第45話 農閑期
しばらくやっていると人となりもそれなりにわかってくる。
この集団はどこかの村から一緒に出て来た人たちだ。
全員知り合いだからサボったりする者もおらず、息も合っている。
団結力も高く、疲れの出た者は負担の少ないところに回して魔物の包囲狩りを続けていた。
その欠員の埋め合わせとして、いつの間にか俺とアメリアも、その中に入れられてしまった。
魔力があまり残っていないので、アメリアも剣で戦うことになる。
俺は自分の使っている軽くて使いやすい盾をアメリアに貸した。
俺には別に盾など必要ない。
いつの間にか俺は先生、先生と呼ばれるようになっていた。
精神的にも疲れてオーラすら使えなくなってきた俺は、しょうがなくクロエを負ぶって戦うことにする。
そうすればまだ少し戦えるようになる。
「先生、一体なんの趣味ですかいそれは。いくらなんでも、おぶるような歳にゃ見えないですよ」
「いや、子供じゃなくて精霊なんですよ。こうして戦った方が楽なんです」
「そりゃあまた……ずいぶんと難儀な精霊を見つけたものだね」
こうして村人にからかわれながら、俺は夜まで一番負担の大きいところで戦わされ続けた。
夜になるとギルドに行って換金をし、その後は空き地を見つけて大宴会が始まる。
ギルドもこの期間だけは夜遅くまで開いているようだった。
買い取りでギルドにある金がなくなるというのだから、よっぽどの稼ぎ時なのだろう。
俺は疲れた体で酒など飲みたくなかったが、村人から勧められて飲まざるを得ない。
村人が持っていた火がつきそうなほど強い酒に、飲み慣れない俺は早くも3杯目を注がれる手つきがおぼつかないほど酔ってしまった。
焚き火というよりはもはやキャンプファイヤーというレベルの火を囲んでの、どんちゃん騒ぎである。
酒の肴はどこから取ってきたのか、イノシシのようなものの丸焼きだ。
噛み応えのある、美味いともまずいとも言えない味の肉だった。
泥酔して視点も定まらなくなっても挨拶代わりで酒を注ごうとするので、俺は早々に馬鹿騒ぎの輪から離れた。
同じく泥酔しながら俺の腰にぶら下がっているクロエを引きずって、端の方で静かにしているアメリアのもとに寄る。
アメリアは酒を飲まずに寝てしまった子供の面倒を見ていた。
「アメリアひゃ~ん」
上手く声が出せずに蹴躓いて転がる俺を見てアメリアが笑った。
転んだまま地面を這いずってアメリアのもとまで行く。
そのまま図々しくもアメリアの膝の上に頭をのせた。
酔っているからこそ出来た芸当だ。
アメリアはそんな俺に何も言わなかった。
楽しそうに馬鹿騒ぎの方を見ている。
しばらくして俺はアメリアに揺り起こされた。
「寝るなら、ちゃんと家で寝なくちゃ駄目よ」
そんなことを言われながら、重たい身体をアメリアに無理矢理引き起こされる。
俺は酔いと疲れで、自分で立っているのも嫌だった。
回りには酔いつぶれて寝ている人が何人も転がっている。
酒に強い人たちはまだ飲み続けているようだった。
俺はアメリアが開いてくれたワープゲートをなんとかくぐって、アメリアに支えられながら自分のベッドにたどり着く。
俺は抱えていたクロエをベッドに放り出してから、その隣で横になった。
アメリアが毛布を掛けてくれたので、俺はそのまま眠りについた。
翌朝、起きると頭がガンガンする。
身体を起こすのもつらい。
なんとか起き上がって風呂釜に火を入れた。
熱いお湯でも浴びて二日酔いを覚ます必要がある。
朝ご飯も食べる気にならず、お湯が沸いたら風呂に入った。
熱いお湯が気持ちいいなと思っていたらクロエも入ってくる。
ひとりで勝手に入るでないと怒られてしまった。
こいつは二日酔いとは無縁で朝から元気がいい。
思わず正面から見てしまったが、クロエは本当にいい体をしている。
顔だってよく見れば本当に綺麗な顔をしている。
アメリアのようにかわいい感じではなく綺麗という顔立ちだ。
身体を洗ってもらい、新しい服に着替えて風呂を出た。
股間がこそばゆい。
少し気分がよくなったので、アメリアが用意してくれた朝食に手を付けた。
「今日はまだ行かないの?」
「二日酔いで頭が痛いんだよね。気持ちも悪いし。アメリアはもう疲れは残ってないの?」
「ちゃんと寝たから平気よ。それじゃ今日もギルドの依頼を受けましょう。昨日の人たちも私たちのこと気に入ってくれて、また今日もお願いしたいって言ってたわ」
俺は魔法や剣の練習なら依頼を受けながらでも出来るかと考えて、今日も監視業務を受けることにした。
それにしても昨日の酒はすごかった。
どうして数杯飲んだだけでこれほどまでやられるのかわからない。
俺はまだ具合のよくならない身体でギルドに行って受付を済ませた。
そして昨日の夜、宴会をしていた場所に行くと、村人が支度を済ませて待っていた。
俺はワープゲートを開いて村人を地下1階へと連れて行った。
