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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第55話 神様

「だから、それで動かすと棒の先から──」

 高級な宿の一室では、リリーによる性教育が続いていた。
 そう言えば初めてキスするときからアメリアの様子はおかしかったのだ。
 まさか、それで子供が出来ると思っているとは予想できなかった。

「あんなに大きなの無理よ……」

「そんなことないわよ。貴方のお母さんも入れられるのをとても喜んでいたわ。アメリアもそのうち自分から求めるようになるわよ」

「そ、そんな話聞きたくない!」

 俺はクロエを抱きかかえて横になった。
 さっきまで死にそうなほど心臓の鼓動がうるさかったから、こうなってちょっと安心感もある。
 リリーは自分の責任だと感じたのか一生懸命に教えていた。

「これは、しばらくお預けになりそうだの。でも案ずる必要はない。妾がおる」

「そんなの駄目よ」

 アメリアが急にこちらを振り向いた。
 暗い部屋で、息がかかるくらいの距離にアメリアの存在を感じる。

「ならば、妾を先にしてくれたなら、究極の魔法を教えてやろう。それでどうだ」

「……考えさせて」

「よそ見なんかしないで、ちゃんと話を聞かなきゃ駄目じゃない。貴方のために教えてあげてるのよ」

 アメリアはリリーに怒られて、また顔をあっちに向けた。
 高級な宿だけあって、ベッドが恐ろしく柔らかい。
 俺はクロエを抱えて反対側に寝返りを打った。

 そして布団をかぶってクロエに話しかける。

「やっぱりそんな魔法を知っていたんだな」

「……そうだ。愛想が尽きたか」

「そんなことはないけどさ、そろそろ正体を教えてくれてもいいんじゃないか。もし正体を知られることで嫌われるとか考えてるなら、その心配はないぞ」

「それは本当か」

 そんなことを話していたら布団がはがされた。

「二人きりで何の相談? 私たちはこれで帰ることにしたわよ」

「どうして? せっかく高い宿なんだからもったいないよ」

「アメリアがカエデの前で、こんな話をするのが嫌だってうるさいのよ。仕方がないから私も帰るわ」

「それでは妾が先にカエデに抱かれるということでいいのかの」

「……いいわ。宿のお金がもったいないものね」

 アメリアは元気のない感じでそう言った。
 それでゲートを開いて、リリーと一緒に帰ってしまった。
 俺とクロエだけが広い部屋に取り残される。

「さっきの続きだけど、どうなんだよ」

「お主がそこまで言うのなら、しょうがないの」

 クロエは壁に光をともすと、ベッドの上に座った。
 その顔は始めて見るほど思い詰めたものだった。

「妾は数千年の昔より、この地に存在する大地の精霊なのだ。遙か昔より、多くの者が大地に感謝し、大地に祈りを捧げてきた。その想いが妾を生み出した。そして、この身体も妾が作ったものだ」

「作ったって、人間の身体を作ったのか」

「数え切れないほどの命を生み出し育んできた大地の精霊にとって、そのくらいのことは造作もない。長いこと精霊として存在していたが、一度くらいは人間の女として生きてみたくなっての。それで人の身体をつくり、人として生きることにしたのだ。妾はずっと結婚と言うものに憧れておった」

「どうしてその相手が俺なんだ」

「この世界におる人間など、全てはこの大地から生まれ出でた、いわば子供のようなものではないか。お主だけはそうではない。それに近くにいれば惚れるには十分過ぎるほどのいい男だからの」

「だけどそこまでの存在だと、いなくなって困る人も出てくるんじゃないか」

「妾の目の届く範囲などたかが知れておる」

「その身体が死んだらお前はどうなるんだ」

「わからん。死んで無になるかもしれぬし、もしかしたら精霊に戻るのかもしれぬ。今まで全てを教えられなかったのは許してほしい。教えたら、もう人間としては見てもらえなくなるかと恐れたのだ。それに力を出し惜しんだのは、用がなくなって一緒にいる理由がなくなってしまうのが怖かった」

