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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第41話 魔力

 俺は二度目の眠りから目を覚ました。
 アメリアにさっさと起きないさいよと急かされながらベッドから抜け出した。
 共有スペースではクロエがリリーとパンを囓っていた。

「ほう、つまりカエデは迷宮の魔物を倒して生計を立てているというわけなのだな。それならばよい魔法があるぞよ。これはバンシーという妖精の使う魔法を妾が改良したものなのだがの。この世のどんな魔法でも無効にすることが出来る」

「な、なんだって?」

「魔法を無効に出来るなんて便利だろう? そうは思わぬか」

「それは便利とかいう次元じゃないだろ。本当に変な妖精かなんかじゃないよな。いくらなんでも、そんな魔法があったらすごすぎるぞ」

「な、なにを言うておる。おかしな事など一つもないではないか。考えてもみよ。妾は大地の精霊なのだ。大地が炎や水や風の影響を受けるなどおかしいではないか。そのくらいは造作もないことではないか。何をそんなに驚くことがある」

「バンシーというと、精霊魔法のバンシーエレメントのこと? 確かに大地の魔法と言われているけど、精霊がオリジナルの魔法を持っているなんて聞いたこともないわ」

「そうそう、よく知っておるの。なかなかに博識な精霊だ。その魔法を妾が改良したのだ。呼ばれた精霊として、そのくらいのことはしてやらんとの」

『……あやしい』

 思わず俺たち2人と1匹の声が揃った。
 いきなり魔法が無効に出来るなんて出鱈目もいいところだ。

「な、なにを言う! 精霊が魔法を思い付くくらい珍しくないであろう。妾の知っている精霊はみな魔法くらい使えたわ」

「だそうだけど、聞いたことあるか?」

『……ないわ』

 アメリアとリリーがそう答えた。

「た、たまたまの偶然で思いついてしまったのだ。そう胡乱な目で見るでない。思いついてしまったものはしょうがないではないか。そんなことでカエデまで妾を疑うか!?」

「いや、そういうこともあるかもな。だけど、そう簡単に覚えられるものじゃないんだろ?」

「そんなことはない。妾が力を貸せば覚えられる。しかも魔力をどうこうとやる必要もない。必要な時にいつでも発現できる」

「それじゃ、その魔法を俺たちに教えてくれよ」

「うむ。だが、そちらの2人にも教えるとなると……」

「どうしたんだよ。アメリアたちにもしものことがあったら大変なんだ。教えてやってくれよ」

「そうなると、妾から生まれ出でた生き物を贔屓することになってしまう。まあカエデがそこまで言うのなら教えてもいいがの」

「まだ母なる大地のつもりなのか。それじゃ俺に力を貸しても贔屓にはならないのかよ」

「お主は、この大地で生まれたわけではなかろう。も、もちろん、そんな気がするだけだがの」

 あやしい。
 そんなことまで知っているとなると、どう考えても精霊とか言う話じゃなくなる。
 俺はこの世界に来てからアメリアとリリー以外に、その話をしたことはない。

「偉大なる精霊にはそのくらいのことはわかるのだ。そんなに信用ならんというなら、教えてやらんぞ」

「う~ん」

 本当の事を言っている可能性もゼロではない、かもしれない。
 俺は精霊というのは一種、妖怪のたぐいだと思っていたが、もし神聖なもので神様から生まれたものだと言うなら納得できないこともない。

「どうするのだ」

 クロエは疑われたことに少し不機嫌そうな様子だ。
 いくらなんでも怪しいとしか思えない。
 しかし俺は昨日の出会いから、たとえ騙されてたとしてもいいと思えるほど感謝していた。

 だからクロエのことを疑うのはやめることにする。
 男をたぶらかす妖精だとしても、アメリアたちに危害はないのだ。
 それに、人に危害を加えるようなものにはどうしても思えない。

 俺は教えてくれと言った。
 そしたらしゃがめと言われたので、それに従うとクロエは俺の頭に手を置いた。
 クロエの手から直接頭の中に魔法のイメージが入ってくる。

 魔力から産まれた現象を元の魔力に還元し、その魔力を術者の支配から切り離す魔法だった。
 その複雑なイメージが頭の中に鮮明に浮かび上がって、最初からそれを知っていたような錯覚を覚えた。
 魔力が魔法に変わるしくみまでがはっきりとわかる。

 魔力とは実体の前段階のような物で、それが術者の要望したものに変換される。
 その変化する力は曖昧で、魔力は実体と前段階の間をふらふらしているのだ。
 それを魔力側に引っ張る力を持つ魔法だった。

