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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第37話 手紙

 俺はレイスファングを魔法剣に応用してみることにした。
 風の牙が走る魔法で、近距離向きだから戦いながら発動できないか試してみる。
 剣に集めた魔力に魔法のイメージを乗せるとそれは簡単に発動した。

 剣は届いていないのにゲイザーの柔らかい表面に3筋の爪痕が走る。
 一応成功はしたが、このままでは魔法剣で直接斬った方がダメージは上だ。
 理想は切り口を大きく引き裂いてくれる魔法になることである。

 ダレンが加わって以来、MMORPGでいうところのタンクがダレンでメイジがアメリア、俺はアタッカーというような役割になっている。
 別に話し合ってそうなったわけではなく、俺が突っ込んでくる敵をかわすと、それがダレンに群がるというだけだ。
 俺はもうゲイザーの攻撃など食らいもしないし、精神への干渉も受けることがない。

 だから俺は半ば作業的にゲイザーを切り刻んでいるだけだ。
 魔法剣の練習にはいいのだが退屈でしょうがない。
 そこで俺は視界に入った敵に適当な魔法を撃つことにした。

 ラヴァバレットはあまり派手さがないので、ファイアーボールとバーストファイアを適当に放つ。
 ファイアーボールは爆発の中心近くに巻き込めばゲイザーでも一撃で倒せた。
 バーストファイアは中心で当てても端っこで当てても炎に巻き込まれるだけでダメージは変わらない。

 この魔法は爆発の直前までイメージを作れば発動できるので、やはり教わった魔法はオリジナル魔法よりも楽で効果が大きい。
 これも先人の知恵という奴なのだろう。
 俺は派手な爆発を起こすファイアーボールの方が気に入った。

 俺が魔法を使い始めたので敵の殲滅が早まり、探索のペースも速くなる。
 敵が感知に引っかかったところから魔力を貯めて、出会い頭にそれを放つ。
 俺はこの世界に来てからやっと魔法での攻撃手段を得た。

 この日の成果は一人あたり300シールを超えた。
 出来ればこのお金で一般魔法の中級まで覚えてしまいたいが、アメリアに魔法を教える方を優先することにする。
 今日はやっと作り終わった風呂も使うことが出来る。

 俺は帰ってすぐ竈に火を起こして鍋に水を入れた。
 ちょうどいい温度になったところで、服を脱いでお湯を浴びる。
 風呂から上がってさっぱりしたところでアメリアとリリーにも入るように言った。

 もし覗いたら一生奴隷と言い渡されたので、俺は大人しく自分の部屋にいた。
 それにしてもアメリアが近くで裸になっていると想像するだけで興奮してくる。
 しばらくして湯上がりのアメリアが現れた。

「本当に気持ちよかったわ。よく作ってあるわね」

「本当にいいものだわ。女目当てで行ってたんじゃなかったのね」

 毛が濡れていつもより二回りくらい小さくなったリリーもご機嫌だった。
 それから食事を済ませて、アメリアに魔法と科学を教えて一日が終わった。
 最近は温かいスープやパンが食べられるようになっている。

 アメリアもワープゲートを使って買い物に行けるようになったので便利になった。
 近くを流れてる川が上流だから洗濯も家の近くで出来る、薪にも困らない。
 適当に場所を決めた割には最高の立地だった。


 それから一週間ほど経って初級魔法をアメリアに全部教えた頃、それは起きた。
 いつものようにダレンが換金を済ませて帰ってくると、その手に手紙を持っていたのだ。
 お前にだぜと言って俺に渡してくる。

 そのまま換金したお金を三人で分けて俺たちは別れた。
 俺とアメリアは緊張した面持ちで顔を見合わせる。
 いったん迷宮内を経由してから俺たちは家に帰った。

 そして恐る恐る手紙を開けてみる。
 俺たちの予想通り、その手紙はブランドンからだった。
 まさかダレンに換金を任せてバレるとは思っていなかったので、思わず手が震える。

