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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第69話 帰還と報償

 ズボンと地面を真っ赤に染めて地面に倒れ込む俺の姿と、首を切り飛ばされたドラゴンの残骸を見て、兵士たちには俺が倒したものだと確信した。
 ルーファウスも事態が事態だけにあわてていたので、そこら辺のことに配慮がなかった。
 勝手に死んでいたことにすれば一番良かったのだ。

 ドラゴンは骨と皮、それに血を残して灰になってしまった。
 残った素材は兵士たちによって集められ、それぞれが異空間を出して収納する。
 そしたらそれを持って城に帰ることになる。

 今から出れば夜までには帰れるということで、俺たちはまた馬に揺られることになった。
 血を失いすぎた身体で馬に揺られるのは拷問以外の何物でもない。
 兵士たちがやたらと話を聞きたがって近寄ってくるが、疲れていることにして遠のけ、俺とルーファウスは最後尾を走った。

「おい、あれはお前が倒したことにしてくれよ。骨の焦げ跡から魔法がバレたりしたら困る」

「無茶を言わないでくれ。僕は剣なんかで魔物を倒したことはないよ。ここはカエデが倒したことにした方がいい。秘密の魔法と魔法剣で倒したことにするんだ」

「他人事だと思って適当になってるだろ。もしもの時はお前も共犯だっていうからな。俺一人だけ縛り首にはならないぞ」

「わかってるよ。もしもの時は僕が禁呪を使ったことにすればいい。どうせカエデのおかげで生きてられる命だ。それで縛り首になったとしても本望だよ。だけどバレる嘘はまずい。僕が魔法しか使えないのは誰もが知ってるんだ」

 深夜過ぎに城について、俺はそのまま家に帰った。
 アメリアとクロエはすでに寝ていたので、俺はテーブルの上にあった夕食を食べてベッドに潜り込んだ。


 翌日、城に行くとアルダがそこにいた。
 何でこんな場所にアルダがいるのだろう。
 訝しんでる俺のもとにアルダは一直線でやってくる。

「すごいな。ドラゴンを倒したそうじゃないか。お前の手柄なんだろ」

「いや~、それがですね。ルーファウスが、なんか見たこともないような魔法を使って、倒してたような気が……」

「なんだ。手柄を譲ってやることにしたのか。だけど私の目は誤魔化せんぞ。あれはどう見てもお前がやった切り口だ。そのことは、もう王様にも報告してある」

「そ、そうなんですか。ところで何で大隊長がここにいるんです?」

「アニーからの知らせが入って、急遽、6人の魔術師でワープゲートを乗り継いできたんだよ。だけど一足遅かったな。私もお前がドラゴンと戦うところを見たかったよ」

 アルダと話していたらアニーがやってきた。
 俺を見て、一瞬ギョッとしたような間があったのは何なのだろうか。

「本当に倒すとはね。信じられないわ。頭がおかしいんだとばかり思ってたわよ」

「そんなこと言ってると、カエデはアニーよりも出世するかもしれないぞ。今のうちに手なずけておいた方がいいんじゃないのか」

「そ、そんなことあり得ませんよ。でも、確かに……」

「出世は無理ですね。ブランドンの奴と、ちょっと過去に揉めたんですよ」

「何があったんだ」

「あいつがアメリアを手込めにしようとしたので、鼻をつぶして逃げたんです」

「あ、あれはお前たちがやったのか……。とんでもないことをするな。なるほど、それで急に出世に熱心になったのか。ここ最近のトンビ長官には鬼気迫るものがあると感じていたんだ」

「あきれた。いくら危ない目に遭ったからって、生かしておいて、さらに恨んでくださいと言わんばかりに顔までつぶすなんて、アンタやっぱりどこかおかしいわよ」

「だから、国境周辺で怪しい人影を見たというのは、アルダたちをそっちに行かせるために、ブランドンが暗殺部隊を使って仕組んだものだと思いますよ。まあ、確証はありませんが」

