第74話 ギルドとドラゴンの卵
次の日もブランドンが作り上げた、商業への介入システムを知るために一日が過ぎた。
独占させることで何重にも課税するような真似を至るところでやっている。
そのために、商業組合を通さない物々交換さえ取り締まっていたのだ。
組合やギルドというのは効率化や、政治に参加するための組織のはずなのに、上前を撥ねるためだけの組織になってしまっている。
こうなってしまっては、組織ごと解体して本来の姿に戻すよりない。
代表者が集まって利益を代弁するための組織として、他の権限はすべて取り払った。
そういったことを告げるたびに、かなりの猛反発を食らった。
しかし地方における領主の権限はかなり強く、最終的には俺の言ったとおりになる。
生殺与奪権を持っているようなものだから当然かもしれない。
そして親に教わる以外では算数の知識すら学べないのもなんとかしたい。
今のままでは、簡単な売買ですら商人の言いなりになっている。
わざわざ間に商人を挟まないといけないシステムが、一般人の暮らしを容赦なく圧迫している。
俺は山ほどの恨みを買いながら、ギルドや組合の権限剥奪を続けた。
同時に、新しい組織のために会議の場として役場を提供する約束も取り付ける。
役場で行われるすべての会議には俺も出るつもりである。
すべての代表者と顔を合わせ終わる頃には夜になっていた。
それだけを終えると、俺はクタクタになって宿に帰った。
アメリアたちはすでに宿の部屋で休んでいた。
「妾たちの方は、もう親方に任せておけば何もすることがない。特別に大急ぎで作ってくれるそうだ。二週間もあれば完成する」
「それじゃ、明日からは俺の仕事を手伝ってよ。やることが多すぎて目が回りそうなんだ」
「いいわよ。まずは何をするの?」
「それを考えるところからだね」
次の日からは教科書を作り始めた。
文字の読み書きと、足し算、引き算、それとかけ算を一冊の本にする。
これに商人のハルトが興味を示したので、彼にまず基礎を叩き込んだ。
そして役場での組合代表会議で、素養のありそうな者を推薦してもらい、ハルトに教育を始めてもらう。
医者の方は治療魔術師がすでに何人か町にいたので、彼らを教育することにした。
彼らには俺から給料を払って、各地の村々を回り、治療と技術の伝達をしてもらう。
こうして一週間が過ぎ、俺は次の計画のためにドラゴンの巣穴から卵を盗み出すことにした。
これをどん詰まりの地下迷宮で孵化させて、この辺り一帯の魔力を吸わせて育てるのだ。
魔力を吸収させることで、領地内にある他の迷宮にも冒険者が入れるようにする。
ドラゴンは魔力の吸収量が多いので、王都にある迷宮は人が入れるようになったとクロエに聞いたのだ。
もちろん、これが上手くいったとしても、領地内の迷宮はまずは俺たちが一掃する必要がある。
それが終われば、次からは農民や冒険者でも入れるようになるはずだ。
俺は大騒ぎするローとゲイツを引き連れて、三日がかりでドラゴンの卵を三つほど盗み出した。
そして2人に見つけさせた、どこにも繋がってない地下空間にそれを運び込んだ。
あらかじめ2人に見つけさせていた地下空間はかなりの広さがあり、地上までも距離がある、うってつけの場所だった。
出入り口は小さいのが一つあるだけなので、ドラゴンが逃げ出す心配もない。
卵の孵化に関しては、このまま放っておくだけでいけるはずだった。
魔力さえ近くにあれば育つはずだとクロエは言っていたのだ。
魔法で出入り口を塞いで、後は領内にある迷宮の魔物を一掃しなければならない。
これは森に住んでいる老人から聞いた昔話を頼りに探し出した。
中に入ってみると、一階からゲイザーやゴーストがひしめき合っている。
これはローとゲイツでは無理そうなので、アメリアとクロエを連れて次の日から迷宮に入った。
あまりに横に広い迷宮で、探索を終えるのに3週間ほどもかかった。
山ほどの魔石と素材を出しながら、俺たちは地下9階までの捜索を終えた。
王都の迷宮でも見たことのない魔物がいたので、これは上手くいけば素材が特産品になるかもしれない。
二週間を過ぎる頃にはドラゴンも卵からかえり、地下の魔力を吸って育ち始めている。
俺の目論見通り、一掃した迷宮は一階からゲイザーやゴーストが出る事はなくなっていた。
しかもウルサルの近くにも、迷宮内に降りられる出入り口を作ることが出来た。
そして執事の人に王都からブランドンを連れてきてもらって、冒険者ギルドの長に据える。
迷宮の管理は、頭のいい奴に任せないと冒険者にも危険が及ぶので、適任者としてブランドンくらいしか思いつかなかったのだ。
つぶれた鼻で誠心誠意頑張りますと言っているブランドンを見たら、もう責める気にはなれなかった。
ローとゲイツのこともブランドンに任せると言ったら、2人は震え上がって死んだ方がましだと騒ぎ始めたが、めんどくさいので無理矢理に押しつけてしまった。
魔石と素材を町の商人に売って、その金で俺は中型の船を二隻買った。
一つは王都とウルサルを往復させて、もう一隻は他国との貿易に使う予定だ。
商人の中に他国の出身者がいたので、俺は商人ギルドに船一隻の管理を預けた。
もう一隻は地元の漁師を雇って、今は練習として海をくるくる回ってもらっている。
素人の寄せ集めなので、海図を読める者もいないし、方向はたまに当たるかもしれないといった具合だ。
