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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第56話 ゼニスゴーレム

 午後からは迷宮に向かった。
 早速、新しい魔法をあの怪物に試してみるためだ。
 そしてほどなくゼニスゴーレムを見つけ出した。

 俺はルシファと口の中で呟いて、その魔法を発動させる。
 直径が2メートルほどもある炎の玉が現れた。
 かなりの重量があるので、浮かべておくだけでも相当な魔力消費だ。

 俺はそれをゼニスゴーレムに向かって飛ばした。
 避けようともせずに、ゼニスゴーレムはその火球を正面から受け止める。
 火球が敵の体に触れた途端、とてつもない熱量が発生した。

 30メートル以上離れているのに皮膚の焦げる感触がある。
 岩陰から見ていると、ゼニスゴーレムの回復力と火球の持つ熱量が綱引きを始めた。
 溶けては戻りを繰り返しながら、次第にその回復力は衰えていった。

 そして岩の体は燃え尽きて、真っ赤な溶岩だけがその場に残される。
 俺はアメリアにフォーンフロストで周囲の熱を吸い取ってくれるように頼んだ。
 そうでもしなければ、とても近寄れそうにないほど熱かったのだ。

 そもそも30メートルも離れていたのに、俺以外では岩から顔を出すことすら出来なかった。
 周囲の空気には岩が溶けることで発生したガスのようなものが漂っている。
 それを風の魔法で動かしてやっと近づけるようになった。

 ゼニスゴーレムの居たところには、心臓のように鼓動する黒い塊が転がっていた。
 それが周囲の岩を少しずつ取り込んでいるように見える。

「これが魔物の落とした素材なのかな」

「そうではない。すでに回復が始まっておるのだ」

「なんだ、せっかく倒したのに何も落とさないのか。これはどうしたらいいんだ」

「水にでも入れておけばゴーレムの姿に戻ることはないだろうが、危ないから放っておくしかない。しかしこれは人間が作ったもののようだの」

「何のために?」

「昔の人が、ドラゴンを倒すためにでも作ったのだろう。それがこのような場所にあるということは、きっとこの下に行かせたくない何かがあったのだ。どこかに下の階への階段でも出てきてたりしないかのう」

 言われて、俺たちは周りを探してみる。
 それほど探すこともなく、俺たちは下の階に続く階段を見つけた。

「どういうこと? 今まではなかったはずよね?」

「降りてみればわかる」

 そう言ってクロエは無造作に階段を降り始めた。
 俺たちもそれに続く。
 その階段は、この迷宮にこれまであったものと変わらない。

 この階段も昔の人が魔法か何かで作ったのだろうか。
 しばらく降りていくと踊り場のような場所があって、そこの壁になにやら書かれている。

「なんて書いてあるか読めるかな?」

「わからないわ。この国の言葉じゃないみたい」

「これは昔の言葉だ。こう書いてある。これより先は大変危険につき、対魔兵器により道をふさぐ。対魔兵器を倒したもののみ先に進む資格あり。ただし対魔兵器を取り除くことなかれ」

「つまり上のあいつは回復するまで放っておけってことか?」

「そのようだ。放っておけば、あれは元通りになるのだろう」

「強い割に攻撃力がないからおかしいと思ったんだ。門番にするために置いてあったのか。あれなら倒せない奴も死んだりしないもんな」

「遙か昔には、このような所へ来ることが出来る者も居たのだな。その者が警告するほど、この先の魔物は強いと見える。危険もあるようだぞ」

「まあ、今の俺たちならどうってことないって」

 俺は軽い気持ちで下の階に降り立った。
 そして俺のエリアセンスに最初に引っかかったのは人形の魔物だった。
 最初は鎧を着ているような形に、人でもいるのかと思っていたらバルタン星人のような魔物が現れる。

 片方の腕にだけ、細長い2本の爪のようなものが付いていた。
 シルエットだけ見れば抜き身の剣を持った戦士に見える。
 敵は出会い頭に放ったアメリアのロアフレイムをかわしてこちらに向かってきた。

 俺は飛び出してそいつと斬り結ぶ。
 大した力はない。
 そう思って押し切ろうとしたら、込めた力がいなされてしまった。

 俺は踏鞴を踏んで前に転がりそうになる。
 それを押さえて、振り向きながら横薙ぎに刀を払った。
 俺が全力で振るったクラウソナスの一撃に、相手は胴から上が宙を舞った。

 地面に転がって、これまでの魔物と同じように塵へと帰る。
 大して強いわけではない。
 だけどこれまでの魔物とは違った手強さがあるように感じた。

「どうやら、こいつは知恵が働くようだの。そうなると少し厄介だぞ。ここに居る魔物というのは、別のところに本体がある、いわば影のようなものだ。だからこやつらは、少しずつながらも学習をする。あまり手の内を見せすぎれば、裏をかいてこようとすることもあるだろう。あまり甘くないない方がよい」

