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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第71話 ブランドンの処遇

「どうしたら、この国はもっとよくなるのかしらね。外の国から何か買えばいいのかしら」

「そんなことよりも、義務教育と食料生産の効率化を進めたらどうかな」

「そんな難しい言い方されても、私わからないしー」

「つまり計算の出来る人を増やすと、経済に参加する人も増えるんじゃないかと思うんだよね。それに食料生産に携わる人を減らすことで、二次産業も活発になるんじゃないかと思うんだ。それが豊かさってことじゃないかな。俺が思うに国力ってのは、その国に住んでる人の能力の総和だと思うんだよね。だから、その意味でも教育は重要なんだよ」

「ああ、そう。真面目に教える気はないのね。じゃあ、もう邪魔だからあっちに行ってなさい。私には貴方の無駄話に付き合ってるような時間はないのよ」

「そんな簡単にすねるなよ。もうちょっと真剣にやらないと、この国に住んでる奴らが気の毒だろ。俺が口を出さなかったら国が傾きそうなんだから、余所で遊んでるわけにも行かないだろ」

「あったまきた。私にそんな口の利き方をしていいと思ってるの!? 私は子供の頃から色々な人に、色々なことを教わってきたの。たまたま素人考えが上手くいったくらいで調子に乗らないで」

「口の利き方って、俺は一応お前の夫になるんだぞ」

「形だけの夫でしょ。そのことを忘れて、もう夫気取りなのね」

「そうよ。形だけの約束でしょ」

「アメリア、また無理心中を迫るときの怖い顔になってるよ。その顔されると生きた心地がしないから、出来れば控えてくれると嬉しいな。クロエもアメリアに便乗して俺をいびるときの、意地悪い顔になってる」

「そ、そんな顔したことないわ! まったく失礼な奴だの」

「だけど図星つかれて怒ってんじゃん」

「前々から思っておったが、お主は小賢しいところがある。かわいげがない」

「クロエは意外とかわいげがあるよな」

「だからイチャイチャするのはやめてって言ってるの! なにも私の仕事部屋でやることないじゃない!」

 シャノンに部屋から追い出されて、俺は仕方なく自分の仕事を片付けることにした。
 まずはブランドンの奴に会っておくかと考える。
 俺はメイドに案内してもらって、地下にある牢屋へと向かった。

 なぜかクロエも一緒に付いてきている。
 メイドは中に入るのを嫌がったので、俺はクロエと2人だけで中に入った。
 薄暗く糞尿の臭いが充満する牢獄はまさに地獄絵図だ。

 そこの一角に、ブランドンの留置されている牢屋があった。
 俺を見つけるとブランドンは目の色を変えて、鉄格子に自分の身体を叩きつけてきた。

「やっときやがったか。ふざけやがって、お前のせいで俺の人生は台無しだ。呪ってやる! 呪ってやるぞ!」

「アンタが勝手に関わってきたんだろ。まったく、はた迷惑な話だよ」

 それにしても、王様はアルダの報告を全て鵜呑みにして、問答無用でブランドンを投獄してしまったのだ。
 こいつは本当に暗殺部隊と通じて、兵士たちの厄介払いをしたのだろうか。

「権力のある奴がない奴から奪って何が悪い! それが常識なんだ。歯向かうお前がおかしいんだ」

「国境周辺でのいざこざは全てお前が仕組んだことなのか」

「そうだ。暗殺部隊もアルダを倒したとかいう与太話を信じて、やり合うのは嫌だと抜かしやがる。どいつもこいつも芋を引きやがって、まったく使い物にならない。だからドラゴンを利用して殺してやろうと思ったのさ。それを、ドラゴンまで倒しただって。お前は何か呪われた外法でも使ってた倒したんだ。いつかそれが暴かれて、いずれお前も吊るし首になるだろう。ははははは!」

 怒り狂うブランドンに対して、クロエが一言かわいそうにのうとつぶやいた。
 そして止める間もなく、鉄格子に近寄ってブランドンの額に手を触れる。

「妾の名の下に、汝を許そう」

 急におかしな行動にでたクロエに、俺とブランドンが意識を奪われていると、クロエの手が青く光る。
 その途端、ブランドンの顔から憑き物が落ちたように表情が消えた。
 そしてキョロキョロと辺りを見回していたかと思うと、いきなり慟哭し始めた。

「俺は、俺はなんてことをしてしまったんだ! なんて酷いことをしてきたのだ!」

 こんな、こんな、と言葉にならない感情を高ぶらせている。
 その反応はあまりにも別人のようだった。
 急に態度を変えたブランドンに、俺は一歩後ずさる。

「な、なんだ、いったい何したんだよ」

「ここまで心が悪に染まる原因だった記憶を焼いたのだ。人は誰でも善人になる可能性も、悪人になる可能性もある。こやつの運命がそれを決めたのだ。だから妾が、その因果を焼いた」

「洗脳か?」

「まあ、そのようなものだ。これでもう、この男が悪いことをすることもなかろう。これからは、これまでの行動を悔いながら生きていくのだ。それは辛いことなのだぞ。だから、カエデももう許してやるがよい」

