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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第43話 世話

「どうした早く脱がぬか。何を恥ずかしがっておるの」

 夕食のあと、俺は風呂場で何とも言えない恥ずかしい事になっていた。
 こんな14かそこらの少女相手に下半身が反応してしまって脱げずにいる。
 いや、俺の身体も15かそこらなんだから、別におかしなことでもない、かもしれない。

 そんな葛藤をしていると、しびれを切らせたクロエに無理矢理脱がされた。
 俺は自分の大事なものを隠すようにして風呂場の椅子に座った。
 しかし隠しきれていなかったらしく、元気だのうなどと言われてしまう。

 俺はそれを誤魔化すために気になっていたことを聞いた。

「なあ、俺と契約した時にお前が言ってたのってどんな内容だったっけ? まったく覚えてないんだよね」

 その疑問に、クロエは俺の頭にお湯をかけながら答えた。

「ひどい話だ。それほど迂闊だと、いつかひどい目に会うぞ。良くそれほどのことが出来るものだ。そんな迂闊者には教えてやらん」

「なんだよケチだな。……まあいいか」

「なんとも気楽なことを」

「お前がそんな変な契約を迫ったとも思えないしな。借金するための保証人になれだとか。親から貰った駐車場を売れだとかさ。いくらぼんやりしてる俺でも、たとえ意識がなくたって、そんなことにハンコなんか押さないよ」

「訳がわからん」

 そう言って、それまで背中を洗っていたクロエが後ろから抱きつくようにして俺の股間を掴んだ。
 俺はそれに驚いて、背中の筋がビキリと変な音を立てた。

「ちょ、ちょ、ちょ、そこは自分で洗うって! あっ、なにすっ、まっ……」

「せっかく妾の眷族になったのだ、下の世話くらいしてやらんとな。これでよいのか?」

「や、やばいって! ……あうっ!」

「すんだか? これで終わりか?」

「な、なんてことするんだよ!」

「そんなに興奮するでない」

「するよっ! めちゃくちゃだよ!」

「しっかり出しておいてよく言うわ」

「そりゃ、こんなことされたらそうなるだろ! どこでこんな事覚えたんだ!」

「今に決まっておろうが」

「決まっておろうがじゃないよ。なんで当たり前の事みたいな顔してるんだよ」

「男と女が一緒になったら当たり前のことではないか」

 まったく、どんな育ち方をしたのだろう。
 まさか精霊の契約に見せかけて、結婚の契約をさせられたんじゃないだろうな。
 とてもじゃないが、怖くて契約の内容なんか聞けなくなってきた。

 娘かペットのようなつもりでいたのに、ひどい裏切りである。
 見た目からは想像も出来ないほど、落ち着きと知識の量があるのだ。
 これならもう一人の大人として扱う必要があるなと俺は思った。

 俺の身体を洗い終わったら、クロエは自分の身体を洗い始める。
 それを見ているわけにもいかずに、俺は身体を拭いて服を着た。
 そしたらクロエの方も洗い終わったので、身体を拭いてやってから服を着せた。

 服を着せたところでやっと俺は落ち着きを取り戻した。
 それで風呂から出て、家の中に入るとアメリアと鉢合わせになる。
 俺の顔を見た瞬間、顔を真っ赤にしてアメリアは作りかけのパン生地を放り出して自分の部屋に入ってしまった。

 ……聞かれていたか。
 そりゃそうだ。
 防音なんて期待するまでもない粗末な作りの家なのだ。

 どう思われただろう。
 俺はアメリアの言う通り、契約に従っただけである。
 少し重い気分になって俺は部屋に入った。

 特にすることもないので、ベッドで横になっていると当たり前のようにクロエが背中に張り付いてくる。

「お主は、あの小娘のことが好きなのか」

「まあな」

「妾というものがありながら、よくそんなことが言えたものだ。あと3年待ってみよ。妾の方が美しい女になろうぞ」

 クロエは本気か冗談かわからないことを言う。
 だいたい昨日会ったばかりで、どうしてこんなに懐かれているのかわからない。
 正直わからないことだらけで、なにから質問したらよいのかわからないほどだ。

 今日の朝、精霊とは死体に取りついた魔力で、成長などしないと納得していたではないか。
 それなのに今はすっかり気分は人間のつもりでいる。
 しばらくしてクロエが、俺の背中でしくしくと泣き始めて驚いた。

