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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第67話 居残り組の出発

「戦争なんかよりも今は、ドラゴンの繁殖前シーズンで、そっちの方がよっぽど深刻だよ。ドラゴン狩りとなれば、どんなに慎重にやったとしても死者が出る可能性があるんだ。これには間違いなく、僕の隊も参加する事になるから、カエデにも関わってくる話だよ」

「ま、ドラゴンくらいなら、そんなに心配する必要もないって。それよりも戦争は嫌だよ。なんとかなんないのかね」

「戦争の方が可能性は低いよ。姫様を知っていれば、まずあり得ないってわかるもんだけどね。カエデはまだあった事がないんだっけ」

「顔くらいは遠くから見た事あるけどな。今はアルダと会議中だな」

「??? どうしてそんな事がわかるんだい?」

「俺の魔法だよ。動いてるものの位置とか大体わかるんだ」

「すごいね。それじゃバリーは今何してる?」

「犬を背負ってトレーニングしてるよ」

「それじゃアニーは?」

「控え室でシャノンの護衛だな。おしゃべりの方に夢中だけど」

「すごいね。その魔法はもっといろんな事に使えそうじゃないか。あれ、でも思いつかないな……、何か良い使い道がありそうなんだけど……」

 そのまま考え込んでしまったルーファウスをよそに、俺はメニューの試飲をを続けた。
 5杯目くらいで胃袋はキツくなってきたが、まだ当たりと言えるのに会っていない。
 どうせルーファウスの奢りなんだから、今日のうちに全部試しておきたい。

 そんな事をしているうちに会議の方が終わった。
 どうも会議室の雰囲気は思わしくない。
 俺はそっちが気になったので試飲は諦めて、ルーファウスに城に戻ろうと提案した。

「そうだよね。まだ仕事を始めたばっかりなんだし、あんまり長居して仕事増やしちゃうのもよくないよね」

「いや、そっちはどうでもいいんだけど、さっきの話の結果が知りたくてな。戦争になったら困るだろ」

 俺たちは城に戻って、訓練場の前でアルダを捕まえた。
 アルダの表情は予想よりも険しかった。

「国境まで兵士を出す事になった。ついては私が6隊ほど率いて出る事になる。他国を刺激しないよう、隊を分割して目的地に向かう。ルーファウスの1番隊だけは城の守りに残る事になった」

「戦争が始まるんですか?」

「いや、そうじゃない。確認と威嚇のために向かうだけだ。街に駐留する事になると思うから、しばらくは空けることになるぞ」

「威嚇のためにしては随分と大がかりですね」

「斥候が入ってるだろうから、それをあぶり出すのに捜索をするそうだ。国境沿いの街が高台にあって、もしそこを取られでもしたら大変だからな。お前たちは城に残って上からの命令を待て。アニーも残していくから仲良くやれよ」

「そりゃ無理ですね。だけど僕たちの隊しか残らないとなると、隊長格が少なすぎて魔物の群れでも出たら対処しきれますかね」

「お前とカエデがいればなんとかなるだろう。そっちの事は心配していない。お前たちが動けないなら、兵士を多めに送って急場をしのげばいい」

 アルダたちは午前中のうちに準備を済ませて立ってしまった。
 城の中はがらんとして、とても頼りない感じになった。
 100人ほどが一気にいなくなってしまったのだからしょうがない。

 俺たちはする事もなくなって、以前アニーから拷問を受けた忌まわしき隊長室と呼ばれる建物に入った。
 ここで報告を待つのが、これからしばらくの間の任務である。
 昼頃になって、アニーが昼飯を持ってきてくれた。

「なんだか物騒な話になってきたわね。それにしても、あんな貧しい国が、この国に戦争なんて仕掛けてくるのかしらね。きっと戦争が嫌で逃げ出した兵士でもいたのよ。シャノンも刺激するような事はやめた方がいいって、大反対していたのよ」

「陽動作戦ってわけでもないだろうし、一体なんなんだろうね」

「アンタに話してるわけじゃないわ。アンタとはまだ口も聞きたくないの」

 どうやらアニーはまだルーファウスに腹を立てているようであった。
 そのアニーの態度をみて、自分が悪いというのに怒ったような顔になるルーファウスも大したものだ。

「お前らは結構お似合いなんじゃないか」

「冗談はよしてくれよ」

「ふざけたこと言わないで」

「だけどルーファウスは金持ちのボンボンだし顔はいいだろ、アニーはルーファウスが合法な範囲で裸が見たい唯一の相手だ。ほら、けっこう名案じゃないか」

「バカも休み休みいいなさいよ」

「唯一の理解者だと思ってたのに僕は悲しいよ。まったく何もわかってないんだね」

「そうかな」

「馬鹿馬鹿しいわ。そういうくだらない話を思いついたときは、自分の部屋の壁にでも向かって、育ててるサボテンあたりにでも聞かせてやることね」

 名案だと思ったが、二人の反応は明らかに脈がない反応だった。

「いいかい、彼女には僕の求める純真さがまるでないのさ。そこをわかってくれなきゃ困るよ」

 そうだろうか。
 ルーファウスこそ年齢、もっと言えば体つきしかみていないような気がする。
 そして何故か、この3人で夕方まで無駄話をして時間をつぶすことになった。

