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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第65話 ウエアウルフ退治

「酷い精霊だろ。こういうもんだと思って諦めてくれ」

 バリーがガスを評して言った。

「俺のどこが酷いってんだ。それじゃあおめえは、アルダんとこのキレたナイフみてえなネズミの方がいいってのか。おれあそうは思わねえな」

 キレたナイフとはどこかで聞いた事ある表現だ。
 いきなりリリーに食われかけた印象の方が強くて、俺にはどうもそんな印象はない。
 しかし態度はかなり大きいので、アルダの手前、誰も文句が言えないのだろう。

「そう言えば、カエデの精霊は当たりだよな」

 バリーが急にこちらに話を振ってきた。
 兵士たちは皆、クロエのことを精霊だと思っている。
 実際は微妙なところなのだが、今更、人間だと言っても面倒くさいことになるだけなので訂正はしない。

「そうなんですかね」

「そりゃそうだよ。なあ、ガス」

「ああ、もう兵士の間でファンになったのも多いらしいぜ。俺と同じ精霊だってのにやけに待遇が違いやがる。俺のファンなんて一人もいやしねえんだ」

 こっちではアメリアのようなかわいい感じよりも、クロエのように美人の方が受けがいいのだろうか。
 何故かはわからないがそうなのだろう。
 クロエも日に日に大人っぽくなっているので、そのうち人間なのがバレるかもしれない。

 馬の上で揺られる事まる一日、俺たちがサク村に着いたのは真夜中だった。
 すぐに兵士がやってきて事情を説明してくれる。
 来る途中で事情を聞いていた、狼が魔物化したウエアウルフの群れが3つくらい現れたらしい。

 遠吠えが聞こえたので、兵士と有志の村人が寝ずに番をしていたら見かけたそうだ。
 昨日の夜に村の周りをうろついていたので、今日か明日にでも襲ってくるかもしれないという。
 俺たちは報告してきた兵士に馬を預けて、とりあえず用意されていた飯を食べる。

 猪のようなものを煮込んだ、いかにも精力が付きそうな鍋だった。
 それで寝床を用意してくれているらしいので、ひとまず寝る事になった。

「カエデ、よかったら夜中に女を交換しないか?」

「なんのことです?」

「何ってそりゃあ、って、まだ兵士になったばかりだから知らねえのか。こういう村じゃよそ者が来ると女をあてがってくれるのさ。未亡人とかそこら辺をな。俺とお前の寝床にも居るだろうから、それを夜中に交換しないかってことよ」

 そんな風習のある村がいまだに存在しているのかと俺は驚いた。
 日本にも昔あったといわれている、血が濃くなり過ぎるのを避ける風習だろう。

「ちょっといやですね。それにそんな事をしていいものなんですかね」

「しょうがねえ。まあ嫌がる奴も居るからな。だけどそれだって仕事のうちだ。何をためらう事があるってんだ」

「そんなバカな仕事があるかよ。疲れてる俺の神経を、さらにすり減らすような事言うのはやめてくれ。そんなもん自分にあてがわれたのだけ相手して満足しとけばいいんだよ。バリーは貧乏性だな」

「そう言えば、バリーの剣は数万はしますよね。どうやって買ったんですか。隊長ってのはそんなに儲かる仕事なんですか」

「こいつは三食毎回ギルドに行って、そこで親父に出される食事をもらって食ってたんだ。風呂も雨の日に外を走り回って済ませたりな。まったく金を使わねえで、あれだけの金を貯めやがったんだ。おれあ周りに陰口たたかれるのが辛くてよう。バカの精霊なんて呼ばれた日には、お天道様のしたを歩けなくないだろ」

「まあ、そんな感じで貯めたんだ。これほどの剣を持ってる奴は、世界広と言えど俺くらいのもんじゃねえのかな」

 そう言ってバリーは俺に背負っていた剣を見せてくれた。
 真っ白に輝く、相当純度の高いオリハルコンで作られた剣だ。
 だけど、その根元には不格好なつぎはぎの後がある。

 俺は悪い事をしたなと反省した。
 バリーが、さて寝るかと言い出したので俺も席を立った。
 食事を用意してくれた女の人が寝床まで案内してくれる。

 俺が案内されたのは、村はずれの小さな小屋だった。
 小屋に入ると、案内してくれた女の人が羽織っていたものを脱いだ。
 この人が相手にしてくれるのかと俺は驚いた。

 しかし、どうしたものかと悩ましい。
 そこそこ肉付きもよく、好みでない事はない。
 だけど俺は自分の知らないところに子供が出来たりするのはごめんである。

 結局、最後は巨乳の誘惑に負けて、俺はその女の人を断らなかった。
 最初にアメリアが使っていた避妊の魔法を見よう見まねで使っておいた。
 俺が未亡人のテクニックに翻弄されていると、見張りの叫び声が聞こえた。