「なるほど。それについても一応報告しておこう。王様もお前に興味があるようで、私の話を聞きたがってな。いいか機会だから、ついでに色々話したいことも話せてよかった」

 アルダは俺たちを残して、また城の方へ行ってしまった。
 アニーは興味深そうな目で俺のことを見ている。

「アンタって本当に不思議ね。それと、私のことをからかって、一夜をともに過ごしたいとか言ってた事、ちゃんとアメリアたちに報告しておいたからね」

「お、おい……」

「嘘よ」

「やめろよ! 心臓に悪いだろ」

「相変わらず尻に敷かれてるのね」

「やかましいわ」

 俺はアニーと別れて、ルーファウスを探した。
 ルーファウスは大隊長室で気の抜けた顔をさらしていた。
 昨日の今日で身体の辛かった俺も、空いていた椅子にかける。

 上の空のルーファウスに話しかけていると、午後になってアルダがやってきた。
 とびきりの笑顔という感じのアルダを、俺はこの時始めて見た。

「王様がお前のことをお呼びだぞ。支度しろ」

「支度って、何をすればいいんです」

「まずは、そうだな。もう少しまともな服はないのか。ちょうどいい、ルーファウスのマントを羽織れ。そして兵士の正装であるこのズボンをはくんだ」

 俺は勝手に、ほうけているルーファウスの身体からマントを抜き取った。
 白銀に輝く、とても派手なマントだ。

「おお、触ってみると作りの良さがわかるな。これはいくらしたんだ」

「え? ああ、10万シールくらいかな。オリハルコンを召喚したアラクネに食べさせて、吐き出した糸で編んだものさ。世界に二つと無いものだよ」

「お前、想像を絶する位のお坊ちゃんだな……」

「なんだ、そんなことも知らなかったのか。それよりも早く着替えるんだ。それとこれが正装用の剣だ」

 それを身につけると、大体アルダくらいには整った見た目になった。
 それにしても、俺のマントをボロ切れかなんかのつもりで捨てようとするのはやめて欲しい。
 由緒正しい兵士の格好になった俺は、アルダに連れられて城に入った。

 この建物に入るのはこれが初めてである。
 本当にヨーロッパ辺りにありそうな城で、内装もやたらと豪奢だ。
 革靴の足音がカツンコツンとよく響くのが心地いい。

 そして俺が連れてこられたのは、二階にあるかなり広めの謁見の間だった。
 中央にいたのは、明らかに贅沢のしすぎで身体を悪くしている男が椅子に座っていた。
 周りには誰だかよくはわからないが、身なりのいい人たちが何人も並んでいる。

 俺はアルダに促されてその男の前まで歩み出た。
 俺の隣でアルダが連れて参りましたと、恭しく頭を下げた。
 よくわからないので俺は気をつけの姿勢で直立した。

「おお、其方がドラゴンを一人で倒したという勇者か。このような者が王国の兵士から出るとはなんとも誇らしい話だ。それになかなか聡明な顔立ちをしておる。アルダから聞いておるが大した腕だそうではないか。なんと言ったか……、まるで……」

「後ろに目がついているように隙がないのです。不意打ちを封じるための特殊な魔法を使います」

「そうだ、そうだったな。たいそうな腕の戦士であることは知っておる。なんといってもアルダに勝ったこともあるそうではないか。それだけでも偉業と言ってよいぞ。しかし、ドラゴンを一人で倒すとなると、国と国の間にあるバランスさえ壊しかねないほどの恐ろしい力だ。まあ晴れの舞台だから小言は抜きにする。まずは騎士の位を授けよう。今日から貴族と名乗るがよい」

 俺は騎士とはなんですかとアルダに耳打ちした。
 武官の正式な呼び方だとアルダは返してくる。
 ここからの手順はさっきアルダから聞いているので滞りない。

 俺は前に進み出ると、片膝をついて頭を垂れた。
 王様は儀式用の豪華な剣を抜いて、俺の肩に剣の刃を乗せて何事か言ったのち、剣を鞘に収めて、俺に差し出してくる。
 剣を受け取ると周りから拍手が起こって、俺はそれで貴族になった。

