第59話 試験
俺は翌日になって、一人でギルドに向かった。
今日は城に行く日時を聞くだけなので一人で済む。
ギルドの本部に足を踏み入れると、周りの人がざわつき始めた。
それを無視して俺は3階にあるデズモンドの事務室へと向かう。
デズモンドは書類の整理中だったらしく、机の上に羊皮紙の束が置かれていた。
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。あなた方の活躍をお伝えしたところ随分と大騒ぎになってしまいましたよ。何せ、あのゼニスを倒したとなれば、それはもう一大事です。それで城の軍部から直々に実力を測りたいとの話が来ています。今日の午後にでも城に行って実力を披露してはもらえませんかね」
「それは構いませんが、一体どんなことをするんです」
「私は、そっちの方は門外漢なのでわかりませんが、魔法でも見せれば納得するんじゃありませんか。よろしければ正午にまたここに来ていただければ、それで済むように手配しておきますが」
ならばそれでお願いしますと伝えて、俺はその場を辞した。
これだけ騒ぎになっているというのに、ブランドンからの接触はない。
俺のエリアセンスにも怪しげな人物の存在はなかった。
俺はギルドから出ると、ゲートを開いて家に帰った。
家に帰るとアメリアとクロエがベッドの上でなにやら話している。
それを見て俺の病気がまた頭をもたげ、顔が熱くなるのを感じた。
俺は午後になったら城に行くという話を2人に聞かせた。
「どうしよう。着ていく服があるかしら」
「なんか、実力を試したいらしいから、いつもの服でいいんじゃないかな」
よっぽどのことがない限り、俺もアメリアも実力で弾かれるという事はないだろう。
それよりもどこまで力を見せていいのかという問題がある。
俺は悪魔系統の魔法は使わないように言っておいた。
しかしそうなると、クラウソナスとキネスオーブ、精霊魔法、あとは初級魔法くらいしか使えない。
それでどうやってゼニスゴーレムを倒した、という話になったらどうしようか。
「秘密だと言えばよいではないか。オーラだけでも十分に実力は測れる」
少し楽天的すぎるような気もするが、まあそんなもんだろう。
アメリアは準備に忙しいようなので、クロエとイチャイチャしていたら時間になった。
なので俺はギルド本部の三階へとワープゲートを開いた。
デズモンドの部屋からは話し声が聞こえる。
気にせずに扉をノックすると、中からデズモンドの返事が聞こえた。
扉を開けると、デズモンドの他に鎧を着た女とローブ姿の若い男がいた。
「時間通りですね。紹介します。こちらが大隊長のアルダ、そしてこちらが1番隊の隊長ルーファウスです」
デズモンドに紹介されて、アルダと紹介された方はぶっきらぼうによろしくと言った。
ルーファウスは俺の前までやってきて手を差し出し、握手をしながらよろしくと言った。
好青年を絵に描いたようなハンサムな顔立ちの青年だった。
「君たちが20階の化け物を倒したとかいう冒険者か。どうも、そうは見えないな。本当に2人だけで倒したのか?」
「ええ、確かに倒しました」
「後ろにいるのは?」
「俺の精霊のクロエです」
「なるほど。よろしい。では今から城に行って実力を試させてもらう。君たちにとっては試験だと思ってもらいたい」
「ほう。妾の主人に対して試験を口にするか。そのような資格がお主たちにあるのかのう」
クロエが前に歩み出てそんなことを言った。
初対面の相手に、まったく気後れした様子がない。
「ふん、なかなか骨のあることを言う精霊だ。しかし、兵士になればお前の主人は私の部下になるのだぞ」
「いやあ、僕は気に入りましたよ。もし兵士になるときは僕の隊にください」
「考えておこう」
青年はさっさとワープゲートを開いて、まだ何か言いたげなアルダの背中を押してゲートをくぐらせる。
そして俺たちにもくぐるように促した。
俺はさっきのクロエの無礼を流そうとしてくれた青年に、助かりましたと告げた。
「嫌だなあ。ゼニスを倒したほどの実力者なら、すぐ隊長くらいにはなれるだろうから、ため口でいいよ。よろしくね」
どうも、さっきからルーファウスはやたらと俺に好意的な態度をとってくる。
少し気味が悪いが、俺は見た目通りの好青年なのだと思っておくことにした。
ゲートをくぐると、ちょっと広めの運動場のような場所に出た。
すぐ近くに、見上げるほども大きな白亜の城がそびえ立っていた。
遠くからではわからなかったが、近くで見るとかなり迫力のある建物だ。
おおよそ、ここは城内にある訓練場のようなものなのだろう。
その隅の方に雰囲気のある一団がいた。
アルダがそっちの方に歩いて行くので、俺たちもそれについて行った。
ローブや鎧を着た男女数人に、アルダは片手をあげて挨拶する。
