第63話 登城一日目
昼ご飯を食べてもアルダの体力は回復しなかった。
俺にも覚えがあるが、30が近くなってくればそんなものだ。
アルダは28か29といったところだろう。
昼飯を食べる時になって、リリーがアメリアたちのところに行くと言って消えたので、アルダのポケットからジャックが這い出てきた。
周囲を警戒しながら、慎重な動作でポケットの中から出てくる。
俺はサンドイッチに入っていたチーズのようなものを少し千切って渡した。
「ありがとうよ。ところで聞きたいんだが、リリーさんはどんなものが好物なのかな。俺は風の精霊だから鳥くらいならとれるんだ」
「そんなもので機嫌を取るより、アルダから離れないようにした方がいい」
「ちきしょう。どうして魔法が効かないんだ。あんなのにびくびくしながら暮らすのは嫌だぜ」
「そういう魔法があるんだよ」
「本当にお前たちは無茶苦茶だな。その魔法はあの2人も使えるのか」
「ええ、使えますよ」
「だったらアメリアには本格的に姫様の警護をしてもらいたい。出来れば24時間体制で見張りたいくらいなんだ」
「誰かに命を狙われてるんですか?」
「最近になって文官どもが暗殺部隊に接触してるという情報があってな。面倒なことになったもんだよ」
どうも言葉だけ聞いていると暗殺部隊というのはやたらと恐ろしく感じる。
「何のために暗殺部隊なんてあるんですかね」
「暗殺と言うよりも、ハンティングのためだな。本来は他国の政治的に邪魔な奴を排除するための組織なんだが、最近では逃げた犯罪者やスパイなんかを探してくるのが仕事になってる。しかし完全な秘密主義で、私ですら何をしているのか知らされていないんだ。まあ、わかりやすく言えば人殺し専門家集団ってところだな。昔の王様が酔狂で作ったものが、今では自らの意思を持って動いてるんだ。困ったもんだよ」
つまり特殊部隊といったところだろう。
もとの世界の軍隊も、海軍、陸軍には撃ち合い専門の特殊部隊があった。
軍隊はそれほど射撃訓練を行わないが、特殊部隊は一日中でも射撃訓練をする。
大規模な軍事行動には参加しない、小規模な殺し合いに特化した部隊といったとこだろう。
顔を見たら命を狙われるとかあったら怖いな。
ルーファウスの言うようになるべく関わらないようにしよう。
「俺が思うによう。アルダは心配しすぎなんじゃねえか。いくらなんでも姫様の命なんか狙わねえだろ。あいつらだって、この国の貴族なんだぜ。そんな国が傾くような大事をしでかすかな」
「そうだといいがな。駄目だ、どうしても体力が戻らない。訓練は終わりにしてお湯でも浴びに行こうか」
「今からですか? 仕事はどうするんです?」
「隊長ってのは武官なんだ。つまり貴族だぞ。文官のようにつまらない勢力争いをする気がなかったら暇なんだよ。お前もそれに慣れておいた方がいい。一回でも作戦があれば、お前なら出世できる」
俺はアルダについて城を出た。
そして昨日の高級スパらしい店に入る。
今更なので、服を脱いでアルダの隣に入った。
汗を流した後は、アルダが城内を見て回るのに付き合わされた。
城の兵士は、城内と町中の見張りくらいしかいない。
城に残った兵士というのは、訓練をするのは週一回くらいで、あとは見張りが主な業務なのだ。
魔物の討伐は全体の半分くらい兵士がかかり切りになるほどで、残り半分は城内と地方に配置されている。
今、魔物の討伐に出ている6つの隊からは毎日報告が入るそうだ。
アルダがその報告を読んでいるかは知らないが、ほとんど誰かに任せているのだろう。
見回りが終わると、俺は帰ってもいいと言われて家に帰った。
家に入るとなぜかアメリアたちと一緒にアニーまでがいる。
「入浴を覗く人がいるっていうから、気の毒だと思って家にあるのを使ってもらうことになったの。どうしてそんなことをしたの?」
「上司の誘いで断れなかったんだよ」
「最低よ」
「もうしないよ」
昨日のことがもうアメリアにまで知られている。
まあアニーと同じ仕事をしているんだからしょうがない。
「アメリアの話を聞いていると格好いい感じがするのに、実際に会うと尻に敷かれちゃってるのね」
アニーが俺を見てそんなことを言った。
それにしてもアメリアは不用心すぎる。
「頼むから家の場所は誰にもいわないでくれ」
「どうしてよ」