 なるほど。
 やっと俺の千鳥足が役に立つときが来たということか。
 知恵があるならそれを利用して戦えばいい。

 次に出た一体は、アメリアのキネスオーブの爆発によって足に深手を負わせた。
 この魔法なら威力は小さくとも、よけることは出来ない。
 そしたら相手は鋭い氷のかけらをいくつもこちらに飛ばしてきた。

 しかし、その攻撃は俺の体に触れた所で消えてなくなる。
 後ろから悲鳴が上がったので振り返ると、アメリアの盾に穴が開いていた。
 バンシーアークのおかげでアメリアに怪我はないが、これがもし魔力で作り出された氷でなかったら怪我くらいしていただろう。

 俺は飛び込んで距離を詰め、抜きざまに敵の体を両断する。
 灰の中にかなり大きな魔石と透明な結晶のようなものが残った。

「やっぱりこの階は危険なのかな。そのうち石でも飛ばしてきたらやばいよ。ミスリルの盾に穴が開くって相当だぜ」

「こちらの魔法の性質を見抜くほどの知能はないから安心するがよい。それに後ろが心配なら妾にまかせておけ。アメリア、その剣は妾が持ってもよいか」

「いいわ」

 アメリアに渡された剣のベルトをクロエは腰に巻き付けた。
 柔らかい生地のワンピースに、太いベルトがたいそう不釣り合いだった。
 だけどクロエが後ろを見ていてくれるなら心強い。

 俺は次の敵を探して歩き始めた。
 3体くらいまでならどうにかなるが、それ以上となったらクロエの助けが必要だった。
 出会い頭の魔法はかなりの確率でよけられてしまう。

 それでも大した脅威ではなかった。
 今まで誰にも倒されなかったせいで、こいつらは落とすものがとにかく大きい。
 金に困っていた俺にはとにかくありがたい敵だった。

 訓練の相手としても申し分のない相手である。
 だけど迷宮の地下21階で訓練をする必要が、果たしてあるのかと言うことが問題だ。
 春になって、ここで出た魔石を売れば相当な額になるだろう。

 俺たちは夜遅くまで粘ってから家に帰った。


 家に帰って風呂を沸かして、アメリアも一緒に入らないと誘ったら、ものすごく怖い顔をされてしまったのでクロエと入る。
 クロエも最近になってだいぶ大人びてきた。
 その身体がまぶしいくらいだ。

「ほれ、前を洗うぞ」

「またそれなのか」

「あの癇癪娘の前でするわけにはいかんし、しばらくはこれで我慢するがよい」

「やっぱりそうなるのか」

「それが嫌なら、さっさと小娘をその気にさせることだの」

 風呂から出たら夕食を食べて、部屋でごろごろする。
 だけど今日からはアメリアとも一緒の部屋なので、ベッドの上にはアメリアもいた。
 なんだかそれがものすごく新鮮な光景に思える。

「またアメリアのお尻を眺めてるのね。今度は勘違いじゃないわよね」

 そう言えばこいつも部屋にいたことを思い出した。
 こいつの存在を忘れるとは迂闊にも程がある。

「そうだな」

 そう答えたら、アメリアが頬を引きつらせた。
 確かに、俺はアメリアのお尻を眺めていたので言い訳のしようもない。
 だけど結婚しているので、アメリアも怒っていいのか悩んでいるようだった。

「それでアメリアの気持ちの準備は出来た?」

「それがね、どうしても怖いのよ。ごめんなさい」

 ごめんなさいと言われても困ってしまう。
 それは、しばらくお預けと言うことだろうか。
 俺は焦らせてもかわいそうなので、それ以上何も言わないことにした。

 しばらく話しているといい時間になったので、俺はそろそろ寝ようと提案した。
 天井に張り付けていた光源の魔法を弱めて、布団の中に潜り込む。
 ストーブの熱が入ってくるように部屋の扉は開けっ放しにした。

 夜間の薪くべは、夜に強いリリーが担当することになっている。

「ねえ、部屋を一緒にするのはまだ早かったんじゃないかしら。私、カエデの隣じゃ緊張して眠れないわ」

「何を言うておる。夫婦が一緒の部屋に寝るのは当たり前ではないか」

 俺に引っ付きながら、クロエがそんなことを偉そうに言う。
 そしたらアメリアがおずおずと俺の隣に入ってきた。
 そして布団の中でアメリアも俺にしがみつく。

 その状態で寝て初めてわかったことだが、両隣から胸を押しつけられてお預けというのはかなりつらい。
 そして、挟まれて寝ていると寝返りが打てなくて、つらいなんてものじゃない。
 さらには枕元で寝ているリリーのいびきが結構うるさい。

 これは慣れるまで時間がかかりそうだとため息が漏れた。
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