「そう言われてもな。アメリアに手を出そうとしたんだ。許せそうにないぞ」

「時間が経てば忘れられる。この男もしばらくは放っておくしかない。それよりも腹が空いた。夕食を食べに行こう」

 クロエに言われて釈然としないながらも俺がその場から立ち去ろうとすると、後ろから声がかけられた。

「待ってくれ。俺はゲイツとローにも酷いことをした。どうかあの2人を助け出してやって欲しい」

「その2人はお前が魚の餌にしたんじゃないのか」

「あれは嘘なんだ。ウルサルの地下に閉じ込めて、酷い仕打ちをしている。早く助け出してやってくれ!」

 俺はわかったわかったと落ち着かせるように言ってからその場を後にした。
 どうやら殺したというのは嘘で、地下室で拷問まがいのことをしているらしい。
 俺はアルダに頼んで兵士を何人かブランドンの屋敷に向かわせてもらった。

 それが済んで部屋に戻ると、シャノンたちがちょうど夕食に行くところだった。
 俺も一緒になって、それについて行くことにした。
 長いテーブルのある部屋に入ると、すでに料理が並べられている。

 シャノンにどう座ったらいいのか聞いて、その席に座る。
 てっきり王様も一緒なのかと思ったら、自分の部屋で食べるようになって久しいという。
 だからアニーやアメリアたちと一緒に食べたりしていたのだろう。

 アルダも寂しいだろうと思って、アニーやアメリアを護衛につけたに違いない。
 こんな広いテーブルに1人で座って食事させられ、難しい仕事を押しつけられているシャノンの事を考えると少し気の毒に思った。
 しかし嫌がらせで俺を一番の下座に座らせるのは気に入らない。

「カエデはいつまでも私の仕事の邪魔ばかりしてないで、自分の仕事をしたらどうなの。まずは魔術師でも雇って、領地と城を往復出来るようになさいよ」

 まだ今日から地方長官という職に就いたばかりの俺に、シャノンは嫌みなことを言う。
 ちょっと仕事のことで言い過ぎたのを根に持っているようだ。

「いやあ、俺が本気で領地経営すると、そこが首都になっちまうだろ。だからわざと手加減してるんだよ。明日くらいからは、ぼちぼちそういうこともやるよ」

「ねえアメリア、私は貴方がカエデのことをすごく褒めてたから、形だけでも夫婦になることを了承したのよ。こんな冴えない、嫌みな男だとは思わなかったわ」

「そんなことないわ。カエデはすごいのよ」

「そうなのよ。だって私の弟子なんですもの」

「そういや、そんな設定だったこともあったな」

 リリーは椅子を一つ占領して、食べにくそうにテーブルの上の皿に首を突っ込んでいる。
 飼い主にひっぱたかれないのは、彼女が精霊を自称しているからに他ならない。
 それにしても、猫の身体でこんなに味の濃いものを食べて大丈夫なんだろうか。

「シャノンは契約してる精霊とかいないのか」

「いないわ」

「アニーはさすがに精霊くらい契約してるよなぁ?」

 俺は食卓に出た酒のせいで、少しだけ陽気になっている。
 もちろんアニーが精霊と契約出来ていないのも知っている。
 アニーは俺の言葉を無視するように食事を続けていた。

「猫の精霊なんてそんなに珍しくないよな。どうして見つからないんだ」

「知ってて聞いたのね。言っときますけど、私は一般魔法が苦手なだけで、こっちの人が知らない呪術が使えるのよ。甘く見ないでよね」

「ジュジュツ? ジュジュツってのは、どんなことが出来るんだ?」

 俺の言葉に、アニーはふふんっと間を取ってから応える。

「男を虜にする魔法とかもあるのよ」

「それなら、似たようなのを私も使えるわ」

 とアメリアが言った。
 それを聞いてアニーの顔が引きつる。
 どうせ本当はろくに使えもしないのだろう。

「そ、そうなの」

 俺はアニーの口から男を虜にするという言葉が出て、笑いをこらえるのに必死だった。
 しかし堪えきれず、ついには吹き出してしまう。

「ぶっ、その虜にするってのはルーファウスにしか効きそうにないな。だってそんな体つきじゃさ。どう見ても虜にするって感じじゃないよ」

 その言葉にアメリアまで怒り出して大変なことになった。
 なるほど、アメリアも気にしていたのだ。
 シャノンは俺の毒のある冗談が気に入ったらしく笑っている。

 それでも俺は悪いことをしてしまったなと思ったので、その後は静かに食事をした。
 そして食事を終えて、部屋の窓からアルダとバリーの訓練を見ていたらアメリアがリビングに入ってきた。
 アメリアは、膝上までしかない白いスカートを履いていた。

「すごくかわいいね。どうしたの?」

「シャノンにもらったの。すごく沢山くれたのよ」

「だけどそれって、上もおそろいのがあるんじゃないの?」

 俺がそう尋ねたが、アメリアは黙り込んでしまって答えてくれない。
 それで俺はシャノンの服じゃ胸の部分が合わないことに気がついた。
 なのでそれを笑って誤魔化した。

 それにしても、城内のものが贅沢をしているのを見るのは、あまり気分のいいものではない。
 この生活感のなさは、明らかに名君と呼ばれる王様の生活ではないように思える。
 それでもシャノンは国を良くしようという気概があるので、まだ救いがある。

 俺は知っている範囲で、シャノンにできる限りの協力しようと心に誓った。
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