第53話 地下20階
3日ほど迷宮の地下18階で過ごした。
それだけでアメリアもオーラの使い方にだいぶ慣れ、さらに下を目指すことにした。
アメリアは魔法の瞬間的な発動はまだ出来ない。
俺もクロエも必死に教えてはいるものの、どうしても真面目すぎるのが徒となっている。
だからまだ訓練を切り上げるには早いような気もするが、俺はもう素手でも倒せるオームの相手には飽きていた。
地下19階ではサラマンダーという炎の魔法を使うトカゲが出たが、魔法の効かない俺たちにとっては害虫駆除のような話で、あまりに退屈だから次の階に降りることになった。
この迷宮最後の階層である地下20階にはオームとサラマンダーすらいない。
何もいないのでひたすら探し回っていると、見上げるほど大きなゴーレムが出た。
これが噂に聞くゼニスゴーレムかと物陰に隠れながら様子をうかがう。
この迷宮の主と言われている魔物で、まだ倒した者がいるという話すらない。
こいつの発している黒い霧は触れただけでもダメージがある。
しかし動きは遅いので逃げることには問題がない。
「さて、あれを倒してみようか」
「試してみるのはいいけど、無理だと思うわ。やめといた方がよくないかしら」
攻撃力はそれほど高くなくて、しかも逃げやすい魔物なので挑戦したものは数多い。
それでも倒したものがいないというほどの魔物だ。
この階にたどり着いた全ての冒険者を返り討ちにしてきたという逸話もある。
「あら、私は今のカエデならいけるかもしれないと思うわ。アメリアは心配しすぎなのよ。カエデのことになるといつもそう」
「それ初耳だわ」
「なに? また私のことを二人でからかうの?」
「クロエはどう思う?」
「そうだのう。これはちょっとばかり無理があるやもしれん」
ここに来て俺とリリーの賛成2,クロエとアメリアの反対2と初めて意見が拮抗した。
だけどせっかくここまで来て、ただで帰るというのもおもしろくない。
「試してみるのも反対なのか?」
「試してみるのはいいだろう」
それならと、俺はアメリアの剣をクロエに持たせてみた。
魔法の補助よりもこの方が十分な戦力になる。
まずは俺とアメリアで魔法の先制攻撃をは放つことにした。
俺はアメリアの魔法発動に合わせて両手からロアフレイムを2発同時に放った。
3筋の龍がゼニスゴーレムに当たったところで、俺とクロエは岩陰から飛び出す。
俺たちはほぼ同時にゼニスゴーレムの首に向かって飛び上がる。
俺のクラウソナスとクロエのアーリマンブレードが交差するように敵に当たった。
俺の方が少し早かったというくらいなのに、クロエの攻撃が当たる前にはゼニスゴーレムの傷が塞がっているのを俺は見た。
「え?」
俺は振り返って今だに変化のない敵の身体を仰ぎ見る。
敵の巨体が振り返って、その太い腕を振り下ろしてきたが、俺はその攻撃を歩いてかわした。
同時に黒い霧が発生してあたりを包みかけるが、俺の身体に触れたところでその霧は消えてなくなった。
俺はゼニスゴーレムに向き直って、刀を脇に構えた。
この構えにしたのは理由がある。
中段ではどうしても相手の出方をうかがう形になるし、移動しながらでは構えにくい。
下段では攻撃に力が入らない。
示現流の八双か脇構えが一番安定して戦える。
俺は脇構えから左上の方に振り上げるようにしてゴーレムの身体を切り上げた。
今度もまたしっかりと切り抜いた手応えがあるのに、振り返る頃には傷一つ残っていなかった。
クロエがゴーレムの足にオーラを貯めた蹴りを放つが、ゴーレムの足にはひびが入っただけですぐに元通りだ。
「なあ、これってさ」
「うむ」
「こいつの核かなんかを壊さないと駄目なんじゃないのか」
「そのようなものはないようだ。倒すなら、圧倒的な破壊の力で倒すより他にない」
俺はもう一度ロアフレイムを放ってみる。
当たった部分が熱で溶けて光沢を失うとほぼ同時に元通りになる。
どうにもなりそうにない。
これで駄目なら逃げるしかないと、俺は刀を八双に構え直して上に飛んだ。
レイスファングにクラウソナスを乗せて、刀と一緒にその力を振り下ろす。
ゼニスゴーレムの真上からそれを叩き込んだ。
俺の攻撃が敵を切り裂くのと同じくらいの早さで、岩で出来た敵の巨体は回復を始めていた。
おかげで俺の攻撃が切り落としたと思った腕さえ、一瞬宙に浮いた次の瞬間には元通りだ。
「これは……」
「逃げるしかないのう」
