第39話 召喚
5日ほど地下8階でゲイザーを相手にして過ごした。
現在の手持ちは9000シールほどである。
今日はこれで装備を新調することにする。
前よりも街の中心地に近い場所にある装備を扱う店に入る。
そこでミスリル製の装備を中心に見て回った。
まずは俺用のミスリル製プレートアーマーを2500シールで買った。
銀色に輝くプレートを革のベルトで体に留めるものだ。
プレート部分は体の前面だけで、背後にはベルトしかない。
金属部分は多くないのにやたらと値の張る装備だった。
それと鉄で出来た丸形の盾とミスリル素材のホームベース型の丸みを帯びた盾を買う。
丸いのは俺用で、ホームベース型の方はアメリア用だ。
両方で2500シールほどだった。
片手剣ならバランスが良くて邪魔になりにくい丸形の方が優れている。
アメリアは剣で戦うわけではないので、より体を隠しやすいものにした。
ミスリル製品は鉄とは比べものにならないほど高い。
あとは俺用に長めの剣を一つ買った。
磨き込まれた光を放つ、ミスリルで出来た両刃の刀身が綺麗な剣だ。
アメリア用にも護身用として小さめの剣を買う。
両方で2800シールだった。
これだけの買い物で、ここ2週間ほどの稼ぎがほとんど消えてしまったことになる。
宿にも泊まらず、質素な食生活をして貯めた金があっさりと消えていくことにむなしさを感じた。
手甲とブーツを鉄製品にしても良かったのだが、馴染むまで時間が掛かるので今回は買わないことにする。
手や足などは防御面よりも動きやすさと使いやすさを重視したほうがいい。
そこを鉄で固めることにそれほど意味が見いだせなかった。
剣と盾の代わりに両手剣を使うという手もある。
剣と盾を買った金で刀に自動修復の加工をしても良かったのだが、魔法を使ってくる敵相手には盾があった方が何かと便利だろうと思って今回は見送っている。
主要な買い物を終えたあとは、アメリアと色々な店を見て回った。
新しいマントや服などの必需品や、アメリアが欲しがったアクセサリーなどを買った。
俺は青い小さな革のベルトを見つけたので、リリーにプレゼントしようとアメリアと相談して買う。
こっちのペットは放し飼いが基本らしく、その首輪を付けることにリリーは抵抗がないようだった。
俺はその首輪を付けたリリーの姿を見て、一人ニヤニヤしながら楽しんでいた。
あまりにも面白かったのでついつい笑いがこらえられず、それを見とがめられ馬鹿にしてるわねと言われてしまった。
あんまりからかってもあとが怖いのでこれくらいにする。
買い物を続けているといつの間にか初心者向けの通りに出たので雑貨屋に入り、いらなくなった装備を売り払った。
アメリアに買ってもらったものなので、大切にしたいという思いもあったが、アメリアが荷物になるから売りましょうというので仕方なく手放す。
壊れていたこともあり、本当に二束三文の値段にしかならなかった。
そのあとは街外れで食料品を買い込んでから家に帰った。
午後はアメリアがパンを焼くというので俺は何もすることがなくなる。
家に必要なものも全部作ってしまったあとだから、俺はリリーを連れて切り倒しておいた木を細かく切って家に運んで過ごした。
翌日は朝から地下9階に再挑戦する。
ワープゲートを地下9階に開いてそれをくぐった。
すぐにコカトリスを見つけたので、アメリアに魔法は使わないように言ってから俺が剣で斬りかかった。
前の安物とは違い、今度の磨き抜かれた剣は多少抵抗を感じたくらいで魔物の体に吸い込まれた。
一撃では倒さずにわざと攻撃を盾で防いでみるが、盾はしっかりとその衝撃に耐える。
体が浮き上がるほどの攻撃にもへこみ一つつかなかった。
舞い上がる羽毛が付いても、鉄の盾は何事もなく無事だった。
これだけ装備が整えばコカトリスはそれほど怖い相手でもない。
攻撃対象が俺だけならそれほど苦戦することもないだろう。
アメリアが疲れたように見えたので、夕方前には引き上げて俺たちはギルドへと向かう。
エリアセンスを最大範囲で展開して周囲の動きを探りながらギルドの入り口をくぐった。
ギルドで換金を済ませると、受付の人がランクを2つ上げてもいいと言ってきた。
これで俺たちはランク5ということになる。
地下9階より下で問題なく稼げるのがランク5になるための条件だそうだ。
これでもう中級者としても上の部類ということだ。
魔法を覚えるのが早かったおかげで探索の進みが良かったからだろう。
俺たちはまだもう少しくらいは下を目指せるはずである。
だからランク6くらいなら近いうちになんとかなりそうだ。
しかしそれ以上となると停滞はあるかもしれない。
ここまで来てランク8というのは相当なものだとわかる。
地下9階より下は、相当な時間をかけて戦いに慣れないと難しいだろう。
俺たちが星の増えたタグを受け取ってギルドから出ると、ちょうどダレンがアビーを連れて換金に来たところだった。
ダレンはアビーの他にもう一人竜人を連れていた。
「こんにちは、ダレンさん、アビーさん」
「おっ、もしかしてカエデか? 久しぶりだな」
「後ろに連れているのは?」
俺が紹介を求めると、ダレンは後ろを振り返ってちょっと照れ臭そうに笑った。
「ああ、新しい仲間がまた増えたんだ。アビーと一緒になってから何もかもが上手くいくようになってよ。何故か俺のギルドランクはかなり高いらしくてな。最近、ちょっと難しい依頼をこなしたのよ。アビーは頭が良くて骨董品捜しの依頼を簡単に片付けちまいやがった。しっかり者で頼りになるぜ。それで金が出来たから新しい仲間を奴隷商から買ったのさ。最近じゃアビーは魔法も覚え始めたんだぜ」
