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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第38話 返り討ち

 俺は離れたところで待たせていたダレンと合流した。

「たぶん、今行けば解放してもらえるでしょう。足元を見られないように金はあまり持ってないと言ってください。それでもいけるはずですよ」

 今なら管理人も普通の精神状態にないし、そこに付け込めば解放するはずだ。
 ダレンは今しがた俺の出てきた小屋の中へと入っていった。
 しばらくして管理人の男と一緒に出てきて、そのまま奴隷が使っているであろう建物へと入っていった。

 俺は見つからないように距離をとってダレンが出てくるのを待った。
 しばらくしてダレンが一人の竜人を連れて出てくる。
 かなりみすぼらしい格好をした竜人だった。

 どうやら上手くいったらしい。
 そこから少し離れたところで俺たちは合流した。

「上手くいったぜ。これも全部カエデのおかげだ。紹介するよ、この人がアビーだ」

 ダレンに言われてアビーが一歩前に出た。
 確かにダレンよりも体が一回りほど小さい。
 それでも前もって言われていなければ男に見えてもおかしくはない。

「初めまして、アビーと言います。この度はお陰様で解放してもらうことが出来ました。ダレンさんが次の仕事まで世話してくれるそうで、お二人にはなんと感謝してよいのか……」

「俺は何もしてませんよ。ちょっと手伝っただけです」

 アビーは物腰の柔らかい、しっかりした感じの人だった。
 対応もそつが無くて育ちの良さを感じさせる。

「それで、いくらとられましたか」

「500シールだ。大した額じゃない。本当に助かったぜ。明日からは俺たちは一緒に迷宮に入ることになったんだ。こう見えてアビーは大地主の娘だったのよ。それを迷宮なんかに入らせちまって申し訳ねえが、俺にはそれしかねえからな」

 これだけしっかりした人なら良いパートナーになるだろう。
 俺は頼れる人が出来たダレンを羨ましく思った。
 2人を宿屋に送ってから、俺は家に帰った。

 家では既にアメリアたちが風呂から上がったところだったので、俺も風呂に入る。
 風呂から上がるとアメリアが夕食を作って待っていてくれた。
 なんだか本当に夫婦生活みたいだ。

 アメリアが作ってくれる料理はどれも美味しい。
 贅沢を言えばちょっと量が少ないくらいだ。
 この世界の俺の体は、まだまだ成長期を終えたばかりでいくら食べてもお腹が空いてしょうがない。

「明日は8階よりも下に降りてみようと思うんだけど、どうかな」

「2人でそんなに下まで行って大丈夫かしら。地下8階より下は相当腕のある人だけが行くそうよ。私たちにはまだ早いんじゃないかしら」

「そんなことないわよ。カエデにはまだ余裕があるもの。どうせ攻撃を受けるのはカエデなのよ。今のままじゃ全然余裕があってもったいないわ」

 俺とリリーの賛成2アメリアの反対1で俺たちは明日からは地下9階に行くことになった。


 いつも通りの支度を終えて、翌日はすぐに地下9階へと降りる。
 この階ではゲイザーに加えてコカトリスという魔物が出る。
 大きな鶏のような体で、炎を纏った羽毛を飛ばしてくる。

 すぐにそのコカトリスが1体現れた。
 来ることはわかっていたので、俺はファイアーボールをたたき込んだ。
 敵はそれにひるまずに真っ直ぐこちらに走ってきて、くちばしで俺の首を狙ってくる。

 俺はかわしざまにその首に向かって剣を振った。
 その一撃でコカトリスはバランスを崩しただけだった。
 しかも飛び散った羽毛か体に触れた部分から炎が燃え上がる。

 鎧のおかげで肩は無事だったが、少し髪の毛の先を焦がされた。
 なかなか手強い。
 くちばしには魔力の気配もあったので、オーラのようなものを纏わせているのかもしれない。

 攻撃が当たれば鎧くらいは貫通する可能性もある。
 木の盾では羽毛に燃やされてしまうので、俺は盾に冷気を纏わせて戦うことにした。
 オーラも身体能力の向上よりも防御寄りに展開することにする。

 そしてコカトリスに走り寄り、もう一度同じ場所に剣を振るう。
 それで何とか首をはね飛ばして、魔物は地面に転がった。
 そのまま燃えるようにして灰になった。

 少ししてコカトリス5体が現れた。
 アメリアのキネスオーブが一直線に敵に向かって飛んでいき爆発する。
 コカトリスの羽毛が舞い上がって、炎がまき散らされる。
 爆発を受けてもまだ実体を失わない2体がこちらに突っ込んできた。

 俺は上から降ってくる炎を盾で防ぎながらレイスファングを放って1体の胴体をえぐる。
 そしてもう1体の胴に剣で切りつける。
 振動の魔法剣を使っているのにいまいち切れ味が出ない。

 羽毛による防御力というよりは、魔物の実体力による堅さのようなものを感じる。
 この安物の剣ではそろそろこのあたりの魔物で限界なのかもしれない。
 頑丈にだけは作ってあるので折れてはいないが、刃こぼれがおきてしまった。

 まだ2体は平気で動いている。
 俺はもう一度走り寄って、助走を付けた一撃で1体の首を刈り取った。
 もう1体には蹴りを放って距離を取った。

 そこにアメリアのキネスオーブが飛んできて爆発を引き起こした。
 その一撃で最後のコカトリスは力を失った。
 倒れてから灰になるまでに一瞬の間がある。

 このコカトリスは羽毛が断熱材のかわりになっているのか炎に強い。
 かといって魔法剣・冷気なんか使えば羽毛が引っ付いて剣が使えなくなる。
 5体のコカトリスは魔結晶と魔石、それに白い石灰が固まったようなものを落とした。

