第61話 アニー
「初日から覗きとは、今度の新人はなかなか肝が据わってるな。それにしてもアニーの裸を見て、そんな風になってるところを見ると、お前もルーファウスの同類か」
「ち、違いますって。俺はむしろあいつの暴走を止めましたよ」
「ぎゃあ、もう、最低! どうしてそんなことになってるのよ」
俺は2人から指摘されて股間を隠した。
「やっぱりアニーの体はいいだろう。ちょうどカエデの好みくらいの身体だよね」
アニーに殴られて地べたに転がりながらルーファウスが得意気に言った。
こんなのと同じだなんてあるわけがない。
「だから、俺にそんな趣味はないって言ってんの!」
「最っ低……」
アニーが小さく呟いたら、また俺の身体に黒蛇が絡みついてきた。
同じくルーファウスにも黒蛇が絡みついている。
俺は足までがんじがらめにされて床に転がった。
そしたらアニーの見てはいけないものが目の中に飛び込んでくる。
その視線に気がついたアニーに、俺は顔を踏みつけられた。
「どうしてこんなことするのさ。僕らはただお湯を浴びに来ただけだよ」
「うるさい!」
「大隊長助けてください!」
「悪いが今日は新人に負けて落ち込んでるんだ。これで帰らせてもらう」
「あっ、ちょ、ちょっと!」
「おい、俺はただの被害者なんだ。怒るならルーファウスを怒ってくれよ」
アニーは俺の言葉を無視して、服を着始めた。
そしてそれが終わったら、ワープゲートを開いて俺とルーファウスを運び始める。
俺たちが運ばれた先は、よくわからない小さな部屋の中だった。
それにしても裸で蛇にまとわりつかれるというのは、かなり気持ち悪い。
俺たち2人を運び終えると、アニーは腕を組んで俺たちのことを見下ろした。
「な、何をする気だよ」
「後悔させるのよ。私にあんな事をしたことをね」
「ちょっとまってよ。僕はカエデと違って下心は半分なんだ。どっちかって言うとストライクゾーンからぎりぎり外れているからね。だから拷問も半分で頼むよ」
「ご、拷問?」
「そうよ」
そういって、アニーがルーファウスに絡みついた蛇をつかんだ。
そのままルーファウスの身体ごと持ち上げる。
あろうことかアニーはルーファウスの股間を俺の顔の上に持ってきた。
「ま、まて、何する気だ」
「こうするのよ」
そう言って、俺の顔の上にルーファウスの汚れたものが下ろされた。
生暖かい感触が顔に触れて、俺は全身に鳥肌が立った。
「やめてくれぇえ。頼むよアニー。僕はそれほど乗り気じゃなかったんだ。おかしいじゃないか。僕よりも楽しんだカエデと同じ罰を受けるなんて不公平だよ」
「黙りなさい!」
アニーは無慈悲にもルーファウスの頭を踏みつけたらしかった。
それで俺の股間に、ルーファウスの顔の感触が伝わってくる。
「ぎゃああ、口に付いた。口に付いたじゃないか!」
「しゃべるなって、息がかかって気持ち悪いんだよ」
「お願いだあ。僕の神経はこんな事に耐えられるようには出来てないんだ!」
アニーはルーファウスの言葉には取り合わずにぐりぐりとその頭を踏みつけた。
当然俺にもぐりぐりとルーファウスの顔の感触が伝わってくる。
俺は自分の顔に押しつけられた嫌な感触に耐えられなくなって、切り札を使った。
「オラに元気をわけてくれええええ!!」
「またそれなの。芸がないわね。それで今回はどうするのよ」
「もう、やめてくれねえか。オラ、こんなことされたら生きる気力がなくなっちまう」
切り札を使っても、この状況から逃れる術などない。
「もういい。僕はこんな思いをするくらいなら、いっそ殺された方がましだ」
「おい、投げやりになるなよ」
「やっと聞きたい言葉が聞けたわ。この変態!」
アニーはルーファウスの顔面を蹴りつけた。
そして放心状態になったルーファウスをさらに踏みつけた。
「もう気は済んだだろ。いい加減どけてくれ」
俺に乗っかっていたルーファウスの重さがなくなった。
どうやらこれで許してくれるようだ。
だけど俺の心には消えようもない傷が残ってしまった。
ルーファウスなんかの誘いに乗るんじゃなかった。
どうしてこんなことになったのだろう。
