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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第46話 クラウソナス

 二日目の監視業務のあとも宴会になった。
 街の宿屋はすべて埋まっているので、この人たちはどうやら外で寝起きしているようだ。
 この季節にそれはさぞかし大変なことだろう。

 俺はもう懲りたので酒は貰わずに魚を焼いたものを貰って食べた。
 腹の中に山菜を入れて焼いたもので、なかなかの味だ。
 それを食べ終えたら、この日はアメリアと早めに退散した。

 川に水浴びに行くというので、遠慮したのだ。
 こんな時期に川に入るなんてごめんである。
 家に帰って風呂に入った。

「カエデよ。提案がある」

「……なんだ? お前に改まった態度取られると怖いな」

「お主が使っている剣の切れ味をよくする魔法があるな。それよりも遙かに優れた魔法を妾は知っておる。知りたいか」

「当たり前だろ。教えてくれ」

「ならば妾に口づけをせよ」

 また人間ごっこかと俺は呆れた。
 ませた子供のようなことを言い出したな。
 俺は何を言い出すんだと茶化そうとしたが、その目は真剣で、この機会を逃すと魔法は教えてもらえないかもしれない気がした。

 もちろん嫌ではない。
 というか、これまでもクロエの食べ残しを食べたりしていたから今更である。
 俺は誰かに見られてないか確認するためにエリアセンスを展開した。

 家の中に人はいない。
 きっと風呂に入っているのだろう。
 魔法に釣られてそんなことをしていいのかと、一瞬迷いが生じた。

 けれど最終的には凄い魔法を覚えてアメリアの前でいい格好したいという思いが勝つ。

「アメリアには言うなよ」

「承知した」

 キスなんて初めてだから上手く出来る自信はないが、要は口をつければいいのだ。
 俺はクロエの唇に自分の唇を重ねた。
 冷たくて柔らかくて味のない変な感触がする。

「これで満足か?」

「……よろしい」

 人前で平気で裸になれる癖に、クロエは頬を赤くしている。
 そんな人並みの反応も出来るのかと驚いた。
 その反応をかわいいなと思ってしまい、血迷うな、こいつは村娘の死体なんだぞと自分に言い聞かせる。

「それで何て魔法を教えてくれるんだ」

「クラウソナス。いや、アーリマンブレードを教えよう。破壊の悪魔が持つ魔剣だ」

「いや……、悪魔はちょっと……」

「気にするでない。何かを破壊するために使うのであれば快くその力を貸してくれる」

「そんな危ない奴がこの世に存在しているのかよ……」

「今は地上にはおらん。心配せずとも力をなくして何も出来ずにおる。あと数万年は地上に出てくることも出来まい。しかし、そやつに興味を持ってはならんぞ。お主が興味を持てば、あちらも同じだけお主に興味を持つであろうからな。いいな」

「ああ。だけど、その前に口にしたクラウソナスってのはなんだよ。俺はそっちの方がいいな」

 俺がカマをかけると、クロエがしまったという顔になる。
 しばらく目をつぶってから、クロエが言った。

「あまり強い力に頼るのはよくない。まずはアーリマンブレードで我慢せよ」

「そんなこと言わずに教えてくれよ。どうしてそんな小出しにするんだよ。偉大な精霊とか口では言ってるけど、実はけっこうケチだよな」

「もうよい。そこまで言うなら教えてやる。それでは外に行くぞ」

 俺はクロエに連れ出され、森まで歩かされた。
 そこまでの道すがらに魔法のためのイメージを教わる。
 クロエの魔法の説明はとてもわかりやすく、具体的だ。

 森について片方に剣を持ち、もう片方の手でクロエと手を繋いだ。
 不屈の精神を糧に詠唱を使って呼びかける。
 俺は剣の名前を口にした。

 俺の持っていた剣は白く輝きだして、その光を刀身に纏わせる。
 試しにそこら辺にある木を斬ろうとすると、その刃が木に弾かれた。
 木には傷一つない。

「ほれみろ。この剣は意思を持っておるから、そんな無害なものを斬ることは出来ぬ。別に妾はケチではないのだ。ただ使いやすい方の魔法を勧めたまでよ」

 剣を貸してみよというので、俺は持っていた剣をクロエに渡す。
 クロエがアーリマンと悪魔の名を口にすると、その剣から黒い霧が幾筋も流れ出した。
 超絶格好いいなと憧れる俺の前で、クロエはその剣で木をあっさりと切り倒してみせる。

 そのまま細かく切って薪を一山作ってしまった。
 その切れ味はまるで豆腐でも切るみたいに軽やかだ。
 俺が作り出そうとしていたマテリアルレイドそのものといった感じだ。

