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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第6話 生活魔法とファイアーボール

「そろそろお昼ご飯にしましょうか。火を起こせないから芋でも焼きましょう。飲み物は魔力をセーブしておきたいから我慢してね。カエデ、荷物の中から出してくれない?」

「うん、飲み物なら俺が持ってるよ。ちょっと洗ってくるね」

 俺は鞄の中から芋らしきものを取りだし、リュックの中からファンタオレンジの缶を一つ出した。
 自分の部屋で飲もうと、お使いのついでに買っておいたものだ。
 せっかくこの世界に一つしかないものなのだからアメリアにあげよう。

 俺は川の水で我慢しておくことにする。
 果たして彼女はこの奇怪な飲み物を気に入ってくれるだろうか。
 俺は川で芋とジュースの缶を洗った。

 それを彼女の所まで持って行くと、アメリアは用意していた木の枝の串を芋を刺して石の上に並べる。
 そして胸の前で手を合わせると、そこに青白い光が生まれた。
 そのまま手を前にかざすと、岩の周りに炎が沸き立つ。

「おぉおおお!」

「茶化さないの。集中が乱れると危ないのよ」

 炎を一定に保つのは難しいのか、5分もしないうちにアメリアは額に汗を浮かべた。
 その間リリーは、ただ肩の上に手と顔を乗せて大人しくしているだけだ。
 俺は暇だったのでリュックの中にあるお菓子を確認していた。

 アルフォートが一袋、ポテトチップスが一袋、紅茶花伝のロイヤルミルクティーが一本入っていた。
 あとは大根とキャベツがそれぞれ一つ、お菓子ではないが、食べられそうなのはそれくらいだ。
 重たい大根とキャベツは早めに処理してしまいたい。

 出来ることなら今夜の夕食あたりに使ってくれないか打診してみよう。
 それにしても持ち物の中から、もとの世界のものが減っていくのが寂しい感じがするのは何でだろうか。
 これがなくなってしまったら、もとの世界との繋がりを完全に絶たれてしまうような気がする。

「できたわよ。さあ食べて。結構、上手に焼けたみたい」

「飲み物はこれを飲んでよ。ふたを開けてあげるね」

「珍しい飲み物ね」

 とリリーが訝しむ。

「なんかパチパチ言ってるけど大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。口に合うかわからないけどね」

 アメリアは恐る恐ると言った様子でファンタの缶を口に運ぶ。
 金髪で青い目の少女がファンタを飲むのは少しおもしろい。
 ニヤニヤしていたら、それをリリーに見とがめられた。

「なんか怪しいわ。きっと眠らされて、いやらしいことをされてしまうのよ」

「そ、そんなわけないだろ。リリーはちょっと心配性過ぎるんじゃないの」

「なんだか少し辛いけど、とっても美味しいわ。すごく不思議な味ね」

「飲ませて、飲ませて! ───うわっ、からい」

 文句を言っていた割に、リリーも飲んでいる。
 俺はアメリアから渡された芋を食べてみた。
 塩しか振ってないのに、この芋もかなり美味しい。

「この芋ってアメリアが作ったの?」

「違うわ。近くの村で売ってもらったのよ」

「それを買うお金とかどうしてたの」

「糸を買って、それを布に織って売っていたの。村にいたお婆さんがお世話をしてくれていたのよ」

 そういえば、アメリアの家の中に織機のようなものがあったような気がする。
 もちろん暗くて何が何だかよくわからなかったのだが。

「カエデの方こそ、不思議な格好をして、見たこともないようなものばかり持っているけど、一体どこから来たの?」

 信じてくれるかはわからない。
 だけど彼女は俺の質問に誠実に答えてくれているのだから、本当の事を言わないのはおかしいと思う。
 だから俺は隠すことなく事実を言った。

「実はさ、こことは全く別の世界から来たんだ。よくわからないんだけど、向こうで死んだらこっちの世界に飛ばされてきたんだ。異世界ってやつかな」

「全く信じられない話ね」

 とリリーが言う。

「私は信じてもいいわ。だってその方がおもしろそうじゃない」

「アメリアは子供ね。そんな夢ばかり見ているから私の気が休まらないのよ。こんなに元気にしてるのに死んだなんて話、どうして信じられるのよ」

「自分だって猫の死体じゃないか。精霊を自称してはいるけどさ」

「ねえねえアメリア聞いて聞いて、貴方の拾った馬の骨が私のことを猫の死体だって侮辱するの。助けてあげたのに信じられる?」

「ふふっ、ずいぶんと仲良くなったわね。リリーがそんなに私以外の人と話してるのを初めて見たわ」

「仲良くなんてないわよ」
「仲良くはないよ」

「ほらね。息もぴったりでしょ」

 リリーは誤解を解こうと必死になっていたが、俺は知らんふりして芋を食べた。
 そろそろお米が恋しくなってくる。
 二日も食べてないと、なんだか飲み慣れてるコーヒーを切らした時のようなのどの渇きを感じた。

 そんなことを考えていると、どんどん心細くなってくる。
 なるべくそんなことは考えないで、もっと異世界に来たことを楽しまないといけない。
 その為に何をするかと言えば、やっぱりあれだろう。