 仕方なく俺は中断して服と鎧を身につけ外に出た。
 外に出ると村の反対の方で、魔法の光がビカビカと光っている。
 それはそっちに向かって走った。

 途中でバリーと合流して、俺たちは戦いのさなかに飛び込む。
 狼の戦い方をするウエアウルフは40近い数がいた。
 どれも均等に距離をとっているので、魔法で蹴散らすのは効率が悪そうだ。

 しかも連携が出来ているので、無造作に飛び込んだ俺とバリーは即座に囲まれてしまった。

「おお、こりゃあ骨が折れそうだ。ずいぶんといやがるぜ」

「冗談じゃねえよ。夜だってのに引っ張り出されて、馬に揺られるのだって疲れるんだ。それを休みなしで戦えってんだから嫌になる」

「村に入られると面倒だから、もう少し森の中に誘い込みませんか」

「それが良さそうだな」

 その言葉を合図にして、俺たちは森の中へむかって駆けだした。
 横合いから飛びかかってくる一匹を俺は切り捨てた。
 そしたらそれと同時に何匹かが後ろから飛びかかってくる。

 それをバリーが横一線に全てを斬り飛ばした。
 その一戦で相手は警戒を強めて、なかなか襲ってこなくなった。
 距離をとって、こちらの衰弱を狙ってくる腹のようだ。

「厄介な相手ですね」

「そうだな。一匹づつ確実に仕留めていくよりない」

 俺は敵が纏まったところにファイヤーボールを放った。
 しかし1体はその爆風から逃れ、倒せたのは2体だけだった。
 魔力はたいしたことないが、素早さはそれなりにある。

「長引かせてもこっちに得はなさそうだから、二手に分かれましょう」

「いいぜ」

 俺はバリーから離れて狼に向かって駆ける。
 相手は距離を一定に保とうとするが、俺のスピードが勝って真っ二つに裂けた。
 それにしても迷宮にいたのと違って、死体は残るし血も吹き出すのでなかなかグロテスクだ。

 俺は隙がある奴に飛びかかっては斬り、飛びかかっては斬りを繰り返した。
 バリーも同じ事をしているが、あっちは全力で木ごと敵をなぎ払っている。
 その木が倒れてくるので、俺はそっちにも気を配らなければならない。

 力任せで無茶苦茶な戦い方だった。
 これで村の人もしばらくは薪には困らないだろう。
 朝方になって半分以上減らしたところで、ウエアウルフたちは逃げていった。

 睡眠不足の身体を引きずりながら、俺は与えられた小屋に戻った。
 女の人はすでに寝てしまっていたので、俺は起こさないように隣で横になった。
 気がつくといつの間にか寝てしまっていた。


 次の日に目を覚ますと、ちょうど昼過ぎくらいの時間だった。
 顔を洗っていると、バリーも起き出してきた。
 そのまま、昨日晩飯を食べた建物にいって昼飯だか朝飯だかよくわからないものを食べる。

「いやあ、昨日は見事でしたね。隊長に来てもらえて本当に助かりましたよ」

 一緒に飯を食べていた兵士がそんな事を言った。

「ああ、特にカエデがいてくれて助かった。俺はああいう小さいのを相手にするのは苦手なんだ」

「カエデさんは最近隊長になられたんですか? ここにはまだそんな情報は入ってきてないんですよ」

「いや、まだ兵士に成り立てだよ。だけど試験で俺とアルダに勝って、期待の新人ってわけだ」

「はー、そんな事のできる人間が世の中にはいるんですね。それなら隊長になる日も遠くありませんね」

 俺はどうですかねと返した。
 それにしても、これで今回の仕事は終わりなんだろうか。

「もうこれでここでの仕事は終わりなんですか?」

「いや、そういうわけにはいかないんだ。あれを全部倒しとかないと、色々荒らされて具合が悪い」

「それだと、どのくらいここにいる事になるんですかね」

「そうだな、10日くらいみとけばいいんじゃないか」

 俺はその言葉にぎょっとした。
 アメリアたちの事もあるのに、こんなところに10日も足止めをされるのはまずい。

「じゃあ、俺が森に入って倒してきますよ。ガスをちょっと貸してもらえませんかね」

「いいけど、そんなに焦っても疲れるだけだぜ」

「いやあ……」

 いくら護衛にアルダが加わったと言っても、それで絶対に安全というわけではない。
 だから俺としては一日でも早く城に帰りたいのだ。
 まさか、そんなに長期の作戦だとは夢にも思わなかった。

 ちょうど犬の嗅覚も持つガスがいてくれて助かった。
 彼の力を借りれば、そんなに難しい事でもないだろう。

「お前まで俺をこき使おうってのか。冗談じゃないぜ」

 しかしガスはそんな事を言い出して、手伝ってくれそうにない。
 そんな事を思っていたら、ガスは給仕の人に弁当を頼んでいる。
 どうやら口ではああ言っていても手伝ってくれるようだ。

「ガスは愚痴を言いたいだけなんだ」

 不思議そうな顔をしている俺に、バリーはそんな風に説明してくれた。
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