なるほど。
三人分を換金していたからランクが上がって、難しい依頼も受けられたのだ。
依頼の中には腕っ節だけではどうにもならない依頼だってある。
ある程度の腕があれば、あとは物事を解決する力だけでもランクは上がるのだ。
そういう探偵仕事のなかから難しい依頼を受けて解決したのだろう。
ダレンは本当にいい人を見つけたものだ。
それで当初の目的通りハーレム作りに精を出しているというわけか。
頼れる味方を得たことも、目標に向かって真っ直ぐな純粋さも羨ましかった。
俺にはこの世界で味方と呼べるのはアメリアくらいしかいない。
なんだかダレンを見ていると気分が落ち込んでくる。
羨望の気持ちを抱えながら、俺はダレンたちと別れて家に帰った。
俺は何もする気になれずベッドの上に身体を投げ出してぼーっとしていた。
アメリアには今日の科学の授業はなしにしようと言ってある。
ちょっと早すぎるけどもう寝ようかと思って昨日の作り置きのパンを取りだした。
そしたら隣の部屋から話し声が聞こえてきたので聞き耳を立てる。
「カエデったら羨ましそうにダレンのことを見てたわ。きっと女を沢山はべらせるてるのが羨ましくてしょうがなかったのね。あれから魂が抜けたような顔をしてるもの。よっぽど羨ましく映ったのよ」
「男の人ってそういうものなのかしら。カエデも沢山の女の人を回りに置きたいと思ってるの?」
「そうよ。当たり前じゃない。絶対普通よりもそういう思いは強いはずよ」
好き勝手なこと言ってらと思って俺は聞き流すことにする。
アメリアも俺の気持ちなどまったくわかっていない。
どうしてそういう結論になるのか、リリーの思考過程がまったくわからない。
「私に買ってくれたこの首輪も奴隷を持ちたいという願望の表れね。こんなものを私に付けさせて何を考えているのかしらね。そのうちアメリアにも首輪を買ってくるわよ。きっとどこかに繋がれて好き放題な事しようとするに違いないわ」
あの野郎、いまだにそんなことを言い出すのかと俺はカチンときて立ち上がった。
これ以上好き放題言わせておけば、俺の名誉は地に落ちる。
重たい体を引きずるようにして、俺はアメリアの部屋の扉を開けた。
「きゃあ! 何考えてるの! ノックもしないで入ってくるなんてどうかしてるわ。どういうつもり!?」
アメリアは寝間着なのか、肩を出した生地の薄い服を着ていた。
その肩をシーツを持ち上げて隠した。
俺が言い訳すべきか苦情を言うべきか迷っていると、アメリアが本気で怒っていることに気が付いた。
「出て行って。何度言ってもわからないのね。最低よ」
なんだかその拒絶に俺はひどく打ちのめされてしまった。
あまりの冷たい声に、俺はなにも言えなくなってアメリアの部屋のドアを閉じる。
どうしてそんな態度になるのか、俺には見当も付かない。
俺はさらに重くなった体を引きずって自分の部屋に入りベッドの上に体を放り出した。
肩をちょっと見られたくらいであれほど激高されると、さすがに悲しくなってくる。
アメリアに拒絶されただけで嫌になるような孤独感を感じた。
その孤独感にさいなまれて、この世の終わりのような気分になった。
男と女だからこそ、わかってもらえないものがあるのは仕方がない。
だけどダレンのあれを見た後だから余計に悲しくなる。
この歳で寂しさに、これほど打ちのめされるとは思わなかった。
いや、前の世界では一人でいたから寂しいなんて感じる理由もなかっただけだ。
久々にipodが欲しくなる。
音楽でも聴いて気分を紛らわせたいが、すでに使えなくなって久しい。
静かな部屋で隣からはヒソヒソ声が聞こえてくるという最悪の状況しかない。
俺はベッドから立ち上がると、行き先もろくに考えずワープゲートを開いた。
娼婦でも買いに行くかと考えながら足早にそのゲートをくぐった。
ゲートの先で目の前にあったのは召喚士ギルドだった。
そうだ、打率ゼロの俺が女に期待するから間違いなのだ。
最初からこうすれば良かった。
もう馬の小便でもいいから心の許せる相手が欲しい。
もし何が出たとしても必ず契約しようと俺は心に決めて足を踏み出した。
召喚士ギルドのなかはすでに明かりもなく真っ暗だった。
その中で受付だろうと思われる女の人が後片付けをしていた。
すでに召喚士たちは帰った後らしく、俺を見た受付の人は誰か残ってないか見てきますと言って奥の方に入っていった。
いつか来た祭壇では火が炊かれている。
結局ギルドに残っていたのはとうに引退した元召喚士の爺さんだけだった。
その爺さんにどういう精霊に来て欲しいのか心の中から祈れと言われて、俺はその通り祈っている。
爺さんと一緒に魔方陣の回りに座って、味方になってくれる精霊が欲しいと、俺は何度も何度も祈っていた。
しばらくして魔方陣が光り出して霧が吹き出した。
前はこんな感じではなかったはずだけど一体どういうことだろう。
その霧が人の形に収束して、呼び出された精霊が姿を現した。
虚ろな俺の目に映ったのは小さな少女の姿だった。
また女かと項垂れていたら、その少女が口を開いた。
「妾は偉大なる大地の精霊である。其方の望みを申してみよ」
俺はなにも言えなくて、口の端を吊り上げながらその姿を見ているだけだった。
輝く二つの瞳がそんな俺のことを見下ろしている。
その瞳は見たこともないほどに透き通って、力強い輝きを放っていた。
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