 どうやら自分の運命を嘆いているらしい。
 もしかして俺のことを好きなのかと聞きそうになってやめた。
 その態度を見れば疑う余地もない。

 まったくわけがわからない。
 泣かせたままにしても気の毒だと思って俺は言った。

「安心しろよ。俺は好きな女と上手くいったことがないんだ。そしたら俺はお前のもんだぜ」

 もしアメリアに振られたら、クロエと結婚ごっこをするのも悪くはない。
 残りの人生を一人で過ごすというのはつらいからな。
 それにしても人間には好かれないのに、精霊にはやたらと好かれるな。

「期待しておく」

 縁起でもないことを言って、クロエは大人しくなった。
 俺はクロエに聞きたいことが山ほどあった。
 しかしそういう雰囲気でもなかったので大人しくしていたら、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。


 次の日は迷宮の地下12階まで降りた。
 この階にはディアウルフという首の短いオオカミのようなものがでる。
 その牙に噛まれればオリハルコンでも傷がつくという魔物だ。

 しかも、このくらい下に降りてくると敵の実体力が高すぎて、行動できないようにするまでに時間が掛かる。
 さらにディアウルフにはコカトリスの首にあたるような、一撃で倒せる明確な弱点がない。
 だから4・5体出てきた時に、倒しきるまでの攻撃を捌ききるだけの技量がなければこの階での狩りは出来ない。

 それが出来るだけの魔力の使い方に長けた冒険者というと、それはもうほんの一握りだけだと言う話である。
 冒険者家業をするものが多かった昔には、この階で狩りをするものも多かったらしいが、今では俺のエリアセンスの範囲に人の気配はなかった。
 しばらくして最初の気配が現れる。

 敵3体に対してアメリアと俺が魔法で先制攻撃を放った。
 身体が変形するほどのダメージも一瞬で元通りにしてディアウルフはこちらに向かってくる。
 そのスピードも、その巨体からは想像も出来ないほどだ。

 俺はアメリアたちに矛先が向かないように前に出た。
 オーラを発動させると敵の動きがよく見えるようになって、感じる威圧感のようなものが薄れる。
 それを励みにして、俺は先頭の一体に斬りかかった。

 胴体を切り上げるように全力で振り抜くと、敵は空中で真っ二つになる。
 もう一体の敵の攻撃を盾でいなして、最後の敵の攻撃をかわして後ろから斬りかかる。
 残った一体を正面から斬り倒して3体すべてが地面に転がった。

「全然駄目じゃのう」

「そうかな。けっこう余裕のある感じだったけど」

「魔法の使い方がなってないわ。カエデも小娘もオーラと同じように魔法を使えておらん。どうしても全部管理しようとしておる」

「だけどオーラの方だって、まだ全然使いこなせてないんだぜ。いきなり両方の意識の持ち方を変えるなんて無理だよ」

「ま、それもそうだの。しかし今の状態でさっきの魔物の攻撃を受ければ怪我をするぞ。本当にここで練習するつもりでおるのか」

 俺はそのつもりだと答えた。
 治癒の魔法は得意だから多少の怪我くらいはなんでもない。
 治癒の魔法は人間に誰しも備わっている自己治癒能力を強化するものだ。

 これは元の世界の病院に行くよりも効果がある。
 人間は誰でも、どんな病気や怪我も治せる自己治癒力というものが備わっている。
 病院でやっていることは治癒力の助けだが、こっちの魔法は自己治癒能力自体を強化してしまえるのだ。

 俺が使えば、たとえ癌でも治してしまうに違いない。
 癌細胞を体外に排出する力だけを選択して強化すればいいだけだ。
 こっちの世界では、その病気のメカニズムさえわかっていれば直せてしまうのである。

 まあ、その魔法があるおかげでドラゴンがいたりモンスターがいたりするわけだから、一長一短ではある。
 俺たちは夕方になるまで、地下12階での探索を続けた。
 探索を終えてから、ギルドに行って昨日の分と合わせて換金しようとしたら何故か受付の人に止められてしまった。

 少し前から農閑期に入っていたので、昨日あたりから農民の出稼ぎが多くなり、ギルドにある金が減っていて買い取り価格が下がってしまうそうだ。
 しかし日銭くらいは換金しておかないと俺たちだって困ったことになる。
 思案していたら、ギルドの人に農家の人の監視業務依頼を受けるように勧められた。

 地下1階から3階あたりまでで、慣れない農家の人が死んだりしないように見回って欲しいのだそうである。
 この時期は冒険者ギルドにとっても稼ぎ時であるらしく、死人が出たりしたら大変なのだそうだ。
 その依頼にはあまりそそられなかったので、俺は考えておきますとだけ返しておいた。

 どうやら冬の間はあまり稼げそうにない。
 無理をして下に行かずに、クロエに魔法を教わることに力を入れよう。
 出たものは春になってから売ればいい。
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