 どうやら本来は、副大隊長であるアニーが報告を待つものであるらしい。
 アルダのいるときは、その役目をルーファウスが押しつけられているのだ。
 暇な勤務時間も過ぎて家に帰ると、夕食の用意が出来ていた。


 二日ほど何事もなく過ぎて、三日目の朝にルーファウスがトンビ長官に呼ばれたと言ってきた。
 俺も一緒に呼ばれたそうなので行ってみると、トンビ長官の顔を見て俺は笑いそうになった。
 トンビというのは豚鼻と書いてトンビなのだ。

 名前をつけたシャノンは実にセンスがある。
 そしてトンビ長官はブランドンだった。
 俺が蹴飛ばして、そのまま放置してしまったから元に戻らなかったのだろう。

 鼻が裂けてあらぬ方向を向いている。

「来たか。久しぶりだな冒険者。これから1番隊には、ドラゴン退治に向かってもらう。西の谷で昨日発見されて、このままでは近くの村が危ない。あいにく皆が出払ってしまっているので、行ける者はお前たちしかいないのだ」

「で、ですが長官。1番隊だけでは確実に全滅してしまいます。せめてアルダに連絡をとって、向こうから人員を……」

「大隊長には別の重要な任務がある。その間は私に直接的な指揮権があることを忘れるな。今日中に出発するように。以上だ」

 ブランドンはそれだけ言って部屋から出て行った。
 俺たちは2人でちょっと広い講堂のような場所に取り残される。
 それにしてもブランドンの奴は、随分と頑張って出世したようだ。

 あの時のことを俺たちに密告されても、立場を追われないように躍起になっていたのだろう。
 それで俺をドラゴンに突撃させて殺すために、今回のことを仕組んだのだ。
 まあ、色々考えてるけど無駄だなと思う。

 俺は大人しくなったルーファウスの肩を叩いた。
 そしたらルーファウスはこの世の終わりのような顔をしていた。
 まるで世界がついさっき終わったかのような絶望がそこにはあった。

「おい、何をそんなに深刻になってるんだ」

「終わりだよ。ここで長官の命令に背いても逃亡罪で死刑だし、ドラゴンなんかに僕の隊だけで突撃しても全滅だ。どうしたらいいんだよ」

 俺は落ち込んだルーファウスに大丈夫だと言い聞かせながら城を出た。
 そしたらそこでアニーと鉢合わせる。

「ドラゴンを倒しに行くって本当なの?」

「ああ、さっき長官に言われたんだ。ちょっくら倒してくるから、留守の間、アメリアたちのことよろしくな」

「あんた、自分が今どんな状況にいるかわかってるの? 私がアルダに連絡取れないか手を尽くしてみるから待ってなさい。いいわね。ルーファウスもそんなに絶望するんじゃないわ。きっとなんとかなるから」

「そんなことはいいから、アメリアたちのもとに戻ってよ。たぶん暗殺部隊に接触したのはブランドンで、今回、アルダたちを引きつけるために何かやったんだろうから、暗殺の方は心配ないと思うけど、十分注意してくれよな」

「あの子たちのことなんか気にしてどうするのよ。さっきだって、ドラゴン退治に任命されたって言ったら何も反応しなかったのよ。あんたと同じで何もわかってないのよ」

 ずいぶんと深刻になっている。
 まあ、それが普通なのだろう。
 そこで俺はちょっとからかってみることにした。

「もう俺たちは次の任務からは帰ってこられないだろう。その前にアニー、お前と一夜を共にしてみたかったよ。今からでも駄目かい」

「そ、そんな急に……、か、考えてみるわ。だ、だけど、今はアルダに連絡を取るのが先よ」

 アニーの深刻な表情とルーファウスの絶望に俺は思わず笑ってしまった。
 その俺の笑う様を、アニーとルーファウスは目に涙をためながら絶望を含んだまなざしで見ている。

「心配するなって、俺はゼニスを倒したんだぜ。ドラゴンくらいがなんだよ」

「そ、それは本当なのかい?」

「じゃ、じゃあ、倒せる可能性はあるっていうの?」

 俺はたっぷりと間を取ってから、まかせておけと答えた。
 そしたら2人はなんとも微妙な表情になる。
 俺は面倒になったので、さっさと出発させてしまうことにした。

 最後になっちゃんの顔をひと目でもいいから見たいと言うルーファウスを引きずって準備の指示をさせる。
 俺が一生懸命に話を進めさせたおかげで、悲愴な顔をした1番隊の出発準備が整った。
 別れを惜しむような目でアニーが俺たちのこと見ている。

 俺はアニーにウインクと投げキッスを飛ばしてから馬にまたがった。
 すでにアニーの顔には、1番隊の兵士よりも絶望の色が濃い。
 こうして喋る者は俺だけの、辛気くさい1番隊が城を出発したのは昼過ぎだった。
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