しかし、田舎のおっさんとは凄いもので、そこら辺を通りかかる大型船に乗り込んでは指南を仰いだりしている。
今はまだ岸から離れるとどこにも行けなくなるが、王都までは陸伝いに行くだけなのでなんとかなるだろう。
操船技術だけは、それなりのものがあるのだ。
これは公共の乗り物第一号として、ウルサルと王都をひたすら往復してもらう。
そんなことをしてると、婚約期間の一ヶ月があっという間に過ぎた。
俺はその日の仕事を終えて、新しく建てた家へと帰った。
ブランドンの屋敷ほど広くはないが、それでもかなり豪華な家になってしまった。
思うに、世間知らずの2人に任せたのが失敗だったのだろう。
町外れは小高い丘になっているので、窓からは町を一望する景色が見える。
「明日は王都に向かって出発しよう。そろそろ結婚式だし、シャノンたちの仕事の方も心配だからさ」
「妾はもう少し骨休めがしたい。迷宮で散々働かされたからの」
「そういえば、王都の迷宮では、ずっとサボりっぱなしだったよな」
「精霊はべつにサボってるわけじゃないわ」
リリーは窓際の一番いい椅子を占領しながら抗議の声を上げた。
そのリリーの抗議を遮るように、アメリアの手が俺の前に焼き菓子のようなものを置いてくれる。
「だけど精霊のふりをしてただけだったろ。ありがと」
「お城で出たお菓子を真似て作ってみたの。なかなか近い味になってきたのよ」
最近のアメリアは仕事で手伝えることもなくなって、お菓子作りに精を出している。
クロエの方は俺につきまとって、色々と物珍しそうにしているだけだ。
リリーは何をしてるのかも知らない。
王都へは、また馬車で向かうことになった。
船でも良かったのだが、難破しないとも言い切れないから諦めた。
俺たちは馬車で揺られること二日、懐かしの王都へと帰ってきた。
俺たちを出迎えてくれたのはアニーとバリーだった。
2人ともやけに憔悴したような顔をしている。
「久しぶりね。ウルサルは凄くいいところなのよ。景色も綺麗だし、砂浜もあるの。アニーも遊びに来れば良かったのに」
「それどころじゃないわ。ルーファウスの馬鹿は挨拶もなしに消えちゃうし、アルダは妊娠して休んでるの。バリーだけで、この一ヶ月は頑張ってるんだから。あの馬鹿はまだ帰ってこないわけ?」
「何の連絡もないよ。それよりも大隊長って結婚してたのか」
「そんなことも知らなかったのね。もう子供は3人目よ」
「マジかよ。他の隊長はどうしてるんだ」
「地方に配置されてるの。そっちで問題が起きたら、すぐ駆けつけられるようにね」
「それでシャノンの方は?」
「あんたに言われてた、裁判制度だっけ? そのための人はもう見つかったわ。街に兵士も配置したわよ。大した数じゃないけどね。だけど貴族も裁判にかけるというのは大反対を受けて却下されたそうよ」
まあそうなるだろうなとは思っていた。
それでも一歩前進したことは確かだろう。
今までは王様の一存で、ほとんど問答無用に死刑か無期懲役|(牢屋に入れたのを忘れて放置)だったのだ。
詳しく話を聞くと、裁判官は冒険者の中から1人、貴族の中から2人選ばれたそうだ。
冒険者は迷宮ではなく、探偵仕事の依頼を解決するのが早いものを選んだそうだ。
「シャノンのところにこれから行くんでしょう? 私も付いていくわ」
アニーを連れて俺たちは、シャノンの部屋までやって来た。
部屋の前にはメイドがいたが、俺たちの顔を見ただけで通してくれる。
扉を開けると、中ではシャノンがドレスを着ようとしているところだった。
俺たちを見てシャノンはドレスに足を入れたところで固まっている。
うわ、でっけえと思っていたら、アメリアに持ち上げられたクロエによって目を塞がれてしまった。
一応婚約者なので、シャノンも俺を通したメイドを怒ることは出来なかった。
しばらくしてドレスの試着が終わり、俺の目からクロエの手が離れた。
いきなり帰ってきてとかなんとか、シャノンがやたらと愚痴っている。
すぐにメイドたちは消えて、部屋には俺たちだけが取り残された。
「裁判制度はちゃんと出来たのか?」
「大変だったのよ。お父様には反対されたけど、お父様の仕事の負担を減らすためだと言って納得させたわ。だけど貴族は冒険者の中から裁判員を選ぶのには、まったく納得しなかったのよ。だから3人のうち2人は貴族の中から、まともそうなのを選んで決めたの」
「冒険者から選ばれたのは?」
「私とアニーで面接して、一番聡明そうな人にしたわ。アビーっていう竜人族の女性よ」
アビーと言えば、ダレンが奴隷から解放した、あの竜人ではないか。
確かに、頭の良さそうな喋り方だった。
あれから随分と仕事をこなせたようで何よりだ。
ダレンは今もハーレム作りを続けているのだろうか。
「結婚式はそろそろだったよな」
「明後日よ。残念ながらお父様はまだ生きてるわ。まったく、女の部屋にノックもなしに入ってくるような人と私は結婚しなきゃならないのね」
「メイドが勝手に扉を開けたんだよ。何でも俺のせいにするなよな」
それで俺はシャノンとともに執務室に行って、一ヶ月分の仕事を見せてもらった。
それをシャノンの前で採点してから、晩ご飯を食べて、この日は眠りについた。
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