすがよい。中の水をこぼしてはならんぞ。では行くがよい」

 行くがよいと言われても、こんな格好でまともに歩けるわけないし、夜に寝ることも出来ないではないか。
 そしてこんな特訓に何の意味があるのか、まったくわからない。
 俺はこの瞬間、アニーにだまされたのかもしれないという考えが頭をよぎった。

 しかし目の前の老人は極めて本気の目つきである。
 その性技を買われて王城内に部屋までもらっているのだ。
 ただ者ではないような気もする。

 しかし、こんな事に腰を痛める以上の意味がないということもはっきりとわかる。
 俺はどうしたものかと思案しながら、その老人のもとを去った。
 俺が取りあえず部屋まで帰ろうと小刻みな動きで廊下を歩いていると、2人組の貴族が俺に近寄ってきた。

「ほう、ウルサルの長官殿ではないですか。やっぱりここに来ましたな。しっかりと頑張ってくださいよ。なにせ、あの姫様を満足させてやらなければなりませんからな」

「我々も昔やらされましたが、2日目には歩けなくなりましたよ。是非とも頑張ってください。それにしても結婚式は明日でしょう。随分と忙しいようで」

 馬鹿馬鹿しいにも程がある。
 あんな老人に騙されて、皆でこんな事をやっているのだ。
 しかも、そのせいで皆が俺のやっていることをわかっているではないか。

 あの老人は来る奴に皆、これをやれと言い渡しているのだ。
 こんな馬鹿な指南を真に受ける者が少なくないというのもふざけている。
 それにしても、こっちの建物には貴族が多くて次々と声をかけられた。

 水瓶を背負っていては逃げることも出来ずに、俺は必死に自分の部屋を目指して歩いた。
 しかし俺が何をやっているかは遠くからでも一目瞭然なので、面白がって人が寄ってくる。
 発狂しそうな恥ずかしさに耐えながら、俺は自分の部屋に戻った。

 俺は自分の部屋に入るなりバンシーアークを発動させて背中から水瓶を外し、窓から外に向かって投げ捨てた。
 下の方で瓶の割れる音がして、キャインキャインというガスの悲鳴が聞こえたが、悲鳴を上げられるなら生きているので安心だ。
 そして俺は部屋の中でニヤニヤしていたアニーとシャノンを見つけてすべてを悟る。

「だましたな」

「馬鹿ね。考えが足りないから、あんなのに騙されるのよ」

 あからさまに馬鹿にした態度でアニーがそんなことを言った。
 その態度はあまりにも性格が悪そうで、俺は別のことが心配になる。

「お前も、その性格を直さないと、貰い手がいなくて困るな。お得意のジュジュツとやらでも、貰い手は作れそうにないだろ」

「ば、馬鹿にしないでよ! 言っておきますけどね。私が胸が小さいだけで、お尻はかわいいねってよく言われるの。お尻がグラマーなのもモテるのよ! 田舎娘を騙してお嫁さんにしたくせに」

 アニーの言葉に、部屋にいたシャノンがゲラゲラと笑いだした。
 それと一緒になって俺も笑っていたら、アメリアが怒り出した。

「ちょっと、2人は私のことも馬鹿にしてるの!?」

「ち、違うって。アメリアはとってもグラマーだよ。俺にはそう見えるよ」

「そうよ。馬鹿になんかしてないわ」

 俺たちのちょっと苦しい言い訳に、シャノンはまだ笑っている。
 他人の不幸がよほど楽しいらしい。
 いい性格をしている。

「ねえねえ、私は、私は?? 私はグラマーかしら」

 そんな雰囲気でもないのに、空気の読めないリリーが俺にそう尋ねてくる。
 仕方なしに俺はリリーの身体について評論した。

「こないだ海に行ったときさ、私も入りたいとか言い出して俺が入れてやったじゃん。だけど水に濡れたら針金みたいな身体してて俺はびっくりしたよ。どっかで出汁にでも取られた後なのかと思うほどだったね。脂っ気の全くない身体してるよな。猫の事情はよくわからないけど、グラマーって事はないんじゃないかな」

「キシャ──────ッ!!!!」

「うわっ」


「リリーの奴、しっかりと俺の目を狙ってきたぜ。あいつには敵と味方の区別がついてないんじゃないのかな。アメリアも飼い主として、そこら辺をしっかり教え込まないと駄目だよ。いくらなんでも、あんな勢いで襲いかかられたんじゃ俺だってたまらないよ」

「ふふふっ、そうかもね」

 俺はリリーにやられた身体の傷をアメリアに治してもらいながら愚痴をこぼしていた。
 傷は魔法で治るけど、心に出来た傷は一生モノである。
 だいたい猫があんな事言われたくらいで怒るというのが納得いかない。

「全然笑い事じゃないよ」

「だいたいカエデが悪いのよ。いくらなんでも無神経すぎるわ」

「もう誰かと関わるとろくなことがないから、昼寝でもしてくるよ」

「わ、私も一緒に行く……」

 アメリアも一緒だと昼寝だけでは終わりそうにないなあ、とか考えながら俺は自分の部屋に引っ込んだ。
 気温は汗ばむくらいに温かくて、それがやたらと眠気を誘う午後だった。
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