「どうしてもだ」
「まあいいわ。それじゃ私はお風呂を借りて帰るわね。それにしても、お金があるならもう少しいいところに住んだらどうなの」
「ここが気に入ってるんだよ」
「確かに居心地はいいわね」
そう言って、アニーは家から出て行った。
自分こそ覗かれるのが嫌なら、家に風呂くらい作ればいいのだ。
「アメリアたちの方の仕事はどうだったの?」
「とっても楽しかったわ。シャノンも凄くいい人なの。カエデにもらったの程ではなかったけど、もらったお茶菓子もとてもおいしかったわ。夕ご飯まで食べさせてもらったのよ。カエデの分ももらってきたの」
アメリアは異空間から皿を取り出して俺の前に置いた。
食べてみると、今までに食べたことのないほど濃厚でおいしい味がした。
ソースが癖になるような味で、肉は食べたことないほど柔らかい。
知らないが、フランス料理というのはこういうものではないかという感じがする。
それにしても俺が血と砂の味がするサンドイッチを食べてた時に、アメリアたちはこんなものを食べてたのか。
「お茶もおいしかったのう。それに窓からの眺めもよかった。いつかああいう暮らしをしてみたいものだ」
「護衛の仕事ってそんなに楽しいのか」
「そうよ。だってシャノンも暇なんだもの、一緒に過ごすだけだわ」
シャノンというのが姫様なんだろうか。
ずいぶんフランクな姫様だ。
高飛車で扱いが大変とかいうお約束はないのだろうか。
「お主はずいぶん埃っぽくなったの。一体何の仕事を任されたのだ」
「俺は大隊長の訓練に付き合わされたよ。なんか釈然としないよね。同じ日に兵士になったのに、この待遇の違いは何だろうね。それにしても、これ滅茶苦茶うまいよ」
「そうでしょう。お城の中で出る物はみんなそうなのよ。メイドさんが、私たちにまでよくしてくれるの。まるで自分がお姫様になったみたい」
格差社会という言葉が頭に浮かんだ。
それでもアメリアもちゃんとやれているようで何よりだ。
「それよりも、リリーは大隊長の精霊を朝飯にしようとしたんだぜ。ちゃんと言っといてくれよ」
「その武勇伝なら妾たちも聞いた。なかなか大したものよ」
「大したものよ、じゃないわ。絶対にそんなことしちゃ駄目よ」
「反省してるわよ」
すでにこってりと搾られた後らしく、リリーはうなだれていた。
その後はクロエにアメリアたちと一緒に風呂に張るように言って、俺はトイレに立った。
トイレの扉を開けたら、アニーが丸出しの尻をこちらに向けていた。
「な、なにしてんだ」
「お風呂の後に、トイレを借りただけよ。さ、さっさと閉めなさい!」
このことについて、アメリアとアニーからしこたま怒られることなった。
食後も、どうしてそんなに覗きが好きなのよと散々怒られる。
べつに特別好きなわけではないと言っても信じてくれなかった。
その後はだらだら過ごしてから、することを済ませて寝る。
今日はアメリアの番だった。
次の日も朝から城に行った。
アメリアたちはすぐに姫様の護衛に向かった。
俺はどうやら出世待ちみたいな状態になって、見張りの仕事も与えられずにやることがない。
ふらふらしていたらアルダに捕まってまた特訓に付き合えということになった。
今日はバリーも訓練場にいる。
でかい犬を背中に背負いながら、ひたすら運動場を走っていた。
しかも、そのでかい犬がずっと愚痴ってるからものすごく異様な光景だ。
こんなに朝からこき使われたら精霊だって過労死しちまうとずっと訴え続けている。
俺の身にもなってくれ、背負われてるからって楽じゃないと苦労を宣伝して回ってるみたいだ。
「あれは、いつもあんな感じなのか?」
「まあな。それよりも今日はリリーさんはいないのか? いないよな? いきなり出てくるなんて勘弁だぜ」
「今日はいないよ。そんなにびびらなくてもちゃんと言っといたよ」
「馬鹿野郎、そんなもんわかりゃしないだろうが。もしもの事があったら困るんだよ。まったくどいつもこいつも使い魔と言ったら猫を選びやがる。餌にされてるこっちの身にもなれってんだ」
「どうも、ここの精霊って愚痴が多いですね」
「そうだな」
俺の冗談にアルダが笑って、それを見たジャックがぷりぷりと怒り出した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。