 俺は字が読めないのでアメリアに読んでもらった。

「この前はとんだ手違いで不快な思いをさせてしまい申し訳なかった。近況報告をさせてもらうと、俺は乱暴な冒険者に襲われたらしく、地下室で目覚めた時に大怪我を負っていた。その傷のせいで数日のあいだ生死の境を彷徨い、なんとか生還するに至った。俺を裏切って、自分たちの命惜しさに凶悪な冒険者に降伏したあの屑どもは逃げ出していたが、捕まえて魚の餌にしてやった。俺から逃げることなど出来るわけがない。もしお前らがこの前の非礼を忘れてくれるというのなら、俺からは連絡を取ることも、もちろん危害を加えるようなこともあるわけがない。是非、あの日の迷惑を掛けたことは忘れていただきたい」

「どういう意味かしら、コイツは何が言いたいの?」

「手紙の文面は、これが敵対派閥に持ち込まれても、自分の不利にならないように書いたものだろうね。逃げることは出来ないから、怪しい動きをしなければ見逃してやるって意味のことが書いてあるんだと思う」

 文字のゆがんだ感じから相当の恨みを買っているのがわかる。
 しかし俺たちの存在が奴の地盤を揺るがしかねないから手を出せないのだ。
 今は問題が明るみに出ては困る事情を抱えていて、休戦を申し出てきたのだろう。

 それにしてもローとゲイツは殺されてしまったのか。
 ランク8の冒険者が逃げても捕まえられるということを暗に俺たちに言いたいのだろうが、相当腕の立つ奴につてがあるに違いない。
 俺が蹴飛ばしたせいで二週間も寝込んだというのもたぶん事実だろう。

 それは連絡が遅れたことに対して言ってるのだ。
 ブランドンは俺たちがワープゲートを使えることもたぶん知っている。
 だからこそ弱みを知っている俺たちを刺激したくないと考えているのだ。

 ローとゲイツがあっさり降参したおかげで、向こうは相当に俺の実力を買いかぶっているはずだ。
 だから俺たちに手を出さない事を選んだのは間違いがない。
 こうなるとコソコソしていてもしょうがないな。

 普通の冒険者として生活するしかない。
 警戒を怠るわけにはいかないが、怪しい動きは控えた方が良いだろう。
 ギルドでのランクの上がりがあまりに遅ければ、買いかぶっていたことに気がついて手を出してくる可能性があるかも知れない。

「どうしてバレちゃったのかしらね」

 リリーがうなだれた様子で言った。

「ダレンのランクの上がり方が早すぎたんだ。魔結晶を三人分毎日換金してたらさすがに目立ったのかもね。これからは怪しい動きを控えよう。あと俺たちは狙われてもワープゲートがあるし、俺のエリアセンスがあれば怪しい動きもわかるけど、ダレンはそうも行かないから別れた方がいい。迷惑を掛けることになる」

「そうね」

 アメリアが少し寂しそうに言った。
 それでもダレンは行動がすべてブランドンに筒抜けになってしまうからしょうがない。
 すでに代理を立てて換金するのは危険が増すだけなのだから、一緒に行動するメリットもなかった。

 迷宮では誰にも合うことはないし、家がばれる心配もまず無い。
 換金の時だけエリアセンスで警戒しておけば、向こうも手は出せないはずだ。
 ブランドンが今の地位を守ろうとする限り、それでしばらくは問題無い。

 俺はワープゲートを開いてダレンの使っている宿へと飛んだ。
 話を付けておくならなるべく早いほうがいい。
 宿屋の店主に聞くと、すぐにダレンの泊まっている部屋を教えてくれた。

 鍵もない部屋を店主が開けると、ダレンがゴザの上で横になっていた。
 寝ているのは赤黒くテカったゴザの上だ。
 俺がよくそんなものに触れるなと感心していると、ダレンが俺に気が付いた。

「ん? あんたは誰だ?」

「カエデですよ」

 どうやら俺とアメリアしかいない状況でないと俺だとわからないらしい。
 ダレンはそうかと言って、のっそりと上半身を起こす。
 それで何の用だというので、俺は事情があってパーティーを解消したい旨を告げる。