「いい、今度あんなことしたら、もっと酷い目に遭わせるわよ」
俺たちは裸に女座りではいと答えた。
俺には文句を言う気力さえ残っていない。
「このくそ女が。覚えてろよ。僕らだってやられっぱなしじゃないぞ」
「もうやめとけって。悪いのは俺たちだぜ。それよりも行こう」
「……そうだね」
俺たちは無言で服を着て、無言で部屋から出た。
その場所は城内にある休憩用の小屋みたいなものだった。
俺はすぐにゲートを開いて、さっきの浴場屋の前に出る。
そしてまたお金を払って中に入り、俺たちは顔を丹念に洗った。
石けんをつけて口の中まで洗う。
何度洗っても綺麗になった気がしない。
店の親父が苦情を言ってきたので、俺たちは無言で追加の金を払う。
20杯ほどお湯をかぶって、やっと俺は気が済んだ。
それで服を着て、俺たちは言葉を交わさないまま通りに出て歩き出した。
ルーファウスがぽつりと呟いた。
「心まで汚されちゃったね」
「ああ」
「復讐しよう」
「もう関わるのはやめとこうぜ」
「だけど、このままじゃ引き下がれないよ」
「またあの蛇にやられて、酷い目に会うだけさ。一体、あの蛇は何なんだ」
「あれは……、どこかの古い書庫で、召喚方法の書かれた書物をアニーが見つけたのさ。冒険者でもないのに、あいつはあれだけで副大隊長なんて肩書きを持ってるんだ」
「隊長じゃないのか」
「アニーは攻撃手段なんて何もないのさ。だから1人じゃ何も出来やしないんだ。だけど暗殺にはめっぽう強いから優遇されてるんだよ。そのくせ人殺しなんて嫌だと言って、暗殺部隊にも入らないで、副大隊長なんてやってるってわけ。いわゆる名誉職だね。だから魔物退治も偉そうに指示しているだけで、何もしやしないよ」
「だけどあの能力で狙われたら、対抗手段なんてないな」
「そうだね。恐ろしい能力だよ。対抗手段があるとしたら3人以上で行動するって事くらいかな」
「暗殺部隊なんてのもあるのか?」
「うん。黒い服を着て顔を隠してる奴がいたら、そいつらがそうだよ。城内で見かけても関わらない方がいい。まあ、カエデくらいの実力があれば、怖がる必要もないのかもしれないけどね。あいつらは毒を使うから、敵に回すのは怖い連中だよ」
「さて、俺もそろそろ帰ろうかな。そろそろ夕飯を作ってくれてる頃だろうし」
「それって、あの2人が?」
「ああ」
「あの精霊の子とどうやって契約したの? どこで知り合ったの?」
「まあ、普通に召喚士の人に頼んだよ。そういえばルーファウスの精霊は?」
「あれだよ」
そう言って、ルーファウスは上を指さした。
そこには鷲や鷹のような大きな鳥が空を舞っている。
「なるほどね」
「ああやって、僕に危険がないか見張っているのさ」
「アニーは、あの蛇が精霊なのか?」
「アニーはまだ精霊と契約してないんだ。辺境にある魔法使いの一族で、使い魔は猫しかみとめないんだって。だけど精霊を選べるほど、アニーは優れた魔法使いじゃないから」
なるほど。
使い魔は猫しか認めないなんて、まるで魔女みたいだ。
確かに、いかにも魔女という格好をしていた。
「アルダの精霊は?」
「ネズミだよ。いつもポケットに入ってるんだ。口の悪い、嫌な奴さ。でも今日は精霊の力を使ってなかったね。あのネズミがいるとアルダは本当に強いよ」
「口が悪いって、なんかリリーみたいだな」
「それはアメリアって子の精霊?」
「ああ」
「あの子とはどんな関係なの?」
「結婚してるんだ」
「なるほどね。僕もエルフの彼女が出来たらなあ」
「見つければいいじゃないか。ドワーフとかどうなんだ」
その言葉を聞いた途端、ルーファウスはにへらっと薄気味の悪い笑みを見せた。
顔は凄く整っているのに、それを忘れさせる何かがこの男にはある。
「さすが僕が理解者と認めた男だよ。だけどこの国にはドワーフがいないんだ」
俺はそんなものに認められた覚えがない。
それにしても、いろんなことを自分の中だけで完結させている男である。
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