 それにしても、今日、いきなりこれほどの人を集めるとは、王国における王様の権力はとてつもないものがあった。
 まさに絶対権力だなと、失敗を恐れて俺の身体は自然と硬くなる。
 俺は拝領した剣を両手に持って、ギクシャクとアルダの元まで下がった。

「では続いて、もう一つ話がある。おい、出て参れ」

 人垣から現れたのは豪華なドレスを纏った女の人だった。
 ちょうど俺と同じくらいの年齢だろうと思われる。
 そして、その女の人の後ろには、アメリアとクロエの姿も見えた。

 アニーもいるので、これが姫様という奴なのだろう。

「シャノンや。この戦士をどうみるかね」

「たいそう勇壮に見えますわ。とても立派な兵士です」

 これはあれか。
 姫様はアメリアにでも気を遣ってそう言ってるのか。
 どう見ても俺は、勇壮なんて言葉が似合う男じゃない。

 勇壮どころか、郵送で送られてきそうな印象だろう。

「そうであろう。お前も気に入ったか。しかし、それほどの戦士をただの兵士で終わらせておくには惜しいとは思わないか」

「確かに、その通りですわ」

「よって、この度、王国への反逆罪で失墜したブランドンの治めていた土地を、其方が代わりに納めるものとして与える。そして、ブランドンとはなにやら因縁がある様子、ならば彼奴の裁きは其方に任せよう。煮るなり焼くなり好きにするがよい」

 まるで大岡裁きのような、実に自由でいい加減な判決だった。
 この国には裁判所のような物はないのだろうなと俺は思った。

「それではシャノンや。こちらに参れ。そしてその男の横に並んでみるがよい」

 はい、と少し緊張した声で答えて、姫様が俺の隣に並んだ。
 めずらしい色の薄い金髪が光に照らされて、銀色に輝いてみえる。

「どうだ、皆の者。この二人はたいそうお似合いだと思わぬか」

 ん?

 王様の問いかけに、周りからはお似合いです、お似合いですと合いの手が入る。
 俺は嫌な予感に、髪の毛が逆立つのを感じた。
 見れば、アメリアとクロエも顔をこわばらせている。

「どうだ、シャノン。お前にふさわしい男だとワシは思うのだが、いかがであろう」

「お父様、少し気が早すぎますわ。いきなりそんなことを言われても……」

「お前のそういうところだけはよくない。いつもそうやって結婚の話となると先延ばしにしようとする。だからこれは、ワシからの命令である」

「そ、そんな……」

 俺は小声で、一体どういうことですかとアルダに話しかける。

「お前があまりにも兵士の域を超えすぎているから、他国に行かれでもしないか心配したのだろう。昔から、こういう気まぐれをするお人だから、運命だと思って諦めるしかない」

「あ、諦めろって、そんな……」

「なんだ! 何か不満でもあるのか!?」

 王様は、うろたえる俺にご立腹の様子だった。
 俺は慌てて、そんなことあろうはずもございません、と答える。

「ですが、俺はもう結婚している身ですので」

「それがどうしたというのだ。べつに何も不思議なことはない」

 なんとなくそうなんだろうなとは思っていたが、こっちでは重婚も当たり前のようだ。
 必死で断る言い訳を考えていると、シャノンが俺の上着を引っ張った。

「どうせ形だけです。あの老いぼれも、そう先は長くはありません。今年の冬も越えられるかどうかわからないほどです。私も最後の孝行だと思って諦めますから、貴方もそれで諦めてください。アメリアたちには、私から説明しておきます。ああ、二人とも凄く怖い顔をしているわ」

 シャノンがそんなこと小さくささやいた。
 いくら姫様でも王様の命令には背けないのか。
 だけど待って欲しい。

 いくら形だけと言っても、現にアメリアとクロエは王様に向かって殺気の籠もった目を向けているのだ。
 俺はクロエあたりが何を言い出すかと気が気じゃない。
 王様が苛立った様子で、どうしたと聞くので、俺は沈黙に耐えきれずに身に余る光栄ですと返事してしまった。

 その瞬間、広場にいた全員から拍手と喝采を浴びて、ああ、これはもう後には引けないんだなと思って自分の失敗を悟った。
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