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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第58話 スカウト

 雪が溶けて、俺たちはギルドに向かった。
 買い取り価格が戻ったことで、ギルド内は混み合っている。
 俺は順番を待って、軽量テーブルの上に出したものを並べようとした。

「すみません。この量ですと、ここでは買い取りが出来ません。支部ではなく本部の方に持って行ってもらえないでしょうか」

 そんなことを言われて、俺は出したものを異空間へと戻した。
 仕方なく、この国に来て以来、二度目になるギルド本部へと向かった。
 大きな建物の中に入り、受付の前でもう一度戦利品を並べる。

 俺が丁寧に並べていると、受付の人の表情が変わった。
 20階より下で出た、握り拳くらいの魔石が山のようにある。
 魔石の山とは別に、素材も隣に並べていった

 そして最後に25階で出た銀塊をテーブルの上に丁寧に置いた。

「えーと、これは冬の間に出したものですか」

「ええ、そうです」

「すみませんが、ちょっと買い取り価格のわかりかねる物がありますので」

 まさか買い取ってもらえないのかと、俺はここ一ヶ月ばかりの努力を振り返って青くなる。

「ですから、わかりそうなものを呼んで参ります」

 そう言って、受付の人は奥に消えていった。
 ひとまず買い取ってもらえないという事はないようなので安心する。
 しばらくして、身なりのいい年配の男を連れて受付の人が戻ってきた。

「これらは、二人でお出しになったものですか?」

「ええ、そうです」

 冒険者カードを持っているのは俺とアメリアだけだ。
 だからクロエについて聞かれたら精霊ということにする。
 年配の男はどうも困ったような顔をしているだけで要領を得ない。

 さっきから建物内の人が、こちらに注目しているのでなんとなく居心地が悪い。
 早く終わらないかなと思っていたら、年配の男がこんなことを言った。

「ちょっと実力の方を試させてもらってもいいですかね。疑うわけではないのですが、あまりにも珍しいことなので」

 出たものを買い取ってもらうだけなのに、どうして実力を試す必要があるのだろう。
 しかし俺が返事をする前に、目の前の男は話を進めてしまう。

「バリー! バリー!」

 年配の男に名前を呼ばれて出てきたのは壮年の男だ。
 背中に大きな両手剣を背負っている。

「ちょっと、この方の力試しをしてくれないか」

「あいよ」

 その男はいきなり剣を抜くと俺向かって振り下ろしてきた。
 年配の男が、何もこんなところでなどと呟いていたがお構いなしだった。
 俺はその剣を受けるとか考えられずに、腰の刀を抜き放った。

 つい、いつもの癖で発動してしまったクラウソナスは、振り下ろされた剣を根元から斬り飛ばす。
 同じく、いつもの癖で発動してしまっていたレイスファングが天井を吹き飛ばした。
 一階と二階をつなぐ大きな穴が天井に開いた。

 俺は呆気にとられながら、折れたオリハルコン製の剣と天井を交互に見やる。
 周りを見渡すと、みんなも呆気にとられながら天井の穴を見上げていた。

「おい、こりゃどうなってんだ」

 バリーと呼ばれた男は、柄だけになった剣を握りながらそう呟いた。
 俺もほうけている場合ではない。
 ここは自分の利を主張しなくてはいけない場面だ。

 俺は天井を見上げている年配の男に向き直った。

「いきなり何をするんですか。俺は絶対に弁償とかしませんよ」

「え、ええ。それはいいんですが……。わかりました。それではダグをお預かりします。買い取りとランクをお伝えしますので、もうしばらくお待ちください」

 俺はさらに注目を集めて、二階にいる人までが天井に開いた穴からこちらを見ていた。
 アメリアがやたらとおどおどしているので、せめて俺だけでもと背筋を伸ばした。
 しばらくして受付の人が戻ってくる。

 テーブルの上に置かれた1万シール金貨に思わず顔がにやけた。
 冒険者タグは星が10個になっている。
 それらを受け取って、俺たちは足早にギルドから出た。

「いくらになったの?」

「8万6千くらいだね。これなら家くらい買えるかもよ」

「すごいじゃない。何か食べましょうよ」

 リリーの提案で、俺たちは街の中心部に一番近い食堂に入った。
 そこで俺は久々に焼いたコロコロ鳥と一番高いスープを注文する。
 周りには数人の客がいるが、いかにも貴族といった風体で少し肩身が狭い。

 リリーはつまみ出されたりしないようにアメリアの膝の上に隠れている。
 そこで食事を済ませてから、俺たちは装備を売っている店に入った。
 中心部に近い、街で最も高級な店である。