「そうか。そりゃ残念だな。まあいいだろう」

 それきりダレンには何の感傷もない。
 あっさりとパーティーを解消することを納得する。

「最後にちっと頼みがあるんだけどいいか」

 俺はもちろんだと快く頷いた。
 だがダレンは言い淀んでなかなか続きを言おうとしなかった。
 この男にもためらうことがあるのかと俺は意外だった。

 外で話そうやというので、俺はダレンについて宿屋の外に出た。
 外に出るとダレンが歩きながら口を開いた。

「あのよ。俺もこの街に来たのはついこの間なんだが、それがちょっとある女に惚れちまってな。それでちょっと頼みがあるのよ。その女ってのが訳ありで、戦争に巻き込まれちまって奴隷としてこの国に連れてこられた女なんだ。ひでえ話なんだけどな、その奴隷商は男だか女だかもわからねえで売っちまったわけよ。そのせいで今じゃ力仕事なんかやらされてるってわけだ。だから俺はそいつを自由にしてやりてえんだ。買った時の倍の値段を稼げば奴隷ってのは自由になれるそうなんだが、買った奴が業突く張りで、なかなか値段を言いやがらねえのよ。それで俺の代わりに交渉してもらいてえんだ」

「なるほど。力になれるかわからないですけどやってみますよ」

 俺は道すがらダレンから詳しい話を聞いておいた。
 そして俺は人を雇って木の伐採をやってるという男の住む建物へとやって来た。
 使っている奴隷を住まわせておく建物と、管理人の男が住んでいる小屋がある。

 俺はダレンを外で待たせておいて、その小屋の中へと入った。
 小屋の中ではやせた男が一人で夕食を食べていた。
 その男はいきなり小屋に入ってきた俺を見て立ち上がった。

「なんだお前は。何しに来やがった」

「いえ、ちょっとギルドの依頼で調べ物を頼まれたんですよ。ここで奴隷を使ってる男が契約違反をやってるかどうか調べて欲しいと言われましてね」

「そ、そんなもん、どこでもやってるだろ」

「ええ、そうなんですよ。だけどそれを見逃してもらうにはねえ。あるでしょう。色々とね」

「なんだ。いくら欲しいんだ」

「あなたのとこは随分派手にやってますよね。ちょっとやそっとの額じゃ見逃せませんよ。それと俺はあくまでも下調べですから、この後で本格的に調べられることになるでしょう。ここにはどのくらい期限を過ぎてる奴隷が使われているんですか」

「そりゃあちょっと詳しいことはわからねえが。そんなことおめえに教える理由はねえ」

「ですけど、そのあたりをはっきりさせておかないと後で困ったことになりますよ。なにせ今回は大がかりな摘発をやるそうですからね。期限を大きく過ぎてる奴隷は見つかる前に少しでも解放しておいた方がいいでしょう」

「そうか。そりゃいいことが聞けた。それでおめえはいくら欲しいんだ」

「5000シールは欲しいところですね」

「ふざけやがって、そんな金を払えるわけねえだろうが。これから奴隷を解放してやるとなったら新しいのを買わなくちゃなんねえんだ。そんな情報流したくらいで5000たあ、ふざけたことを言いやがる」

「いいんですか。依頼人にあなただけ特別丹念に調べるように言ってもいいんですからね。ここで金をケチると仕事が出来なくなるんじゃないですか」

「へっ、馬鹿な野郎だ。俺はお偉方にも顔が利くんだよ。少しくらいなら見逃してもらえんだ。期限を過ぎた奴隷だけ放り出しちまえば、何を恐れることがある。お前の報告くらいは握りつぶせるんだよ」

「後悔しても知りませんよ」

「おととい来やがれ、馬鹿野郎め」

 俺は管理人の親父にたたき出されて外に出た。
 どうやら上手く騙せたようだ。
 これで駄目なら面倒なことになるところだった。

 奴隷を使う側もいれば売る側もいるわけで、こういった期限を過ぎても奴隷を解放しないような奴に対しても何らかの処置があるはずなのだ。
 そうでなければ奴隷商の商売があがったりということになってしまう。
 映画を真似しただけの適当な作戦だったが上手く行ってよかった。
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