第62話 アルダ
俺は適当な挨拶でルーファウスと別れて、家に帰った。
家では、すでに夕食の準備ができている。
みんなで椅子に座ってアメリアとクロエの作った夕食を食べた。
「それにしても今日は疲れたのう。あまり多くの人に会うと疲れてしまうようだ」
「ちょっとひやひやしたぞ。あんまり傍若無人な振る舞いは控えてくれよ」
「何を言うておる。あのくらいでなければ甘く見られてしまうではないか。それにしても最後の蛇を倒した手並みは鮮やかだった。あのくらい出来れば上出来だ」
「もしクロエだったらどうやって戦ってたの?」
アメリアがそんなことをクロエに尋ねた。
確かに、それは俺も少し気になる。
「妾であれば最初から全力で飛びかかっていくから、あのような攻撃は食らわん。様子見をするようなことをするからああなるのだ」
なるほど。
確かにクロエなら手加減などしないで、いきなり蹴り飛ばしていただろう。
俺たちは明日に備えて早めに寝ることにした。
次の日になって、俺たちは昼食の弁当をもって城へと向かった。
城内には何人かの兵士がすでに仕事に就いている。
俺はルーファウスを探して、詰め所のような建物に入った。
「大隊長が用があるから、2人ともそっちに行ってくれってさ」
ルーファウスに言われて、俺たちは訓練場へと向かうことになった。
そこでは、アルダが1人、訓練場のど真ん中で腕立て伏せをしている。
近寄ると、頭の上にネズミが一匹乗っていた。
「来たか。それでは今から、アメリアに何が出来るのか教えてもらいたい」
アメリアは人見知りの気があるので、代わりに俺が答える。
「精霊魔法と初級魔法、それに固有の攻撃魔法があります。オーラは俺と同じくらい使えますが、武器を使った戦いは出来ません。あと、魔法の瞬間発動も出来ます」
「おめえらふざけんなよ。法螺吹くにしたって、吹きようってもんがあるだろ。何だよ魔法の瞬間発動ってな。おれぁ聞いたことねえぞ」
アルダの肩の上に乗ったネズミがそんなことを言った。
これがアルダの精霊だろう。
「本当にそんなことが出来るなら見せてくれるか」
「は、はい」
アルダに言われて緊張した面持ちのアメリアは、あろう事かアルダの前でロアフレイムを放って見せた。
地面が燃えて、広範囲が真っ赤に染まった。
俺がどんな風に言いつくろうか考えていると、ネズミが口を開いた。
「ぶったまげたぜ。それに今の魔法はなんだ。見たことないぜ」
「じょ、上位の魔法なんですよ。いや、秘密にしておこうと思ったんですけどね。つい使っちゃったんですよ。いやあ、まいったな。レアな魔法だから知らない魔法だと思いますけどね」
「なるほど。実力はよくわかった。実は兵士の中でも、若い女で戦えるものは少ないのだ。そこでアメリアには姫様の護衛をしてもらいたい。女でないと付きっきりでの護衛は出来ないからな。それに話の合う若い女が好ましい。その点、アメリアにはうってつけだ。やってもらえるか」
アルダは一般魔法に疎いようで、簡単に言い逃れられた。
それにしてもアメリアの人見知りは酷い。
「は、はい」
「それではアニーに案内してもらってくれ。彼女も今は姫様の護衛に当たっている」
「それじゃ、クロエもそっちについて行ってくれよ。アメリア1人じゃ心配だし」
出来れば俺も行きたいが、女だけというならしょうがない。
城内であれば魔法よりも剣の方が抑止になるだろう。
「アニーはそろそろ来るはずだ。おっ、あれがそうじゃないか。一緒に行ってくれ」
アメリアはわかりましたと言って、そちらに走っていった。
クロエも渋々といった様子でそれについて行った。
「あれはお前の精霊じゃないのか? どうしてついて行かせるんだ」
「まあ、なくてもなんとかなりますからね」
「おう、それよりも俺のことを紹介してくれや」
「こいつは私の精霊のジャックだ。それで今日は、カエデには私の訓練に付き合ってもらいたい」
「そんなついでみたいな紹介の仕方があるかい。嫌になっちまうなあ」
「それは構いませんけど、俺の仕事の方はどうするんです」
「そんなことはどうでもいい。それよりも出来れば精霊を呼び戻してくれないか。ちゃんとした訓練だから本気を出してもらわないと困る」
「なくても大丈夫ですよ。それに、いたところで背負って戦うわけにも行かないでしょう」
「まあ普通はそうだよな。安心したぜ。俺ぁ、あれを背負って戦うのかと思っちまった」
「普通は背負って戦うだろう。バリーはいつもそうしてるぞ」
「バリーは馬鹿だからな。普通はあんな風にしねえのさ。アルダは毒されすぎなんだよ」
「バリーの精霊も人間なのか?」
「いや、犬だ」
ジャックはそう言ってアゴをしゃくった。
その先にはバリーが犬と一緒に歩いている。
柴犬くらいのものかと思ったら、土佐犬みたいな奴を連れて歩いていた。
「頭がおかしいだろ。あいつが自慢してる剣を、昨日お前がへし折ったときは実に気分がよかったぜ。ヘブッ──」