「反則としか言いようがないな」

「魔力の理に基づいた、きわめて原始的な魔法である」

「ところで魔法の名前は?」

「そうだのう。バンシーアークとでも呼ぶが良い」

 なんてこった。
 クロエはネーミングセンスも申し分ない。
 さすが俺の精霊である。

「どういうこと? 今ので覚えられたの?」

「うん。アメリアたちも教わってみてよ」

 怖ず怖ずと差し出されたアメリアの頭にクロエが触れた。
 触れた途端にアメリアの表情が驚きに染まる。

「すごい……精霊魔法を覚えた時と同じだわ」

 アメリアもリリーもクロエが頭に触れただけでその魔法を理解した。
 精霊というのは一体なんなのだろう。
 妖精と契約することで使えるようになる魔法があるのなら、精霊にもそれが出来るのかもしれない。

 クロエは精霊と妖精にそれほどの違いなどないと言った。
 その言葉の意味が示す物とは一体なんなのだろう。

「精霊ってのは一体なんなんだ?」

「魔力には創造という力が備わっておる。日々、人から漏れ出すマナは、本人の知らないところでその力が発揮されることがる。その創造の力によって作り出されたものが精霊であり妖精なのだ。人々の共通のイメージが重なり合って出来たものが妖精。そして魔力が自ら意思を持って集まったものが精霊となる。人から漏れ出た創造の力には、人に対して悪意を持つものもおる。それが悪魔と呼ばれておったり、ドラゴンと呼ばれておったりするだけのことだ。その間に明確な境などない」

 つまりこの世界をファンタジーたらしめているものこそが魔力というわけか。
 確かにドラゴンや精霊が進化の過程から生まれてくるとは思えない。

「だから精霊には魔力を操る力があるのか」

「飲み込みが早くてよろしい。魔力から産まれたものなのだから当然そういう力を持つのだ。もちろんそれを自覚できる精霊などは、ほんの一握りだがの。だから妾がオリジナルの魔法を持っていてもまったく不思議はないのだ」

「ん? そうか?」

 なんだかどさくさに紛れて誤魔化そうとされたような気がする。
 だが今の話がどれも聞いたことないものばかりだったので、頭が混乱して上手く考えられない。
 それにしても魔法を使うために必要な願望は、精霊のどこから湧いてくるのだろう。

 やっぱり死んでしまった身体の持ち主なのだろうか。

「それよりもさっさと迷宮にいかんのか。パンはこれ以上食いとうないぞ」

「それじゃ、今日も一稼ぎしてくるか」

 俺は迷宮の地下9階へと続くゲートを開いた。
 そういえば俺は魔法を使う時にクロエに触れてないといけないわけで、戦ってる最中はクロエの力を借りられないことに気が付いた。
 いくらなんでもクロエを担ぎながら戦うほどの体力はない。

 もしかして俺はすごく早まったことをしたのではないのだろうか。
 それとも触れてなくとも力が借りられたりするのだろうか。

「なあ、魔法を使う時にお前に触ってないと力は借りられないんだよな」

「当然だ」

「あれ? 俺もしかしてとてつもない失敗をやらかしたか?」

「どうしたというのだ」

「だって俺はオーラと魔法剣がメインなのに、連れて歩けない精霊と契約しちゃったよ。本当はもっと小さい精霊と契約しなきゃいけなかったんじゃないのか」

「なにを言うておる。この迷宮に出てくる程度の魔物くらい、お主ほどの力があれば何てことはない。それが出来ないというのなら、妾が出来るように指導してやろう。そういう力の貸し方でも問題ないな?」

「ん? そんな力の借り方もあるのか?」

 よくわからないが、そういうのもありならそれでもいい。
 ちょっと焦ったが、問題がないならそれに越したことはない。
 さっそく現れたコカトリスに俺は剣を引き抜いて斬りかかった。

 斬れ味を増した剣のおかげで、コイツくらいは力尽くでぶった斬っても問題ないのがわかっている。
 俺は助走を回転の力に変えて、その首を斬り飛ばした。
 そのままコカトリスは数歩あるいてから地面に倒れて魔結晶と魔石を残した。

「全然なっとらんのう」

「どこかまずいところがあったか?」

「せっかくのマナを無駄遣いしていて、その上まったく生かし切れておらん。お主は前世で不本意な終わり方をしたのであろう? それで人生の結末を変える力を授かったというのに、そのような使い方をしていてはもったいない。マナは魔力に変えてしまうと意思の影響を受けてしまうのだ。それを力尽くで押さえ込んでしまっておる」

 何故そんなことまで知っているのだ。
 それとも前世での不幸から、マナを多く持って生まれてくる例は少なくないのだろうか。
 いやいや、前世だとかなんだとかそんなものを観測できるわけがない。

 しかし手心を加えると言われたのに、この世界に来てからも俺は別段ツキがあったわけでもない。
 クロエの話はそのことの説明にはなる。
 神様にもらったのはそんなものだったのかと、俺は自然と納得できてしまった。
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