「魔法を使えるようになってみたいんだけど教えてくれないかな。それとも精霊がいないと魔法も使えないの?」

「簡単な魔法なら使えるわよ。それじゃあ私が歩きながら教えてあげるわね。何もせずに歩くのももったいないものね」

「よろしくお願いします、師匠!」

「ちょっと、師匠だなんてやめてよ。簡単な魔法くらいしか教えられないんだから」

「魔法なら私の方が専門よ。貴方に教えてあげないこともないけどどうするの?」

 リリーが得意げに口を挟んできた。
 うーん、俺としてはアメリアから教わりたいところだが……。
 でも詳しいというなら、そっちから教わった方がいいような気もする。

「じゃあリリーにも教えてもらうよ。よろしく」

「私のことは師匠と呼ばないの? アメリアばっかりずるいわ。私も師匠と呼びなさいよ」

「よ、呼ばないよ……」

 なんだかリリーは思ったことを、そのまま口に出しているような感じがする。
 精霊というのは、そんなに賢くはないのだろうか。

「精霊って、どのくらいの賢さが普通なの? みんなリリーくらいは喋れたりするのかな」

「そんなことないわ。お喋りが上手なほど普通は力のある精霊なのよ。だから私は普通以上に力があるの。貴方の呼び出す精霊なんて、口がきけるかどうかも怪しいものね。今のうちにたんと私のことを馬鹿にしておきなさい」

 俺はアメリアに話しかけたのに何故かリリーが答えた。
 俺の馬鹿にしたような微妙なニュアンスを感じ取って腹を立てるくらいには頭が回るらしい。
 考えてみたら、昨日の傭兵団の奴らよりは頭がいいかもしれない。

 となれば、精霊の格は賢さに比例するという彼女の言を信じるのならリリーは相当に格の高い精霊ということになる。

「それよりもリリー師匠、炎の玉を打ち出す魔法を教えてください。雷を呼び出す魔法でもいいですよ」

「そんな魔法はいきなり覚えられないわ。無知ね。いいこと、まずは基礎から学ぶことが大切なのよ。まずは座学からね。それでは魔法の成り立ちについて説明するわ」

「いやいや、そういうの抜きにして、とにかく一つでも使ってみたいんだよ。手頃な魔法がないかな」

「ないわ」

「そんな意地悪しないで教えてあげればいいじゃない。私が生活魔法を教えてあげるわよ。まずはそれがないと色々不便だもの」

「アメリアは甘やかしすぎなのよ。弟子というのは精神から鍛えないと駄目なの」

「あっちの師匠は頭が固いね。それじゃアメリア、その生活魔法ってのを教えてよ」

「ねえねえアメリア、やっぱり消し炭にしちゃいましょうよ。私さっきから心がささくれ立つのを抑えられないわ。こんな扱いされたの初めてよ」

「はいはい、二人とも落ち着いて。まずは私が生活魔法を教えて、そのあとでリリーが魔法について一般的なことを教える。それでいい?」

「しょうがないわね」

「それじゃあ、カエデ。まずは私の手を取って」

 そう言って、急に差し出されたアメリアの華奢な手に心臓が跳ねた。
 ただ手に触れるだけなのに、やたらと緊張する。
 恐る恐るアメリアの手を取ると、その手から暖かいものが体の中に流れ込んでくるのを感じた。

 それを逃さないように体の中の一カ所に集める。
 そうすると、自分の中にもそれと同じものがあったことに気がついた。
 アメリアから受け取ったそれと、もともと自分の中にあったそれは融合して区別がつかなくなった。

「自分の中のマナの流れを感じることが出来た? それを魔力、もしくはマナと呼ぶの。体の中から沸いてくる生命の力ね」

「確かに、体の中に同じものがあるよ。どうして今まで気がつかなかったんだろう」

「そういうものなの。ねえ、もう手は離していいのよ」

 言われて気がついて、俺は慌てて手を離した。

「じゃあ、そのマナを力として扱う方法ね。炎を心の中でイメージしてみて。そしてマナを指先に移して、その指先から出たマナに炎の力を宿すようにイメージするの。しっかりとイメージできてないと魔力が暴走するから気をつけてね」

 俺は目をつぶって、言われたとおり体の中にあるそれを指先へと運ぶ。
 それに炎のイメージを植え付けるようにイメージした。
 ほんのりと指先が温かくなったように感じて目を開くと、そこには炎が現れていた。

 それに驚いて、振り払おうとすると炎が視界いっぱいに広がった。

「うわっ」

「集中力を切らしちゃ駄目よ。マナが力に変換されると魔力になって、その魔力がイメージを持たないと暴走するの。暴走した魔力は何を引き起こすかわからないのよ」

「なるほど、でも魔法が使えたよ」

「そうね。よく出来てたわ」

 とうとう俺もファンタジーの世界へ足を踏み入れたのだ。
 しかも割と簡単ではないか。
 俺は体中のマナを右腕の先の中空に集めるようにイメージした。

 そしてそれをボールのように丸く納める。
 そしてそこに、太陽のように燃えさかる炎のイメージを重ねた。
 手のひらに熱を感じたところで、それを目の前に石に向かって投げるようにイメージした。

「ファイヤーボール!」

 魔力が俺の支配から離れた途端に、強い目眩のようなものを感じて俺は意識を失った。
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