 失敗したなという顔をしていたら、クロエに言われた。

「もうこっちは教えてやらん。妾をケチ呼ばわりした罰だ」

「どうしてそんなこと言うんだよ。教えてくれよ。キスくらい、いくらでもしてやるぞ。ほら、ほら」

「うぐっ。やめよ。そんなことで妾の気は変わらぬ」

 ああこれは余計なことを言ったばかりにハズレを引いた。
 まさか当たりだと思った方が気まぐれで地味な魔法だったとは、つまらない貧乏くじを引いてしまった。
 大体、オリハルコンで出来た剣というのは白銀色なのだ。

 この魔法剣を使ってもオリハルコン製なんですよと見栄を張るくらいの効果しかない。
 ちなみにミスリルは青銀、鉄は灰銀といった感じの色である。

「ねえねえ、どうしたら教えてくれるの?」

「しつこい」

 まてよ。
 地の底に眠る破壊の悪魔から力を借りればよいのだ。
 たぶん破壊衝動を持ちながら力を要求すれば貸してくれるんじゃないのか。

「言っておくが、生半可な知識で力を借りようとすると、他の変なものを呼び寄せるかもしれぬぞ」

 俺の悪巧みはあっさり見破られて、クロエにそんなことを言われてしまった。
 脅しだか本当だかわからないが、怖いから従っておこう。

「他に何かいい魔法はないかな。正直、ファイアーボールじゃちょっと威力が足りないんだよね」

「ふむ、ロアフレイムなんてどうだろうの。お主の使う魔法に似ておるが威力は桁違いだ。熱を伝える力の強い地獄の業火を呼び出す魔法なのだ。何と交換で教えてやろうか」

「ただで教えてくれよ。精霊が契約者に商売人みたいなこと言い出すなんて聞いたことないぜ」

「まあよかろう。それでは夜も遅くなってきたから頭を出してみよ」

 俺が差し出した頭にクロエが触れて、魔法のイメージが流れてきた。
 やはりクロエはただ者ではない。
 手を触れただけで魔法を伝えられるその力からしてただ事ではなかった。

 しかし、そのことについては聞かないでおこう。
 隠したがっているのだから無理に喋らせてもかわいそうだ。
 何かしらの事情があるんだろう。

 俺は教わったばかりのロアフレイムを放ってみた。
 何もない地面に向けて放つと、炎の龍が飛び出して地面に衝突する。
 そこに生えていた雑草が蒸発して、地面が真っ赤に染まった。

 俺の趣味に合いそうな魔法をわざと選んでいるのだろうか。
 しかも龍の動きは多少こちらの意思で動かすことまで出来る。
 威力は上級魔法並みにありそうだ。

 俺はあとでアメリアにも教えてやろうと考えながら家に帰った。
 家に帰って軽く食事を取ってからこの日は寝た。


 次の日も監視業務を請け負った。
 二人で一日やって250シールほどもらえるので稼ぎとしては悪くない。
 特に危険もないし体も楽なのでいい。

 俺はクロエを背負いながらその日の業務をこなした。
 アメリアもだいぶ村人たちになれてきて、女の人となら普通に話しているところ見るようになった。
 それにつれて村人たちと一緒にいても笑顔が見られるようになった。

 最初のうちは顔を強ばらせていて心配だったのだ。
 俺の特訓の方は今だ変わらずに千鳥足のままだった。
 どうも上手くなっているという実感がない。

「なあ、これは練習方法が悪いんじゃないのか。一日中やってるけどまったく上達してる気がしないぜ。それに動きに緩急を付けるだけじゃ駄目なんだろ」

「これは基本的な足運びの練習なのだ。基本というのは簡単という意味ではない。これをしっかりと身体に覚えさせたあとでなければ、次の練習には移れんのだ。それにもっと練習に身を入れよ。そんなことではいつまで経っても覚えられぬぞ」

 言われたとおりやってみるが、本気でやると体への負担は大きくかなり疲れる。
 それでも俺はクロエがうるさいので必死でやった。
 一日の探索が終わる頃には、クロエからまあまあマシになったとお褒めの言葉をいただいた。

 その後は宴会へと流れたが、一緒に監視業務をしているエルフの男がアメリアに話しかけているので、俺は面白くない。
 俺は宴会の輪でさびしくすすめられるがままに肉を食べていた。
 今日もまた野生動物の丸焼きが酒の肴である。

 今日のはこの前のよりもよほどうまかった。
 アメリアは肉には手をつけないで輪から外れたところでおとなしくしている。
 その隣ではまだエルフの男が何事か話しかけていた。

 俺がため息をつくと、クロエも俺の顔を見ながらため息を付いた。
 アメリアのことを気にしているのが気に入らないのだろう。
 俺は強い酒をちびちびと飲みながら今日は酔わないうちに帰ろうと画策していた。
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