 そこで高級なローブとオリハルコン製の装備を買った。
 ついでにマントや靴なども全て新調してしまう。
 クロエ用の剣とベルトも買った。

 しかしクロエは小さな革靴以外、装備はいらないと言って聞かない。
 俺もそれほど必要だとも思わないので、なるべく体を覆う範囲の少ない物を選んだ。
 いらなくなった物を売って、3万5000シールほどの出費だった。

 全てオリハルコンで揃えたので、これでも安く済んだ方だ。
 そのあとに不動産屋にも行ってみる。
 クロエが住みたいと言っていた白い石造りの家は小さい物で2万シール、大きな物は30万シール以上もした。

 小さい物では今と住み心地が変わりそうにないので、今回は見送るしかない。
 あとは細かい買い物をアメリアたちに好きにしてもらってから家に帰った。
 俺は特に欲しい物もないので、アメリアたちに選んでもらった普段着を買った。

「なんだか懐の中が温かいと、心まで温かくなるよね」

「そのような、さもしいことを言うでない。それにしてもしばらくは遊んで暮らせそうで何よりだ。妾はもう少し広いベッドが欲しい」

「確かにね。煉瓦造りの広そうな家でも買おうか。いくらなんでも手狭だよね。思うんだけど、家とかって魔法で簡単に作れちゃったりしないのかな」

「そんなの無理に決まってるわ。だけど私は今の家が好きよ。あのくらいの広さがあれば十分じゃない」

 そんなことを話しながら通りを歩いていたら、さっきギルドにいたバリーが息を切らして走ってきた。
 バリーが言うには、ギルド長から話があるから、至急、本部まで来て欲しいらしい。
 仕方なく、俺たちはギルド本部へと来た道を引き返す。

 そして三階にある上等な部屋に通された。
 ソファーの置かれた、いかにもギルド長の部屋といった風情である。
 そして、そこに置かれた机の前には、さっきの年配の男が座っていた。

 俺はてっきりギルド長などというから、皆んなを率いて戦うような厳ついのを想像していたが、どうやらただの事務職のようである。
 まさかこの人が冒険者を束ねるギルド長だったとは夢にも思わなかった。
 ギルド長は戻ってきてくれた労をねぎらいながら、俺たちにソファーを勧める。

「まずは挨拶させていただきます。私はこのギルドを束ねているデズモンドといいます。あなた方のような優秀な冒険者を、我がギルドから輩出できたことを誇りに思います」

 果たし、て今までにギルドが俺たちにしてくれたことなどあっただろうか。
 ただただ、出た物を買い取っていただけではないか。
 それで我がギルドから、などと言われても違和感しかない。

「最初に確認しておきたいのですが、今日お売りになった品々はどこで出た物なのでしょうか」

「う~ん、どこと言われましても」

 地下20階より下で出たなんて言っても大丈夫なのだろうか。
 そんなことを考えていたらデズモンドが口を挟む。

「もしかして、ゼニスを倒したのではありませんか」

「え、ええ、そうなんですよ」

「なんと! やはりそうでしたか。近頃はあれほどの大きさの魔石は見たことはありません。そうではないかと思ったのですよ。では他の見たことのない素材もそこで?」

「ええ、そうです」

 さすがギルド長だけあって、迷宮の最下層は地下20階ではないことを知っていたらしい。
 何か言い伝えでも残っていたのだろうか。
 デズモンドはしばらく思案した後に、わかりましたと厳かに頷いた。

「つきましては、お二方にお城勤めをする希望などはございませんでしょうか」

 やはりそういう話題だったかと、俺は居住まいを正した。
 ランクが上がってしまえば避けては通れない話題だろうとは思っていた。
 悪くはない話なのだが、ブランドンを刺激してしまうのが問題だった。

「アメリアはどうしたい?」

「カエデにまかせるわ。一緒にいられるなら何でもいいわよ。カエデはどうしたいの」

「そうだな、うーん……」

「兵士になれば貴族になる道も開かれます。お二人にとって決して悪くない話だと思われますが」

「一つお伺いしたいのですが、兵士というのは枢密院派ですよね」

「ええ、そうなっております。ですが最近になって参謀枠というのができまして、それを貴族院派の文官がつとめるようになり、複雑な様相になっております。ですが、その文官も枢密院派と言っても問題ないでしょう。ですから貴方がたが兵士になれば枢密院派の恩恵が受けられるものと思われます」

 クロエにも言われたが、今更ブランドンぐらいが脅威になるとは思えない。
 そしてブランドンと事を構えるなら、枢密院派に属しておいて損はないだろう。
 いつまでも警戒し続けないといけないというのも息苦しい。

 俺はそれだけ考えて、この話を受けることにした。
 いい加減、ブランドンとのこともはっきりさせなければならない。
 俺はよろしくお願いしますとだけ言った。

「それでしたら、明日もう一度この部屋に来てください。そのときには登城の日時などもお伝えできるでしょう」

 一体これからどうなるのかはわからないが、流れに身を任せるしかないだろう。
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