第60話 ルーファウス
アニーと呼ばれた少女は、俺の前に立つとローブから色白の細い腕を出して、俺の後ろの方を指さした。
「あれをご覧なさい」
その言葉に、俺は無造作に後ろを振り返る。
特に何もないやんけ、と心の中で突っ込んでいたら首筋に何かが絡まりつくような感触があった。
驚いて下を見ると、真っ黒な蛇が俺の身体にまとわりついている。
俺の近くに開けられた異空間からその蛇は這い出てきていた。
とっさに振りほどこうとするが身体に力が入らない。
なぜかオーラがまったく発動してくれなかった。
「どうかしら。これでもう貴方は何も抵抗できないわ」
そう言って、少女は小さい手でナイフのようなものを取りだした。
俺はまったく訳がわからない。
このくらいのもの、簡単に引き千切れそうなものなのに魔力が作れないのだ。
この状態ではバンシーアークですら発動させることが出来ない。
気持の悪い黒蛇は俺の身体にまとわりついて、ものすごい力で締め上げてくる。
オーラを使わない純粋な力だけでは、この蛇の力に逆らえなかった。
「さあ、まいったと言いなさい。貴方に勝ち目はないわ。ふふふ。それとも少しくらい怪我をしないと負けは認められないのかしら」
それなりにかわいい顔なのに、ちょっと笑い方が怖い。
確かに、魔力が作り出せないんじゃどうしようも無い状態だ。
しかしどうにも、よそ見をさせられた方法が気に入らない。
やけに思わせぶりな登場の仕方だったから、俺だって緊張していたのだ。
あんな手に引っかかって負ければ、まるで馬鹿ではないか。
これでまいったと言うのは、どうしても癪に障る。
使いたくはないが、ここは奥の手の出番だろう。
世界と一体になるために、俺は肺の中に空気をため込んだ。
「オラにみんなの元気をわけてくれえぇぇ────────!!!」
「????? な、何を言っているの? 十分、元気じゃないの」
「また狂人のまねごとか」
クロエが俺の奥の手に後ろから野次を飛ばしてきた。
だけど勝つために、なりふりなんて構っていられない。
「ふぃ───、おめえ意外とやるなあ。オラ負けるかと思って、ヒヤヒヤしちまったぞ」
「??? 何を言っているの。さっきから状況は変わってないわ」
「へへっ、オラもうおめえの技の弱点に気づいちゃったもんね。おめえの技は身体の近くではマナを操れなくなっちまう。だったら身体から離れたところでやればいいってわけだ」
「馬鹿ね。強がりはやめなさい。マナを操れなくなるんだから、どうやってそこに魔力を集めるのよ。早くまいったと言わないと怪我をすることになるわよ」
「ははははっ。やっぱり、おめえバカだなあ」
「ムカッ」
俺は持っていた刀を足で蹴り上げて、そこにクラウソナスを発動させた。
そしてその刀の落下を利用して蛇を斬り裂いた。
蛇が地面に落ちると、身体に力が戻ってくる。
俺は刀を拾ってアニーに向けた。
この技を破ってしまえば、アニーに戦える術があるようには見えない。
「どうすんだ。降参すっか?」
「まいったわ。それよりもどいて!」
アニーは斬り裂かれた蛇に駆け寄って回復魔法を唱えた。
仕方ないので、俺も蛇を直すのを手伝った。
斬られたばかりなので、傷をくっつけるだけで蛇は元通りになる。
「まさかアニーまで負けてしまうとはな。どうやら本物のようだ」
「まだ続けるのかの」
「いや、ゼニスを倒したというのが本当だとわかれば入隊資格はある。もう十分わかった。カエデとアメリアの入隊を認めよう」
「でもいいんですかね。アニーの能力まで知られちゃって。隊長以外には秘密だって話じゃなかったですか」
「そうだ。カエデ、今日のことは他言無用で頼む」
アルダの言葉に俺は頷いた。
どうもルーファウスは、隊長たちの中ではまともな方に見える。
そのくらい俺の戦った3人はアクが強い。
なぜか俺の実力を見ただけで、アメリアの入隊まで認められてしまった。
だけど別にアメリアだって、アルダやバリーには負けないだろう。
もしかしたら3人とも俺が倒してしまったから、他に戦える人がいないのかも知れない。
「それじゃ、2人は今日から僕の隊に入るって事でいいですね」
「ああ、それで構わない」
「それじゃ、お連れの方々は今日はもう帰ってもらってもいいよ。明日は朝になったらここに来てくれればいいから。僕の隊は城の警備が主なんだ。何と言っても1番隊だからね。近衛とは違うけれど、まあ似たようなものさ」
まだ俺には用があるらしいので、アメリアとクロエには、先に帰ってもらった。
ルーファウスはどこかに向かって歩き出したので、俺もその隣を歩いた。
「俺は今日からすることがあるのかな」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね。ちょっと話したいなと思ってさ。それにしても連れてる女の人はいい趣味してるよね」
「まあな。確かに2人とも美人だよ」
「僕はもうちょっと年下の方が好みなんだ。だけどカエデの連れてる2人も実にいいよ」
「ん? もうちょっと年下ってのは……」
「カエデも世間からロリコンとか言われて、さぞ辛い思いをしてるだろうけど、お互い頑張ろう」
確かにあの2人を連れていたら、そんな風な誤解を受けるんじゃないかと、心のどこかでは思っていた。