その言葉を皮切りにして俺たちは脱兎のごとく逃げ出した。
階段を踏み抜くような勢いで地下19階へと戻る。
敵の動きは遅いので、まったく追いかけてくるような気配はなかった。
「なんだよあれ。あんなのどうしようも無いじゃないか」
「今持ってる魔法ではどうにもならん。しばらくはここらで諦めるがよい」
「魔法さえあればあんなのが倒せるかね」
「それは倒せるだろう。そもそもこの迷宮は地下25階まであると聞いたことがある。あれに塞がれているだけに過ぎんのだ」
「それで、倒せる魔法もクロエは持ってるんでしょ。教えてくれないの?」
「どういうこと?」
俺の言葉にアメリアが意味がわからないというような顔をした。
俺は何となくクロエなら知っているような気がしたのだ。
「ふ~む、思い出せるよう努力してみよう」
それで昼ご飯にすることになった。
最近では一日動いても疲れないし、敵も弱いし、まるでピクニックのようだ。
アメリアとクロエが色々と手の込んだものを作ってくれるので昼ご飯もおいしい。
「アメリアのお茶は不味いから、妾の用意したものを飲むがいい」
「おっ、ありがと」
「ちょっと、そんなにくっついてたらカエデが食べにくいじゃない。サンドイッチは私が作ったものの方がおいしいはずよ。はい」
「ん……」
「お主も距離が近いぞ」
「だからさあ、どうしてそんなに張り合うんだよ。別にいいじゃないかそんなの。それに二人ともお金を掛けすぎなんだよ。昨日なんか買いたたかれて酷かったんだ。それなのにまた新しいお茶なんか買ってさ。俺は闇市で街一番のカモって噂されてるんだぜ」
「そんなことより口の周りに付いてしまっておる」
俺の口の周りに付いたパンの粉をクロエが舐めた。
ただ舐めると言うよりはキスされた感じだ。
「私とはキスしてくれないの?」
「そんなに口づけがしたいのなら、妾が代わりにしてやろう。間接的には同じことだ」
そう言ってクロエがアメリアにキスしようとして、アメリアの手がそれを防ぐ。
なんだか見てはいけないようなものを見ているような気がした。
「カエデったら目を輝かせてるわ」
その一言で注目が俺に集まる。
リリーは横になりながら優雅に俺のことを見ていた。
「どうして二人ともやめるの。カエデは二人がキスするのを見たがってるわ」
「……変態だわ」
「あきれたものよ」
「な、なんだよ、リリーの勘違いだって。そんなわけないじゃん。いい加減、二人とも仲良くしなよ。子供じゃないんだろ」
どうしてもリリーだけは俺の弱点だ。
俺は二人から目をそらして、もくもくとサンドイッチを食べた。
どうも男一人だと立場が弱いような気がする。
仲良くしていれば絵になるというのに、二人には仲良くする気が無い。
昼ご飯を食べてからちょっと昼寝して、俺たちは探索に戻った。
もっとも寝ていたのは俺だけだった。
そして午後はひたすら地下19階を回って終わった。
それから家に帰って夕食を食べて風呂に入った。
そして日課となっているアメリアの部屋への訪問の時間だ。
いつも通り適当にアメリアの部屋のドアを開けたら着替えの最中だった。
目の前のアメリアは下着姿である。
そのようなものはさっさと仕舞うがよい、とかなんとか言っているクロエを残して俺は扉を閉めた。
また怒られるのかな、と重たい気持ちになる。
だけどアメリアの肌が頭に焼き付いて離れない。
しばらくしたら、アメリアがいいわよと言った。
俺がおそるおそる扉を開けると、ベッドの上にクロエと一緒に座っていたアメリアは何も言わなかった。
「いつもの癇癪が聞こえてこんのう」
「癇癪なんか起こしたことはありません。そ、それに、カエデになら見られてもいいのよ。だって結婚するんだもの」
ずいぶんかわいいことを言うようになったものだ。
まるで別人のようである。
「無理するなって、顔が真っ赤だよ」
そしたら俺の言葉にアメリアが目を細めた。
「かわいくないこと言うのね」
「かわいくないって、俺の方が年上だよ」
「そう言えば、そういう設定だったわね」
「うわ。超、傷ついた」
「だけど、子供っぽいところも、ちょっと間の抜けてるところも私は好きなのよ」
「うわ。そんな風に思ってたんだ。心が痛いよ」
「そういう大げさなところも嫌いじゃないわ」
「…………」
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