しばらくすると受付で聞いていた通り、もう一組の村人たちがやってくる。
今日は他のグループと共同で、さらに中心地から離れたところでやることになっている。
新しくやってきたグループは、いつか迷宮内で一緒にやったエルフの男たちが率いていた。
前に見た時よりも連れている二人の装備が見違えるほどよくなっている。
あれから順調に迷宮探索を続けてきたのだろう。
もともと戦いに特化した竜人と中級者レベルのエルフがいたのだ。
ちゃんとした知識さえあれば迷宮内での稼ぎは大きい。
40人ほどに増えた村人たちと共に、俺たちは中心部から離れた場所を目指した。
そこではさらに魔物の密度が濃いはずだから、俺も気をつけなくてはならない。
俺はまた一番負担が大きそうな所へと駆り出される。
とは言っても、今日はマナが戻っているので一階程度ではなにも問題はない。
しかし、この方が覚えが早いと言われて、何故か今日もまたクロエを背負いながらやることになった。
俺はクロエに言われた、意識の死角から攻撃するための動きをやってみることにした。
「まだ酒が残ってるんですかい?」
すぐに村人からのツッコミが入る。
これが剣術の奥義とも知らずに千鳥足だと思っているようだ。
しかしまだ格好にもなっていないのでしまらない。
「こういう戦い方なんですよ」
俺はそう言うしかなかった。
子供を背負いながら千鳥足で戦っていたら誰だって心配になる。
昨日とは違って、村人もやたらと俺のこと心配してくる。
特に新しく合流したグループは、俺がクロエを背負いながら戦っているのが不思議に見えたらしい。
その人たちに昨日一緒だった村人が、あれは先生の精霊なんだ、ああいう風に戦う御方なのだと説明するもんだから恥ずかしいったらありゃしない。
別に普段からこんな不格好な戦い方をしているわけではない。
余裕があるから、この方が練習になるというだけだ。
しかし、どんなに魔物に囲まれても平気で戦ってみせると、何も言われなくなった。
というか練習のために俺が率先して倒しすぎてしまったくらいだ。
クロエを背負っているからオーラの方は上達が感じられるのだが、動きの方は千鳥足から変化がない。
なので午後はクロエに詳しいやり方を聞きながら練習することにした。
女の人が子供を背負うための紐を貸してくれたので、それでクロエを背負っている。
どうやら緩急を付けるような動きをステップとして覚えるのがいいらしい。
それでクロエが手拍子して、俺がそれに合わせて身体を動かすような練習に変わる。
はたから見たら頭のおかしい子供をあやしながら戦ってるように見えるだろうなと思えるものの、俺は上達のために恥を忍んで練習した。
アメリアも俺の隣で剣で戦っているが、オーラの使い方が上達したおかげで危なげなく戦っている。
その戦う姿が凜々しくて思わず惚れ直してしまった。
処理しきれないほどの敵が出れば、俺たちが魔法で処理するので特に躓くこともない。
ただ昼飯時にも酒を勧められたのは閉口した。
というか飲んでるおっさんがいるが大丈夫なのだろうか。
「あいつは酒好きでしょうがねえんだ。パンにまで酒をかけて食うからな。午後からは応援団にでも回しちまえばいい。心配あるめえ」
俺の隣で昼飯を食べていた厳ついおっさんがそんなことを言った。
このおっさんはやたらとごつい体つきをしている。
戦いの時も俺と同じく負担の大きいところを任されて平気な様子だった。
応援団というのは包囲から漏れた敵を倒す役目のことを言ってるのだろう。
彼らを見ていると村というのが共同体と言うよりは家族のようなものに見える。
うまいこと適材適所でやりくりしている。
その後もエルフの男たちと俺とアメリアと厳ついおっさんのグループを囮にして、それを取り囲むという狩りが続いた。
敵の数はやたらと多く、農閑期に入ってすぐはだいたいこんな感じになるそうだ。
何日かすると敵の数が安定してきて、冒険者による監視なしでも出来るようになる。
つまり俺とアメリアがこの階に足を踏み入れたのは相当タイミングが悪かったということだ。
この日は最大で100に届くような敵が現れたこともあった。
これには俺も本気で焦ってエルフの男にも魔法を使わせ、出会い頭で半数近くを削ってしのいだ。
これだけの人数がいればそのくらいの事態でも何とかなるのがすごい。
そんな感じで監視業務の二日目は過ぎていった。
俺もアメリアもだいぶ村人の中に打ち解けることが出来た。
村人たちは遠慮がなくていい。
こっちもそのくらいの方が気が楽だ。
アメリアが俺以外の人と楽しそうに話してるのも初めて見ることが出来た。
俺は少しずつ強くなっている実感が得られているので、こんな温い探索でも楽しい。
クロエからはまだまだ教わることが多い予感がしている。
本当に不思議な存在である。
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