それにしても、それは全くの誤解だ。
「いや、悪いんだけど、俺はそういう趣味ってわけでもないよ」
「な、なんだって! あんな2人を連れているのに、年下趣味じゃないってのかい!? だ、だけど、あの2人ともすることはしているんだろう??」
「あ、ああ……」
「なんて罪深いんだ! おお、神よ。貴方はどうしてそんなに不公平なのです!」
道理で、初めて会ったばかりの俺に好意的だと思った。
同好の士だと思って、あんな態度だったのだ。
しかも、あの2人以上に年下となると、それはもう犯罪の臭いがしてくる。
「だけど自分の趣味に、気がついていない可能性もあるよね」
「まあな。それで今はどこに向かってるんだ?」
「ああそう、親睦を深めるためにアニーの入浴でも一緒に覗こうかと思ってさ」
「親睦を深めるためって、お前、ちょっと性格がざっくばらんすぎやしないか」
「そうかな。兵士の中では唯一そこそこ見れる身体をしてるんだよね。たまに覗くんだよ。同じ指向の持ち主なら喜ぶと思ったのさ」
確かにアニーは身体が小さめで、胸も小さい感じだった。
白い肌が黒いローブの下で映えて、結構セクシーな感じがしたのだ。
決して趣味が同じというわけではないが、ルーファウスの提案には惹かれるものがあった。
ルーファウスは城を出て、近くにあった喫茶店のような店に入る。
奢りだからと言われて俺も注文するように進められたので、文字の読めない俺はルーファウスと同じものを注文した。
ルーファウスは最近気になっている女の子の話などをしている。
俺は持ってこられた甘い飲み物をちびちび飲みながら、その話を聞いていた。
しかしその話にも次第に飽きてくる。
「ところでルーファウスも冒険者だったのか?」
「まあ、ほんの一時期だけね。僕の家は代々、オリハルコン鉱山の管理している貴族の家系なのさ。だから小さい頃から魔法を仕込まれてね。それで大人になって、家族と上手くいかなくて家を飛び出したんだ。その間に冒険者をやってたんだけど、家族と和解した後も、その時の働きのおかげで兵士になることが出来たってわけ」
やはり見た通り魔法が得意なのだ。
そんなことを話していたら、店先をアニーが通り過ぎていった。
ルーファウスはそれを無言で指さして席を立った。
俺は、会計を済ませて店を出て行くルーファウスの後を追った。
アニーはこれも浴場屋なのかと思うほど立派な建物の中に入っていった。
「この、人のいない時間にアニーは必ずここに来るんだ。今日のように汗をかくような事があったときはね」
俺たちはカウンターでそれぞれ10シールを払って中に入った。
そしたらルーファウスは入ってすぐのところで女の子を呼び止める。
相手は12歳くらいの女の子である。
それはそれを見て背筋が寒くなるのを感じた。
美形の顔を乙女みたいにときめかせているではないか。
「今、なっちゃんって言わなかったか? この子がさっき話していたなっちゃんなのか? 気は確かかよ。やばいって。犯罪だって。ついて行こうとするなって」
俺はルーファウスの手を引いて、なっちゃんから引き離した。
彼女は母親と一緒に奥の方へと入っていった。
母親の方はルーファウスを見て嬉しそうな顔で対応していたが、まさか子供の方に気があるとは思っていなさそうな感じだった。
「酷いじゃないか。カエデまでそんなことを言うんだね」
「酷いのはお前の趣味の方だ。そっちのことには後で俺が相談に乗るから、今は控えてくれ」
この世界にはドワーフとかエルフとか、色々と抜け道があるはずだ。
そういう道を探すことでなんとかしてもらうしかない。
俺は本来の目的である方を済ませようと提案した。
そっちの方がまだいくらか健全だ。
すぐにルーファウスは目的の背中を見つけて俺に目配せをする。
そしてルーファウスは服を脱ぎ始めた。
覗きと言うから遠くから窺うのかと思ったら、偶然のふりして隣にはいるということのようだ。
いくらなんでもと思うが、ここまで付いてきたからには最後まで付き合うしかない。
俺たちは服を脱いで、一人でお湯を浴びているアニーの両隣に入った。
「ぎゃ! な、な、な、なんであんたたちがここにいるのよ」
白い肌のアニーはたいそう綺麗な身体をしていた。
たしかに胸の膨らみはささやかだが、肌がとても綺麗だ。
濡れた黒髪が何とも色気がある。
「やあ、奇遇だね」
そう言って、ルーファウスは大胆にも仕切りの上に身体をのせてアニーの身体を覗き込んだ。
そのルーファウスの顔面にアニーの右フックが刺さる。
「偶然なわけがないでしょうが!」
至極もっともな主張である。
俺はアニーの小ぶりな尻に釘付けになっていた。
まぶしいくらいに真っ白だった。
「あ、あんたも何でこんな場所にいるのよ!」
「いやぁ、誘われて」
「やっぱりわざとじゃないの! ねえ、大隊長、こいつらなんとかしてくださいよ!」
その言葉で、俺の反対隣にアルダがいたことに気がついた。
思わず息が漏れるほどの大きな胸と、完璧に引き締まった身体が目に入る。
そしたらアルダはふっと息漏らして小さく笑った。
「おお、お前たちか。奇遇だな」
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