得意気にしゃべるジャックの上を黒い影が通り過ぎた。
何かと思ったら、10メートルほど先で、リリーがジャックを咥えてまるで獲物を見せつけるようにこちらを振り返っていた。
まさか食べる気かと、俺は青くなった。
「いってえな! この野郎何しやがんだ。俺を甘く見やがって、これでも食らいやがれええ!」
リリーの咥えたジャックが一瞬、青白く光り輝いた。
おそらく雷の魔法でも使ったのだろう。
しかしリリーに魔法など効くわけがない。
魔法は一瞬で消滅して、リリーは優雅にジャックを地面において、その身体を前足で押さえつけた。
「貴方、ずいぶんいいものを食べてるようね。まるまる太っていて、とってもおいしそうだわ」
「ひええええ。ば、化け物め! どうなってやがるんだ。アルダ! アルダ!」
アルダがとっさに駆け出すが、それよりも早くリリーが咥え直して駆けだしてしまった。
俺は思いきりしゃがみ込んでから地面を蹴った。
そして全力で駆けてリリーを捕まえる。
しかし勢いが止まらない。
訓練場の土は迷宮内のように硬くないので勢いが殺せない。
俺は10メートル以上も砂煙を巻き上げながら、やっとの思いで止まった。
そしてすぐにリリーの首根っこを捕まえて、その口からジャックを救出する。
「だ、駄目じゃないか。いいか、リリー、勝手にそこら辺の生き物を食べちゃ駄目だ。これは絶対だからな」
「あら、そうなの。だけど私、とっても暇なのよ」
「じゃあ俺が話し相手にでもなってやるから、フードにでも入っててくれ」
俺はリリーをフードの中に入れてアルダの元に戻った。
まったく、とんでもない猫だ。
さすがの俺も血の気が引いた。
「す、すいませんね。こいつちょっと常識が足りなくて」
「こいつって、いったい誰の事?」
「すごいな。いつの間に追い抜かれたのかわからなかったぞ。お前の身体は一体どうなってるんだ」
「ただのオーラですよ」
「精霊なしでそれだけのことが出来るなら、訓練の相手にはちょうどいい。どうやら侮っていたようだ。謝ろう」
その後はアルダの戦闘訓練に付き合わされた。
ジャックはアルダのポケットから出てくることはなかった。
アルダはかなりの腕前だ。
とにかく電撃の使い方が上手い。
戦っているうちに一度でも電撃を食らってしまえば、もう身体がしびれて思うようには動けなくなるだろう。
ただオーラの使い方はまだまだ改善の余地がある。
オーラの使い方を教えましょうかと言ったら、そういうことは言わない方がいいと忠告を受けた。
魔法の知識や剣の腕は財産のようなものだから、人に教えてはいけないそうだ。
確かに、強さが尺度になりやすいこの世界では、そういうこともあるのかもしれない。
それにしても、アルダの強さへの執着心は凄いものがある。
俺は休憩もなしで、ずっと木剣を握らされ続けた。
しかし手加減が難しい。
装備のあるところを叩いても怯ませることも出来ないし、装備のないところを叩いたら皮膚が裂けて脂肪が見えるほどの怪我をさせてしまった。
それで俺が慌てて駆け寄って、回復魔法を使おうとしたら隙ありと叩かれるのだからたまらない。
しかも純粋に剣の腕だけなら大した差がないので、俺は何度か攻撃をもらう。
力でもスピードでも勝っているのに、上手くいなされてしまうことがある。
俺はそこから、学べる物が無いか考えながら相手をした。
それにしても、この剣の腕と電撃があればそうそう倒せない相手などいないだろう。
アルダとの特訓は剣道の練習みたいで、それなりに面白い。
昼過ぎになって、ようやくアルダの体力が尽きて昼飯になった。
「お前はこれだけやって、疲れとかないのか」
「まあ、このくらいなら余裕ですよ」
「その剣の腕があればゼニスを倒したのもうなずけるな」
「ゼニスは魔法で倒しましたけどね。俺は魔法の方が得意なんですよ。魔法を覚えるにはコツがありましてね。ちゃんと起こる現象を科学的に──」
「すまんが、何を言ってるのかわからん。だけど、今のはなかなか面白い冗談だ」
「いやあ、冗談じゃないですけど」
「お前、まさか本当に魔法も使えるのか?」
「ええ」
「言ってることの意味がわかってるのか? 私に剣で勝つだけでも、この国にそんなことができる奴は他にいないんだぞ」
そう言われて、俺は初めて自分の力に気がついた。
強さが尺度のこの世界で、大隊長に勝つと言うことはそういうことなのだ。
いい大学を出たから大隊長になれるような世界ではない。
言わなかった方がよかったかもしれないと考えて、どう誤魔化そうか考えていたら背中から声が響いた。
「あら、本当にカエデは剣よりも魔法が得意なのよ」
しまったと思うがもう遅い。
リリーの言葉にアルダの表情が固まった。
まあバレてしまったものはしょうがない。
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