 まさか本当に偉大な精霊だったとは思いもしなかった。
 いや、もう精霊とか妖精とか呼んでいいものでもない。
 本当に神様のようなものだ。

 それが俺なんかと一緒になるために、永遠の命を捨ててやってきたのだと言っている。
 それが本当なら、俺が日銭を稼ぐために連れ回すには、いくらなんでも偉大すぎる。

「妾が契約のときに言った言葉を覚えておるか」

 俺は最近になってそれを思い出していた。
 あの時、クロエは俺の幸せために力を尽くすから、そばに置いておくれと言ったのだ。
 そう言えば召喚のされ方もおかしかった。

 あれは呼び出したんじゃなくて、あそこでクロエが生まれたのだ。

「最近になって思い出したんだ。変な契約を迫ったわけじゃなかったんだな」

「そんなことするはずなかろう。それで、そばに置いてくれるのか」

「精霊としてじゃなく、妻としてでよければな」

 ここまでしてくれたクロエを、俺は錯乱していると思っていた。
 本当に申し訳なく思う。
 クロエは笑顔を見せて言った。

「ならば、そろそろ始めよう。さあ、好きにするがよい」

 クロエが着ていた寝間着を脱ぎ捨てた。
 だけどここに来て、まだアメリアのことが気にかかる。
 本当にクロエとしてしまっていいのだろうか。

「小娘のことを気にしておるのか。女は男のように、抱いたのどうしたのと身体のことで嫉妬したりはせん。何も気にする必要などない」

「本当かよ」

「本当だ」

 こうして俺はクロエと一夜を過ごすことになった。
 クロエはたいそう痛がっていた。
 それで俺は朝になって、聞いたのだ。

「お前、もしかして俺が初めてじゃ、アメリアが痛がると思って練習台になろうとしてないか?」

「どうしてそう思う」

「そんな気がしただけだ」

「そういう面がなかったとは言わないが、好きな男のために痛い思いをするくらいどうということはない」

「そうか」

 俺たちは昼近くになるまで、その部屋でだらだらと過ごした。
 いつかはこのくらい過ごしやすい家に住みたいものだ。
 窓から吹き込む気持のいい風に吹かれながら、クロエを腕の中に抱えつつそんなことを考えた。


 家に帰ると、アメリアとリリーがまだ寝ている。
 昨日は夜遅くまでリリーが頑張ったのだろう。
 心なしかアメリアの寝顔がやつれていた。

 俺はアメリアたちが起き出すのを待ってから、部屋の境となっている壁を取り外した。
 これでこの家は台所と寝室が一つずつあるだけになった。
 寝室は俺とアメリアのベッドをつなげたものが半分くらいのスペースを占領している。

 それでも一部屋分くらいの空いた空間が出来たので、椅子くらいは置けるようになった。
 俺がそれをしている間、アメリアは陰でこそこそとクロエにどのくらい痛かったのかなどを聞いている。
 俺はそれを見ないふりで、壁を薪にする作業に専念していた。

 その作業が終わって、クロエは俺とアメリアに新しい魔法を教えてくれた。
 ルシファフレアという、これまた悪魔から力を借りる魔法だった。
 悪魔と言っても人間に危害を加えたりしない、気のいい悪魔だから気にするなとクロエは言った。

 だけどアメリアはその魔法を使えるようにはならなかった。
 個体と契約する魔法だから相性というものがあるらしい。
 俺の方が心が邪悪だから契約できたのだろうか。

 アメリアが生真面目すぎて悪魔と契約できないのだと思いたい。

「国を一つ滅ぼしかねない魔法だから、簡単な気持ちで使ってはならんぞ」

「マジかよ」

「カエデばっかりずるいわ。贔屓してるんでしょう」

「アメリアは子供ね」

 と、遠巻きに見ていたリリーがアメリアの心をえぐる。
 リリーは俺以外に対しても手加減を知らない。

「そうかしら、一番子供っぽいのはカエデだと思うわ」

「俺は昨日、大人の階段を上ったのさ」

 俺はそんなふざけたことを言ってみた。
 そしたらアメリアは目の端をつり上げて怒り出す。

「それなら私はもうしばらく子供のままでいます」

 そんなことを言い出したので、俺は必死で取り繕った。
 しかしアメリアは態度に余裕があってむかつくなどと言って許してはくれなかった。
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