その中に、昨日ギルド本部で見たバリーが混じっていた。
昨日の折れた剣は元通りになって背中に背負われている。
「それでは今から、ここにいる隊長たちと戦ってもらう。別に勝つ必要はない。ただ力を試させてもらうだけだ。まずは私から戦わせてもらう。まずは男の方、カエデとか言ったな。お前からだ。こっちに来てくれ」
俺は広場の真ん中まで連れ出された。
ちょっとだけ緊張する。
「負けるでないぞ」
クロエが俺に檄を飛ばした。
だけど戦うと言っても、どこまでやっていいものなのだろうか。
昨日は同じようなことを言われて、バリーの剣を折ってしまったのだ。
また弁償しなきゃならないような状況になるのは困る。
「今から私の魔法を見せてやろう。これは密度の高い電撃を操る魔法だ。触れれば身体は穴だらけになる。もし降参するときは、まいったと言え。いいな」
密度の高い電撃とはいかなるものか俺には想像も付かない。
アルダは自分の前に大きな光の玉を作り出した。
アメリアのキネスオーブにも似ているが、かなり大きな光の玉だ。
それにしてもバチバチとうるさい魔法だった。
「最初に言っておいた方がいいと思うんですけど、俺たちに魔法は──」
「行くぞっ!」
俺の話を聞かずにアルダは光の玉を飛ばしてきた。
どうしたものかと思っている俺の目の前で、その光の玉は急停止する。
「話にならんな。この魔法は避けることも逃げることも出来ない。相手の力を見て状況判断が出来るかどうかのテストだったが不合格だ」
俺の言葉も聞かないでアルダは勝手に話を進めている。
反論したいのだが、目の前の光の玉がうるさすぎてどうにもならない。
なので俺はその光の玉に触れて、その魔法を消滅させた。
「なにいぃぃぃぃい!!」」
「何、じゃなくて、ちゃんと話を聞いてください。俺たちに魔法は──」
「そんな馬鹿な! 私の魔法が打ち消されただと!?」
アルダは俺の話など聞く気もない。
自分のペースで驚きをあらわしている。
よっぽど自信のある魔法だったんだなと少し気の毒になった。
「畜生。次っ! バリー、出てこい!」
アルダに呼ばれてバリーが俺の前に出てきた。
応急処置なのか昨日よりもちょっと剣が短くなっている。
根元の部分が不格好に太くなっている。
「お前らがゼニスを倒したってのは本当なのか? どうも、そういう風には見えないぜ」
これは一体どういうことなのだろうか。
昨日ギルドで会ったのは双子の兄弟か何かだろうか。
しかし剣にはしっかりと見覚えがある。
「あの、昨日ギルドで会いませんでしたっけ?」
「そうか? そう言えばそんな気もするな」
「昨日ギルドで凄い奴がいて、剣を折られたって言ってたじゃないですか。それとは違うんですか」
「ああ、そうだそうだ。昨日会ったよな」
ルーファウスの言葉で、バリーは昨日のことを思い出した。
まさか忘れていたのかと俺はちょっと驚いた。
「なるほどな。となると剣の恨みがあるって事だ」
「ギルドで弁償してもらえなかったんですか?」
「あいにくギルド長は俺の親父でな。修理代だけで誤魔化されちまった。昨日は寸止めにするつもりだったし、魔法も使ってなかったんだ。今日も同じようには行かないぜ。本気で行く!」
「おい、バリー。怪我をさせるたりするんじゃないぞ」
そんなアルダの忠告が聞こえているのかいないのか、バリーは剣を赤く光らせ始めた。
何か魔法剣のようなものを使ったのだろう。
長い両手剣を引きずるようにしてバリーはこちらに向かってきた。
その動きを見ただけでも、あまり大したことがないのがわかってしまう。
しかし、これを勝ったことにするにはどうすればいいのだろう。
俺は仕方なく、バリーの剣に狙いを定めた。
俺の放った居合い斬りの一撃はバリーの剣を斬り上げた。
俺の緩急をつけた動きにバリーが翻弄されているのが目に見てわかる。
クラウソナスが乗った刀がバリーの魔法剣に振れると、その魔法は消し飛んだ。
そしてまた、バリーの剣は根元から切り離される。
周囲に静寂が広がった。
そんな嘘だろ、オリハルコンの剣が、などといった声が周囲から漏れた。
バリーは折れた剣を前にうなだれてしまった。
負けたことよりも、剣が折れてしまったことの方に落ち込んでいるみたいだった。
俺が試験はもう終わりかな、などと思っていたらアルダが重々しく呟いた。
「仕方がない。こうなったらアニーにやってもらう。ここで参ったと言わせられなければ、我々の名誉は地に墜ちる」
試験という話だったのに、なんか話がずれてないだろうか。
アルダの言葉に、ルーファウスはいくらなんでもまずいでしょとかなんとか言っている。
そして俺の前に、黒いローブをまとった根暗っぽい少女が進み出た。
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