 どうやら一撃で倒そうとするのは剣への負担が大きくなりすぎるので無理らしい。
 一撃で倒せないとなると攻撃をかいくぐる必要が出てくるわけで、かなり面倒が増える。
 しかし特に気にとめずに俺たちは地下9階の探索を続けた。

 次に1体のコカトリスが出たので、俺はアイスランスを放った。
 俺の放った氷の塊が突き刺さっても怯みもせずに、コカトリスはこちらに向かって突っ込んでくる。
 その攻撃をかわしながら一撃、そしてコカトリスの背を追うようにしてもう一撃。

 それで首を斬り落としてコカトリスは地面に転がった。
 そのまま塵になって消える。
 切りつけた時に剣ががたついて上手く力が伝わらなくなってしまった。

「そろそろ、この剣じゃ限界かな。切れ味も頑丈さも足りないよ」

「安物だったから仕方ないわね。買い換えましょう。今ならもうちょっといいものが買えるわ。それに革の鎧じゃ危ないかもしれないし、もうちょっと金属の付いたのを買いましょう」

 そんなことを話していると、コカトリス5体の気配を見つける。
 すぐさま近づいて、まずは俺とアメリアが出会い頭に魔法を放つ。
 しかし爆風に巻き込まれて倒せたのは1体だけだった。

 爆風を逃れたコカトリスが4体こちらに突っ込んでくる。
 さすがに俺の胸くらいまである魔物が一団となって突進してきたのは恐ろしかった。
 俺は横に飛んでかわそうとするが、1体の攻撃を避けきれずに盾でガードした。

 大きな衝撃が走り、木製の盾がゆがむ感触と共に俺は後ろにはじき飛ばされる。
 地面を転がりながら、俺は追撃してきた1体の胴を全力で切り上げて両断する。
 そしてすぐに状況を把握して俺は焦った。

 残った3体のうち2体がアメリアに向かって突進を始めたのだ。
 アメリアとリリーが悲鳴を上げている。
 俺はオーラを足に溜めて、足も砕けよとばかりに2人の方へ跳躍した。

 そして剣を捨て、腰の刀を一閃させて2体のコカトリスの首をはね飛ばす。
 砂煙を上げながら地面を滑るように勢いを殺していたら、残った1体が俺からアメリアへと攻撃の矛先を変えたのが見えた。
 俺はもう一度足にオーラを溜めてアメリアに飛びつくようにして、振り下ろされるくちばしを左肩で受けた。

 その衝撃に俺の体が浮き上がる。
 しかし、その衝撃を受け流すようにして俺は刀を回してコカトリスの首をはねた。
 不自然な体勢だったというのに、やはり刀は切れ味が違う。

 コカトリスくらいでは抵抗も感じないほど簡単に斬れる。
 全力で振り回してもたわみも歪みもないほど強靱だった。
 俺は刀を鞘に収めて、アメリアの上から体をどかした。

「大丈夫?」

「うん、ありがとう。カエデは大丈夫だった?」

 そう言って俺の肩を覗き込んだアメリアが小さな悲鳴を上げた。
 ぶつかった左肩はしびれて感覚が無い。

「大変! 血が出てるじゃない。ちょっと待って、すぐ直すわ」

 見れば革の鎧が裂けて、その間から血の滲んだシャツが露出していた。
 アザにはなるだろうが、見た感じでは大した怪我じゃない。

「それよりもここを離れた方がいいわ。アメリアはすぐに家にゲートを開いて」

 リリーの指示でアメリアはワープゲートの詠唱を始める。
 その間にリリーが俺の肩に治癒の魔法をかけてくれた。

「また命を助けられたわね」

「猫の死体を生きていると仮定したならな。感謝してもいいんだぜ」

「馬鹿ね。アメリアの方よ。私はこの体を失っても死んだりしないわ」

 俺はリリーを肩に乗せて、剣と盾を拾ってアメリアの作り出したワープゲートをくぐった。
 すぐにアメリアによって革の鎧を脱がされ、傷の治療が始まる。

「よくアメリアを庇ってくれたわね。とても見直したわよ。勇敢だったわ」

 リリーが出来の悪かった弟子を褒めるような口調で言った。
 俺は最初からけっこう勇敢に戦っていたけど、と思うが口にはしない。

「ところで、アメリアはさっきので惚れ直したりしてない?」

「……どうかしらね」

 アメリアは軽口に取り合うつもりはありませんという感じだ。
 俺は盾と鎧を確認してみて、この装備では9階は無理だと悟った。
 盾はへこんでひびが入っているし、鎧はコカトリスの攻撃を受けたところが裂けている。

 9階に行くのなら、剣も鎧も盾も相応のものが必要なようだ。
 それにしても買い換えるとなると、動きやすくて軽くて気に入っていた、この鎧を手放すのが惜しい。
 作りも良くて見た目も格好良かった。

 盾は安いもので済ませすぎていたので未練はない。
 そもそも魔法を受けるように作られていない、木の板に取っ手が付いただけのものだ。
 バランスを取るために持っていたようなものだった。

 この際だから、しばらくは8階で稼いでいい装備を新調しよう。
 それとアメリアにも盾のようなものが必要だなと考える。
 それが揃わないことにはちょっと下に行くのは危険だ。

 稼ぎは良くなっているから、揃えるのにもそれほど時間は掛からないはずだ。
 適当な判断で9階に降りて危険にさらしてしまって、アメリアには悪いことをしてしまった。
 俺たちはそのまま昼くらいまでダラダラ過ごして、昼ご飯を食べてからまた迷宮に戻った。

 そしてまたゲイザーの相手をする。
 ゲイザーなら壊れかけた装備でもなんの問題もない。
 そのまま夜までの時間を迷宮内で過ごした。
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